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『幸せで在れ』 Written by Takumi


 こちらを見て絶句する彼女。
 同じように、自分も言葉を失った。
 噂で聞いていた、自分と容姿が瓜二つの少女。だがまさかここまでだったとは。
 鏡に映したようにどこまでも相違ない自分達。
 だがしばらくして僅かな違いに気づく。
 彼女の腕、肩幅、そして瞳。
 一見似ているようで、その実彼女からは紛れもない生気が漲っていた。それは自分が生涯求め、得られなかったもの。
 ク…と気づかれないように唇を噛む。
 次いで全てを吹っ切る思いで微笑んだ。
「カリエさんですね」
 頷いた彼女に笑みを深めた。

 広い寝室。漂う匂いはこの病身を配慮してのもの。
 高い天井を半ば呆けたように見上げながら、先ほどまでのやり取りを思い出していた。
 カリエ・フィーダと名乗った少女。
 その彼女に自分が最初に抱いた感情は嫉妬だった。
 この身体さえ健やかなら……そう思い続けて十三年が経つ。だが今日目の前に現れた彼女は、その自分の願いを意図もたやすく手に入れていた。
 同じ顔。同じ声。
 何もかもが似通っていて、なぜ中身はこうも違うのか。
 もどかしさに途中何度拳を握りそうになっただろう。
 だがその度に、目の前で突然降って湧いた不幸に文句を言いつつもくじけない彼女に勇気づけられる自分がいたのも事実で。
 気がつけば、彼女のようになりたいと思っていた。
「アルゼウス様」
 遠慮がちに掛けられた声。顔を見なくてもわかる。
「どうした」
 エド、と心配性の従者に声を掛ければ「そろそろお休みの時間です」とまるで乳母のように進言してくる。
 苦笑しつつも言われるままにベッドに収まり傍らに立った美丈夫を見上げた。
「良い子だね」
「………そうでしょうか」
 誰のことか、言わなくても伝わったようだ。
 だが珍しく微かに眉根を寄せたエドの様子に、おや、と目を見開いた。
 彼が第三者に対してこうも感情を露わにするのは珍しい。たとえどんな気にくわない相手だろうと、我関せずで常に涼しい顔をしているのに。
 クスッ…と笑えば、何がおかしいんですか、とばかりに細められた目が向けられる。
「ちょっと来て」
 そんな彼に手招きして、ベッド脇に近づいた彼に少し屈むよう頼む。
 言われるままに従った彼の額をさすった。
「アルゼウス様」
「ごめん…だってすごい縦皺だったから」
 クスクスと笑えば微かに照れたような、怒ったような顔をするエド。
 こんな彼の表情が見られるのも、自分だけの特権だった。
 だが、これからは違う。
 彼女も…カリエも、今後おそらくエドのこんな表情を見る機会があるはずだ。いや、もしかしたらこれ以外の表情を見られるのかもしれない。
 ふと思いついた不安。
 昼間に感じた嫉妬心に、再び戸惑いを感じずにはいられない。
 今まであえて見ようとしなかったこと。
 事実を突きつけられる恐怖に、たまらず自身の身体を抱きしめた。
「アルゼ……」
「エド…僕は怖いんだ」
 怪訝そうな彼の言葉を遮り、告白する。
 これまで微かに感じていたこと。そして今日彼女を目の当たりにして確信したこと。
「怖いんだよ……」
 彼女が僕の変わりに生きていくと知って。
 まるで自分の存在が全て闇に葬られるようで。はじめから、僕という人間がいたことを否定されるようで。
「もし彼女がこれから僕として生きていくなら……今までの僕はどうなるんだろう?」
 エドに聞いても仕方のない質問だったのかもしれない。
 だがこのときばかりは誰かに弱音が吐きたくて。
 病魔に侵されたこの身体と必死になってつき合ってきた、僕、アルゼウスという人間は。
 みんな忘れていくのだろうか。
 カリエを、僕と思い。
 僕自身がこの命を絶ったときも、誰一人として気づかずにいつも通りの日々を過ごしていくのだろうか。
「私は覚えています」
 そしておそらく彼女も。
 静かに、それだけを言ったエド。
 その言葉を受け、しばらく呆けた自分の頬に涙が流れたことに気づいたのは、優しく触れたエディアルドの指先がそれを拭ったからで。
「……っ………」
 堰を切ったように涙が溢れた。
 エドのシャツを掴み、その胸に顔を押しつける。
「死にたくない…死にたく、ないんだ……」
 はじめて口にした弱さ。
 本当は笑ってなんかいられなかった。いつでも、叫んでしまいたかった。
 たった十三年という生涯。
 あまりに短すぎる一生は、何を残すことができただろう。
 僕は、僕で在れただろうか。
 強く自分を抱き返す腕。伝わるエドの心音。
 一筋涙が流れる度に、背中を優しくエドがさする度に、気持ちが落ちついていく。
 ふと、一瞬頭をよぎった彼女の日溜まりのような笑顔。
 カリエ・フィーダ。
 あなたには、ずっと幸せであってほしい―――。


全然幸せそうじゃない背景色(爆)
いや、それ以前にいったいいつのリクエストだ……一ヶ月前だぞ(爆死)
人には散々期限を過ぎただのなんだの言っておいて、自分がそれ以上時間掛けてたら意味ないだろ(-_-;)
というわけで、今回は作品云々と言うよりもまず先にこれまで待ってくださったあさきさんにお礼と謝罪を……本当にお待たせしました。
で、今回はお題がアルゼウス様と言うことで。
本当に緊張しました!というか、ただひたすら「綺麗に」書くことに専念したんですが!!(笑)
俺の文才が追いつかなくてこんな結果に……泣くなぁーー!!(>0<)
でも少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 

 

 

 

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