Thank you 14000hit over!
This counter getter is Simada

『帰国の時』 Written by Takumi


 久々に踏む母国の土。
 飛行場から遙か遠くに望む山々は、最後に見たときと同じく悠然とそこにそびえ立っていた。
 変わらない風景。変わらない空気。
 懐かしさにしばし放心しつつもタラップを降りる。
 ワッ……とばかりに歓声が上がった。
 その声に一瞬長旅以上の疲れを感じそうになるのをグッと堪え、手を挙げそれらに丁寧に応える。
 変わらない風景。変わらない空気。
 それらと同じように、なにも変わっていないと思っていた。
 だが数年前と違うことは、そんな自分を迎える観衆がいるということ。
 眩しいほどに焚かれるフラッシュ。突きつけられる無数のマイク。
 それら全てに柔和な笑顔で返しながら、レッドバロンこと、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンは早くも今回の帰国を後悔していた。
 そもそも今回の帰国は彼の本意からではない。
 英雄好きの皇帝ヴェルヘルム二世によって半ば強制的に呼び戻されたのだ。
 戦況は飽くまで優位というわけではない。いや、むしろ次第に苦しくなっていると言ってもいい。
 その最中の帰国。
 もし相手が皇帝でなければフザけるなと言いたいところだ。
 だがそうは思いつつも、その実彼にもわかっていた。
 だからこそ、自分のような英雄が必要なのだと。苦しい戦況の中、それでも一人の英雄の存在は群衆に勇気と希望を与えるから。
「これじゃあ人身御供だな……」
 周りの記者達に聞こえないよう、一人呟く。
 すると待ってましたとばかりにマイクを近づけ息巻く連中が口々に言葉を発した。
「今回もまたスコアを伸ばされたそうですが、ご自分ではいかがお思いですか?」
「連合国との戦況はどうなってるんでしょう?」
「この度の帰国で皇帝との夜会も予定されているそうですが、それに関する意見は?」
 よくもまぁ、こうも次々と質問が浮かぶものだ。
 冷めた目で彼らを見つめ次いで、ふわり、と笑む。
 そうすることで少しはこの場が和むことを知っているから。そしてこの笑顔こそが地上での自分を守る唯一の武器だとわかっているから。
「あ、の……」
「そうですね、今回の帰国がますます我が国にとって有益であることには間違いないと思います」
 都合のいい返答は、だがそれを聞き入れた群衆には素晴らしく英雄に相応しい発言だったのだろう。割れんばかりの拍手と歓声がそこここで上がった。
 なにも知らない人達。
 彼らは幸せだ。滅び行く祖国の姿を目の当たりにしないで済む。
 フッ…と自嘲的な笑みを浮かべたレッドバロンだが、すぐさま近くで上がった黄色い歓声に思わず顔が引きつる。
「マンフレート!こっち向いて〜!」
「レッドバロン様!私をさらって〜!」
 声の発信源はタラップのすぐ側。山のように押し掛けた女性達から発せられていた。
 警備員達が必死に彼女たちを押さえつけているが、それも時間の問題だろう。
「………………」
「貴公は女性達に絶世の人気を誇っておられますから」
 思わず押し黙り足の止まったレッドバロンを見下ろし、羨ましそうに言う記者の一人になんとか苦笑を返す。
 だがその顔はいつもの柔和なそれではなく、明らかに青ざめていた。
 そう、レッドバロンは女性嫌いだった。
 特に理由は思いつかないが、あの黄色い歓声と熱気が苦手なのだ。
 捕まったらとって喰われると半ば本気で思っている。
「私はそういうことに疎いもので……」
 ははは、と乾いた笑いを返せば驚いたような記者の顔。
 おやおや、とばかりに肩をすくめてスーツの内ポケットから一枚の写真を取りだした。
「ご存じありませんか?世界各国のエースのブロマイドが今巷で大流行してるんですよ」
「………は……?」
「どこから流れたのか……とにかくここ数ヶ月で飛ぶように売れてますよ。その中でも貴公の写真はいくら焼き増してもすぐ売れるほどの人気らしくて」
 そういう私も持ってるんですが、と取りだした写真を恥ずかしそうに見せてきた。
 なんてことだ。
 たしかに言われてみれば、最近基地に送られる手紙に不特定多数の女性からの物が多かったことに気づく。
「失礼……ちょっと見せてもらえますか」
 了解を得てから手に取り、まじまじと大人気と言われたそれを見つめた。
 ブロマイドの中の自分はなんとも嬉しそうな顔をしている。
 おそらく出撃前かあとのものだろう。
 どこにカメラマンが隠れていたのか。だが腕前だけは恐ろしく良いのがわかる、実際の自分より遙かにいい男の自分がそこには写っていた。
「参ったな……」
 ここにゲーリングがいてくれたら……そう思わずにはいられない。
 基地一の女好きの彼がこの場にいたら、ここの全ての女性を彼に任せてしまうのに。
 だがいくら思っても彼は未だ前線近くでロタールとよろしくやっているのだ。考えるだけ無駄である。
「マンフレート!マンフレート!!」
 狂ったように名を呼ぶ女性達。
 半ば恐怖を感じながら、だがここで無視するとあとで何をされるかわからないということで、ぎこちない笑みを浮かべながら女性の群に向かって手を振ってみた。すると……
「きゃーーー!!!」
「私よ!私に振ったのよ!!」
 なんともすごいことになってしまった。
 しかも興奮した彼女たちが…彼女たちが……警備員を押しのけてこっちに走ってくる!
「やっ…ヤバい……!」
 冗談だろ、とばかりに当たりの記者達を蹴散らして走ってはみたが。
 辺りは身動きもできないほどの人混みなのだ。そう簡単に抜け出れるはずがない。
 だが対する彼女たちは集団ということもあり、弾丸のごとくこちらに近づいてくる。
 その様は興奮を通り越して、既に狂気に近いモノがある。
「ご、ごめんなさい!悪いけど……通してください!」
 人垣をかき分ける。
 だが周りの記者達も面白がってなかなか道をあけてはくれない。
 くそったれ!
 そんな彼らをギッと睨み付けるが背後から迫る熱気を思うとそうのんびりしていられない。そう思い、足に力を込めたとき……
「もう離さないわよ……ッ!」
 ドンッとばかりに背後からタックルをかまされた。
 誰が女性はか弱く儚いモノだなんて言ったのか。地面に倒れ込みながら、レッドバロンはどこの誰ともわからない理想家に毒づいた。
「ぐえっ……!」
 だが悪夢はここで終わらない。
 一度倒れてしまえば、あとに続いた集団が嬉々としてその上に飛び乗ってくるのは必須。
 ほどなくして、レッドバロンを下敷きに大きな山ができあがった。
「やめっ…どいてください!息が…くる、し……」
「やだやだ!マンフレートは私のものなんだから!」
「あぁん、バロン様〜。今日こそは私のこの熱い想いを受け止めてください〜」
「痛っ…髪の毛引っ張らないで!ちょ、どこ触ってるんですか!」
「いった〜い!誰よ、人の髪引っ張るの!」
「マンフレート、お願い、結婚して!」
 こうなるとなにがなにやら。
 さすがの記者達も慌てて彼を救出しようと試みるが、なんせ女性の数が半端じゃない。その中から彼を見つけだすのは砂山から砂金を見つけだすようなモノである。
「た、助けて……ロタール!ゲーリング!」
 悲痛までのレッドバロンの叫びが、今日も青々と晴れた空へと届いた。
 彼がこの瞬間、二度と帰国をしないと心に誓ったかは神のみぞ知る。


災難バロン(笑)
「本国でのもてまくりでほのぼのなお話」というリクエストだったんだが……うん、一応モテモテだ(笑)←ほのぼのは?
個人的には大惨事の中、記者の一人がどさくさに紛れてバロンに悪戯してほしいな〜、なんて思ったりして(笑)
いや、そんなことはともかく!
今回も前回に引き続き、UPが遅れに遅れたことをお詫び申し上げますm(_ _)m
特にシマダさんは久々の新人さんってことで、自分的に気合いを入れまくってたんですが(笑)
予定が合わないまま約一ヶ月放置……あぁ、まだ当HPに訪問してらっしゃるんでしょうか?(爆)←それすら危うい
とはいえ、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに「ゲーリングとロタールがよろしくやってる」ってのはあんまり深読みしないでください(笑)

 

 


戻る