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『存在理由追求』 Written by Takumi


 ピシャッ――…
 しなった鞭が容赦なく乳白色の肌を刺した。
 苦痛に歪む秀麗な顔。その様子を恍惚とした様子で見下ろす青年。
「素晴らしいよ、ヴィクトール」
 耳元で囁けば、ダークグレイの瞳が殺意の色も濃く向けられる。
 ぞくり、と背筋を掛け昇ったのはおそらく快楽で。
 この完璧なまでの生き物を自分の思う様になぶれるという事実に、フォルカー・ビュールマンは自分の分身が高まるのを覚えた。
「こ、んなことをして……無事で…済むと、思ってるのか……」
 掠れた声で、だが少しも自尊心を損なわない口調で自分を脅す青年は、荒縄で縛り上げられた手首をもどかしげに動かす。
 全ては極めて偶然な、それでいて必然性をも匂わす事態からはじまった。

 深夜の寮内。隠れて酒を飲みながら、仲間内での小さな賭け。
 あのヴィクトールを組み伏せることができるか、と酒に酔った勢いで誰かが口にした。
 悪酔いだった。
 簡単だ、と自ら口にしたのはまるで遠いどこか別の次元でのことのようで。
 やれるもんならやってみろ。協力ならしてやる、と笑いながら言った仲間達にいつもの強がりな性格が裏目に出た。
 その勢いのまま部屋を出て、彼の君の部屋へと向かう。
 彼の同室者達が揃いも揃って実家へ一時帰省しているのは前もって知っていた。全員ヴィクトールの低気圧にやられたんだ、と言っていたのは誰だったか。
 扉の前。赤い顔をつきあわせながら、下卑た笑いを浮かべる。よし、という合図で一斉に部屋へと飛び込んだ。
 ベッドの上で驚いたように飛び起きる彼。
 それを押さえつけ、用意していた荒縄で両腕を縛るまでにはそう時間は掛からなかった。
 そして今に至る。
 フォルカーの手にした鞭で何度か打たれたヴィクトールが、乱れた髪の間だから怒りに染まった瞳を向けていた。
「いい気味だ……」
 ろれつの回らない口調で言えば、なぜか不思議な感情がこみ上げてくる。
 乱れた寝間着、晒す素肌。
 普段の彼からは想像もつかない様子に唾を飲み込む。そうさせているのは自分だという高揚感にたまらず笑った。
「どうだ、クリュガー。いつも馬鹿にしてる俺達になじられる気分は」
 位高げな物言いは更に自分を興奮させ、周りで起こる忍び笑いに不思議と勇気づけられる。
 ピシャッ…と何度目かの威嚇で鞭を鳴らす。
 父親から直々にもらった鞭。それが今日はひどく高らかな音を響かせることにますます気分が高まった。
「知っているか」
 父親とは似てもにつかない、女のように細いと評された顔を綺麗に歪めながら腰を屈める。間近に迫った美貌の主を目前に捕らえ、ますます笑みを深めた。
「お前の友人……バンフォードと言ったな。奴もこの鞭で散々虐めてやった…最後は自ら喘いで俺を欲しがったが」
 くく…と歪めた唇から心地よい笑いを零す。
 幾らか脚色された内容は、だが一瞬にして本当に鞭を受けて淫らに喘ぐユージィンの艶めかしい姿をフォルカーの脳裏に浮かばせた。そしてそれは次いでヴィクトールへと変わる。
 ドクッ………
 その姿を認めた瞬間、それまで微かに頭をもたげていたソコが本格的に勃ち上がりかけた。
 だが今のフォルカーにはその感触すら自体を楽しむ要素の一つでしかない。
 隠すこともなく、ファスナーを下げ天を向いた自身をヴィクトールの前に晒した。
「お前も欲しいんだろ?」
 微かに掠れた声。首筋を伝った汗。
 周囲の仲間が息を飲んだのがわかった。だが誰も制止の声をあげない。
 呆れているのか、それとも自らの欲望を行動に移したフォルカーに自身を投影しているのか。
 だがそんな彼らの空気を、静かな一言が両断した。
「…………ゲスが」
 ダークグレイの瞳の奥が蒼くちらついている。怒りが最高潮に達したときの合図だった。
 だがそれを知らないフォルカー達が激怒するのは当然と言えば当然で。
「鞭一つであいつが大人しく従ったと思ってるのか。だとしたら大した軽頭だな」
 単にお前達相手に余計な力を使いたくなかったんだろ、と最後には笑って見せたヴィクトールに鞭を持つフォルカーの手が震えた。
 その手でぎこちなく晒した自身をズボンに納め、鞭を鳴らす。
「おい」
 地を這うような声が、不似合いな女顔から発せられる。
 びくり、とそんな彼を見返す仲間がこっそりとお互いの身体を小突き合う。
 どちらも切れるとヤバい性格。だとすれば、その間に運悪く存在する自分たちはまさにその被害を一番被ることになる。
 だが、だからといって今この場から去ることは至難の業で。
 お互い不安を隠せない瞳をただひたすら交わすだけだった。
「そいつを動けないように押さえつけろ」
「お、おい……」
「フォルカー、いくらなんでもそりゃ……」
 言いかけた言葉は、だが氷よりも冷たい彼の瞳に見据えられたことで喉奥で情けなくも消え失せた。
 普段の彼。それこそ、ユージィンを相手にしたときの彼は激昂したときもそれなりに熱く年相応に怒りの表情を作る。
 だが今は。それ以上の怒りを感じているくせに、それを伺わせない静かな口調がよけいに怖い。彼がどれだけ内で感情を殺しているかがわからないだけに、下手な深読みばかりが先立つ。
「俺がやれと言ってるんだ」
 聞こえないのか、と先ほどよりも高らかに鞭を鳴らすフォルカー。
 それを見てフッと笑ったのはヴィクトール。
 なにがおかしい、とばかりに鞭を鳴らす手が止まり静かな瞳が向けられると縛られた身体を窮屈そうによじらせ、一言。
「哀れだな」
「…………!」
 空気が一変する。
 震える唇を一瞬手で覆い、フォルカーがなにかを叫んだ。
 よせ、やめろ、と周囲の仲間達がそんな彼を取り押さえる。
 はじまりは些細な賭けだった。
 だがいつからか、それが自分の存在理由の追及になっていたことをフォルカーは知らない。
 親からも捨てられた存在。光を浴びるのは兄ばかり。
 知らないうちに自分に抱いていたコンプレックス。強がっていても、その身体は愛を求めていたのに。
 こうすることでしか、誰かを虐め、憎しみを自分に抱かせることで自分の存在を確認することができなかったから。
「離せッ……!」
 掴まれた腕を振り払う。背後から羽交い締めされ、手にしていた鞭を取り落とした。
 父親からもらった、鞭。
 唯一の肉親の絆をその手から離した瞬間、フォルカーの身体が崩れ落ちる。
「おい…フォルカー!」
 遠くで自分を呼ぶ声。自分を求めている声。
 それはなんて気持ちよく、心温まる響きだろう。
 遠のく意識のなか、だが最後に見たのは、縛られてもなお自尊心を失わない強い輝きを持った瞳をした青年の姿。
 彼のようになりたかった……
 吐露した想いは、だが薄れていく視界と同じように、やがて消えていった。


どうしてこんな展開になってしまったのか……俺にもわかりません(爆)
ただ覚えているのは書きにくくて書きにくくて…気合いを入れて書き始めたはいいが、すぐ躓いちゃったことぐらいか(^-^;
しかもエロで頑張ろう!と思っていたのが、途中いきなりシリアスでやろう!と考え直して(爆)
どのあたりかわかりますかね……いや、わかってもらわなくていいんですけど(笑)
これだから計画性のない奴は…と言うより、今回は明らかにリクエスト内容が普通じゃないから(笑)
なんできりかの言ってくるリクエストっていつもこうなんだよ。
前回の1万hitではクリス&サイモンで、今回はこれ。しかもメールには「本当は意表のついたリクエストしたかったんだけど、結局思いつかなかったよ」と(爆)
十分意表つきまくりッスよ!これ以上なにを求めるんスか!?
………といった感じです(笑)
とはいえ、これも試練。
ありがたく受け取ります。ちなみに、だからといって作品がそれに応えるものになるという保証は持ちません(笑)←おい
でも1人でも多くの人が楽しんでくれたら幸い。
この内容で楽しむ人もどうかと思うけどね……(遠い目)<そして言い訳があるから長いあとがき(-_-;)

 

 

 

 

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