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『我らに祝福を』 Written by Takumi


 彼女を見かけたのは、本当に偶然だった。
 いや、彼女が「あの彼女」だと気づくには幾らか時間が掛かった。
 深夜を過ぎた街のはずれ。人気など無いに等しいそこで彼女を見つけたのは、果たして天の采配か。
 すぐさま路地裏へと身体を滑らせ、遠方の彼女の様子を伺う。
 褐色の肌、琥珀色の瞳は変わらぬ美しさを放ち。思い出の彼女よりもやや華奢な身体がこれまでの苦労を物語っていた。
 ――ラクリゼ
 唇を動かし、その名を呼ぶ。何度口にしたかわからない、愛しい名前。
 聞こえるはずもない小さな声。だが、彼女は振り返った。
「………………」
 一瞬驚きに見開かれた瞳。微かに動いた唇が自分の名を象ったのを認めた。
 サルベーン、と。
 その事実に微かな喜びと勇気を与えられ、身を潜めていた路地から姿を現した。同時に駆け出す彼女。
「逃げるのか」
 その背中に数年ぶりに声を掛ければ、ぴたりと足が止まる。変わっていない、負けず嫌いな性格。
 そんな反応に笑みを浮かべながら、立ち止まった彼女に向かって数歩足を進めれば、苛立ったように振り返る彼女が目の前。
「やっと見つけたっていうのに」
 薄情だね。
 笑えば黙れと琥珀の瞳が威嚇する。
「今更なんの用だ」
 寒気がするほどに美しい様。かつてその全てを自分の手中に収めていたとは思えぬほど、 目の前の彼女、ラクリゼは更なる美貌を纏っていた。
「用?用ならいくらでもあるじゃないか」
 再び笑う。
 この笑みが好きだと言った唇は、今はただ引き結ばれ甘い言葉の一つも紡ぎそうにない。
 笑みが苦笑に変わった。
「それとも思い当たる点が多すぎてわからない?」
「…………捜すなと、あれほど言ったはずだ」
 苦々しげに言うラクリゼがフイッと顔を背ける。
 だがそんな憂いの表情すら、彼女の陰の美を引き出せる要素の一つであることを、当の本人は知らない。
 だからこそ、惹かれた。
「そう言われて大人しく聞き入れると思ってるのか?」
 近づいてその肩を掴む。薄いそれに別れてからの数年がやけにリアルに伝わった。
 ある日突然、目の前から消えた彼女。
 書き置きもなにもなく、それこそ煙のように姿を消した。
 前日に睦言を交わしたことなど、身体を重ねたことなど全てが嘘だと思えるほど完璧に、彼女は自らの存在を消していった。
 愛してると交わした言葉。好きだと言っては触れた唇。
 いつもと変わりない日常だった。失踪をするなんて微塵も感じさせないほど、彼女はいつも通りだったはずなのに。
「どうして捨てた」
 私を。
 長年胸の内に溜めていた言葉を吐き出す。
 彼女が逃亡したと知ったときは愕然とすると同時に激しい怒りに襲われた。だがそれも時が経つにつれ、今はこんなにも穏やかな気持ちで彼女と対峙できる。
 人間にはいくらでも適応能力があると言ったのは誰だったか。
「君には答える義務があるよ」
「…………離せ」
「逃げないと約束するなら」
 どうする、とその琥珀色の瞳を覗き込んだところで、わかった、と小さく返答される。
 ゆっくりと慎重に手を離せば、まるでぬくもりを確かめるかのようにその場所を撫でるラクリゼ。
 胸が苦しいのはきっと驚いているからだ。
 その光景に痛む胸中をそんな理由で無理矢理納得させる。
「捜している」
「……なにを?まさか生き別れの兄弟ってわけじゃないだろ」
 笑い飛ばそうとしたところで、続いた彼女の台詞に失敗した。
 赤い唇がその場の雰囲気に不似合いなぐらい艶艶しい。
「私の花嫁を」
 言葉を失うとはこういうことらしい。
 妙に冷静に自己分析しながら、言われた言葉を反芻する。花嫁、たしかに彼女はそう言った。だが記憶にある彼女は間違いなく女性でヘテロセクシャルだった。では今の言葉は一体。
「どういう意味……」
「答える義務はない」
 先ほどのこちらの言葉を使っての皮肉か。
 言った唇が綺麗な弧を描いた。
「だが」
 そんな彼女が言葉を続ける。こちらにはただそれに耳を傾けるしか術が残っていない。
「お前とは敵対することになる……それだけは言っておく。私はもう、女神のもとを去った身」
「ラクリゼ」
「もう二度と会わない。お前も、私に構うな」
 その笑みがなにかを隠しているような、釈然としない感じを受けると思ったのは都合のいい解釈だろうか。
 目の前で鮮やかすぎるほどの笑みを見せるラクリゼ。
 一方で改めて別れを言い渡され、この関係に完全なる終止符が打たれたというのに。動けない自分がいるというのは全くもって予想外だった。
 数年間、彼女に再会したときのことを思って何度も頭を整理してきたはずが。
 どうしてあんなことをした、と問いただそうと思っていた。この腕にその身体を再び抱きしめようと思っていたのに。
 実際に彼女を目の前にするとそんなことを考える余裕もなく、ただ言われた事実に呆然とするだけだった。
「それだけだ」
 そう言って背を向ける彼女。歩き出す。遠くなる。
「…………!」
 考える前に、身体が動いていた。再び腕に感じた、懐かしい体温。匂い。
 耳に届く彼女の声。微かに震えたそれは、果たして怒りからか、それとも……
「………なんの真似だ」
「今だけ…ほんの少しで良いから」
 どうかこのままで。
 強く抱きしめれば、だが抵抗する様子は見られない。大人しく成すがままにされている彼女。
 ああ…、と思う。
 たとえ明日からは敵対する身だろうと。
 この一瞬だけでも、かつてのように互いの気持ちを感じさせてほしい。
 女神のもとを去ったと言った彼女。
 だが今だけは。
 どうか私たちに僅かばかりの祝福を―――。


話せば長いのだが。俺はどうもこのサル&ラクカップルに妙な偏見があるらしく。
俺の中でこの2人の位置づけというのが……なぜかラクリゼ=ニューハーフだったりする(爆)
しかもなぜか村の禁忌に触れ、かつ、その罰ということで去勢されザカール村を去らずにはいられない状態に陥ったラクリゼと、そんな彼とラブラブだったサルという設定が……(-_-;)
で、今回の冒頭部分。
ちょうどサル&ラクに興味を持ち始めた頃に書いていたものだったんですが、それにもしっかり「彼」と描写されてて(爆)
今回も最後の最後までどうしようかと迷ったんですが(笑)←迷うな!
やはり万民に合う話を、ということでラクリゼ姉さんは無事女性になれたんですね。おめでとう(笑)
でも前置きがどんなに長かろうと、結局話はこんなものに(爆)
わけがわかんねーよ…一応リクエストでは純愛シリアスだったんだが。
どこまでクリアできてるのやら(^-^;
とはいえ、長い間お待たせして本当にすみませんでしたm(_ _)m<かんかん
あとは少しでも楽しんでもらえれば幸い。

 

 

 

 

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