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『天翔けるバカ収録現場2』 Written by Takumi


 ぼんやりとした明かりに包まれた部屋。
 微かな時計の音を聞きながら、声をしぼませた老婦人がおどおどと目線をさまよわせた。
「あ、あの、勝手とは思ったのですが……」
 そんな婦人を、漆黒の瞳が殺気を含んだ状態で睨み付ける。
 傍らでそれを見ていたリックの背中にゾクッと悪寒が走った。
 と同時に、それまで一言も発しなかった形良い唇がさも憎々しげに開かれる。
「お節介な婆だな」
 シン…としたのは一瞬。すぐさま、怒りで顔を赤らめたリックが今にも掴みかからん勢いでロードに詰め寄った。
「なっ……おまっ……ごほっごほごほ……!」

「カ―――ット!」
 監督の声が響くと同時に、それまで静まり返っていたスタジオ内に再び生気が蘇る。
 スタジオ・スカイパラダイス。
 無事初回放送を終えたドラマ『天翔けるバカ』は好調の視聴率を打ち出しながら、ほぼ成功と言っていい支持を得ていた。
 今日はシリーズ4回目のロケである。
 ストーリーとしては敵地へ偵察へ向かったリックとロードが運悪く民家へ墜落し、助けてもらったご婦人によってロードの実家の様子が明らかになるといったものだ。
 当然今回ロードは始終不機嫌な顔をしていなければならない。
 顔が引きつっちゃうわ〜、と愚痴をこぼすロードを慰めながら、なんとか今回の撮影に挑んだというのに。
 今回は小さなNGが続発で、既に時間は押している。
 ドラマ放映終了後のNG大賞に大いに貢献したことは間違いないが、収録が間に合いませんでしたでは洒落にならない。
 気合いを入れて第二部、老婦人の屋敷のシーンを撮ろうということになったのだが。
 その矢先にこれである。
「大丈夫かね、リック君」
 イスから立ち上がった監督が、今もセット内で激しくむせているリックに近づいた。
「は、い……すみま…ゴホゴホッ……!」
「やだ、全然大丈夫じゃないじゃない」
 それまで仏頂面でベッドに寝ていたロードは、傍らで激しくむせるリックの背中を心配そうにさすってやっている。
 そんな彼に、ありがとうございます、と新人ゆえの律儀さでリックは苦しい息の合間に答えた。
「馬鹿ね、お礼なんか言ってる場合じゃないでしょ。水は?飲めそう?」
「いえ……ごほっ…ちょっとまだ………」
 苦しいだろうに、苦笑すら見せて相手を安心させるのはさすが仮にも俳優と言うべきか。
 いつまで経っても咳き込みから立ち直れないリックに、スタッフ達も心配げな顔でこちらを伺いはじめた。
「参ったな……」
 さすがの監督にも焦りが見え始めたのか。ちらり、と腕時計に目を走らせた。
 だが事態は更に悪い方向へと向かっているのだった。
「やだ、この子熱があるじゃない!」
 素っ頓狂なロードの声に、嘘だろう、とばかりに監督は大きくため息をつく。
 だがそんな反応を見せた監督を無視し、ロードは今もむせ続けるリックを激しく問いつめた。
「ちょっと、いつからこんな状態だったのよ!」
「き、昨日の夜……ちょっと気分悪いなって…でも薬飲んだし………」
「体温計ないの!?誰か都合してきなさいよ!」
 おろおろとこちらを見ているスタッフに怒鳴りつけ、次いでリックを振り返る。
「あんたもあんたでしょ!どうして昨日熱があるってわかってたら連絡しないのよ!」
 看病くらい行ってやったわよ、と憤慨しているロード。根っからの姉さん肌はどうもこの新人に甘いらしい。
「でもロードさん…ゴホゴホッ……昨日もバラエティーの収録があるって………」
 遠慮がちに言うリックの頭を、ロードが思い切りはたいた。
 おいおい、と傍らで監督がそんなロードの腕をなんとか止めに入る。
「あんたね、今のこの状況わかってんの!?番組落とすぐらいなら血ヘド吐こうが何しようが、共演者に協力するくらいの根性がなくってどうすんのよ!」
 だがそう言うロードは、化粧でうまく誤魔化してはいるがうっすらと目の下に隈を作っていた。
 重苦しい空気がスタジオに充満しているのは誰の目にも明らかだった。
 これ以上時間を延ばすわけにはいかない。だが当のリックは既に顔もほてりがちで、このあとのロードを怒鳴りつけるシーンを演じるのはどう見ても無理だった。
 しかも運の悪いことに、今回リックは出ずっぱりなのだ。
 彼がいなくてはシーンのほとんどが撮れない。
 さすがに焦り始めたスタッフと監督が今後どうするかを検討しはじめたところで、その場に不釣り合いな朗らかな笑いが飛び込んできた。
「あっれー、なに。みんなどうしたよ?深刻な顔しちゃってさー」
 ケタケタと何がおかしいのか、笑いながらパードレがスタジオ入りしてきたのだ。
 しかもその傍らには珍しいことに、
「ロタール君」
「おはようございます、監督。あの、ちょっと現場の様子が見たくて……パードレさんに 無理言って連れてきてもらったんですけど……」
 悪いときに来ちゃったみたいですね、とはにかんだように笑うのは、ドラマ終盤に出てくる予定のロタール・フォン・リヒトホーフェンだ。
 こちらは出演者の中では珍しく、キャラを地でやっている唯一の俳優だ。
 当然リックともキャリアの差を抜きにして仲がよい。
「あれ。もしかしてカウボーイ、ダウンか!?」
 風邪が流行ってるからな〜、と未だむせるリックを覗き込んだパードレが暢気な声を出す。
「おおかた腹でも出して寝てたんじゃねーのか?ん?」
「ああもう!あんたまで風邪ひいたらどうすんのよ。近づくんじゃないの!」
 そんなパードレを押しのけ、ロードが心配げにリックを見るとうっすらとその瞳に涙が浮かんでいた。
「す、すいません……俺、いつもみんなの足引っ張っちゃって………」
「馬鹿ね……」
 肩を振るわせるリックの背中をやんわりとさすりながら、ロードが優しい声音で囁いた。
「あんたが頑張ってることぐらいみんな知ってるわよ。昨日だって遅くまで台詞の練習してたんでしょ?」
 端から見るとまるで母と子である。
 その図をやや離れたところで見ていた監督が、次回のドラマを彼らを使った感動親子物語にしようと思ったかは定かでない。
 自然張りつめた雰囲気を保っていたスタジオに、だが遠慮がちな声が響いた。
「あの……良かったら僕がやりましょうか?彼の役」
 その声に、スタジオ中の視線が集まった。発し源は先ほど現れたばかりのロタールである。
「僕と彼なら背丈もそう変わらないし。それに僕、彼の台詞覚えてますから」
 一気にスタジオがざわめいた。
 ロタール・フォン・リヒトホーフェン。
 彼のその秀才さは芸能界はおろか、学会にまで及んでいた。元々研究の傍ら遊びではじめた芸能界で大当たりし、今に至るのである。そんな彼が、出演するドラマの全ての台詞を覚えているというのは有名な話だった。
 戸惑うスタッフ達に更に話を進める様子は、さながら学会で発表をする学者のようである。
「ひとまず僕を代役にして一通り撮ったあと、顔の部分だけうまく合成すればなんとかなるとおもいますよ。なんでしたら僕がその合成作業しますし」
「いや、でもそれは……君の方だって予定があるだろう?」
 遠慮がちな監督の瞳は、だが今まさに目の前に現れた救世主に喜びを隠しきれないでいる。
 それを察したロタールが、100万本の薔薇の芳香と謳われる極上の笑顔で答えた。
「実は今日明日とオフなんです。時間なら好きなだけありますよ」
 その言葉にグッと監督が拳を握る。
 スタジオ中のスタッフがそんな監督を固唾を飲んで見守っていた。
「良し!リック君の代役にロタール君だ!スタッフ一同協力頼む!」
 うっす、だの、はい、という言葉がそこここで上がった。
 問題が解決したのか、すっかり緊張の解けた監督が心底感謝しきった顔でロタールの手を握った。
「いや、君には本当に感謝するよ!」
「そんな。当然のことをしたまでですよ」
 本当に薔薇の匂いがしそうだ、と浮かれた監督がロタールの笑顔を目の前にぼんやりとそんなことを考えたとき、その形良い唇が次の言葉を紡いだ。
「それでお願いというわけではないんですが」
「おう、なんでも言ってくれたまえ!」
「最後のシーン、ロードさんを解放するところ。兄さんじゃなく僕を出してもらえませんか?」
 一瞬言葉に詰まった監督だが、今ロタールの機嫌を損なっては元も子もない。
 マンフレートには事後承諾という形で納得してもらおう、と内心結果を出したあとオッケーサインを出したのだった。
「ほら、ロタールが代役してくれるんだからあんたは安心して病院に行って来なさい」
 ようやく咳の治まったリックの背中をロードが押す。
 代役とはいえ役を取られたのが悔しいのか、リックは先ほどから仏頂面である。
 そんなリックの頭を再び叩いたロードが朗らかに笑った。
「あんたには最後の最後にスペシャル格好いいシーンが待ってるんだから、それまでにベストの状態作ってればいいのよ」
「わかってますけど………」
「いいからほら。保険書は持った?お財布は?ちょっと待ってなさいよ!」
 リックがお金を持っていないことがわかると、慌ててお金を都合しにその場を離れた。
 てきぱきと面倒を見るロードの勢いに飲まれたリックだが、突如ぬっと横から差し出された腕に驚き目を見張る。
「これ」
 見ると、それまでどこに隠れていたのか。
 共演者のピロシキがなにやら妖しい紙包みを持って立っていた。
「あ、ありがとうございます……なんなんですか?これ」
 大人しくそれを受け取ったリックだが、見慣れぬ物体に訝しげな様子は隠しきれない。
 そんなリックの言葉を聞いているのか、あらぬ方向をぼんやりと眺めているピロシキがぽつりと呟いた。
「薬」
「え?」
「僕が独自の方法で調合した薬なんだ」
 良く効くはずだよ、と相変わらずどこを見ているのかわからない視線で答えられる。
 リックの熱が一瞬下がったことは言うまでもない。
「あ、あの……どうしてそんなこと………」
 気がつけばダラダラと冷や汗を垂らしていた。だがそれを知ってか知らずか、
「趣味なんだ」
 抑揚のない声でそれだけを告げると、ピロシキはフラフラとスタジオをあとにした。
 残ったのは手にした妖しげな薬だけ。
 無事現場に復帰できるのか、リックは数日後の自分の生死を案じてますます熱を上げたのだった。
 とはいえ、ロタールを代役にした第4回目は無事収録され。
 彼自身により合成されたフィルムが、とても合成とは思えない完璧度の高いものだったというのはその後の話である。


さむっ………(>0<)
というのが俺の感想なんですが(爆)
途中でのリックとロードのやりとりが、どうも芸能界版金八先生にみえてしょうがない(爆死)
誰がこんな青春をしろと言った……(-_-;)
というか、久々にこの背景色を見ると目に痛い(爆)
今更ながらきつい配色にしちゃったな〜、と思いました。画面見たあとキーボードみたら緑のライン入って見えるし(爆死)
でも内容も内容なのでこのままでいきます(笑)
しかし……1回目以上になにがオチなのかわかんない話だな(^-^;
こんな記念小説ですが、楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m

 

 


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