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『地上への未練』 Written by Takumi
いつからだろう、こんなに空を愛しく思いだしたのは。
地上から遙か離れた上空で、ふとそんなことを思う。
身体一杯に感じる空気。身を切るほどに冷たいソレにも、空の一部という意識からか恨めしいとは思わない。
空――そこは誰も侵すことのできない聖域で。
地上のあらゆる柵から自分を解放してくれる、唯一の場所。
だからこんなにも、ここが愛しい。
空で死ねたらいいと思えるほど、ここが愛しくてたまらない。
「大尉!」
聞き慣れた怒鳴り声が背後で上がった。
思わず条件反射で肩をすくめる。おそるおそる肩越しに振り返ってみれば、案の定腰に手をついてこちらを睨んでいる弟ロタールと目が合った。
「どちらに行かれるおつもりですか」
微かに苛立った声。
仮にも上司である相手にこうも食ってかかれるのも、やはり肉親という血の繋がりのせいだろう。それが有り難いときもあるが、今のように遠慮なく説教される場合もあるので決して良いこと尽くめというわけでもない。
「えっと…ちょっと、その…哨戒飛行に……」
嘘をつくのが苦手なこの性格が時に恨めしい。
目の前でみるみる眉間の皺を深くするロタールが、こちらが言い終わる前についに怒声をあげた。
「なにを考えてるんですか!」
ビクッと身体が一瞬弾ける。
格納庫の隅でこちらの様子を伺っていた整備士達が微かに笑いを堪えているのが視界の端に映った。
情けないな、と自分を振り返りつつも、そんな隙を与えまいとするかのようにロタールが言葉を続ける。
「まだ怪我は治ってない、機体だって修理が済んでない。ないない尽くしでなにをしようって言うんですか」
兄さん。
2人の関係を表す単語を最後につけた弟に、でも、と哀れな声を出してみる。
「そうは言うけど、今回のはただの哨戒飛行で危険なことは……」
「なにかあってからじゃ遅いんですよ!」
「…………はい」
作戦は失敗。
それどころか、ますますロタールを怒らせてしまった。
やはり原因は一ヶ月前の飛行機事故だろう。運悪く撃墜され、頭に大きな怪我を負った。奇蹟と言われる復帰を果たし、だがそれと同時に受けた後遺症に苦しめられる毎日。
日に日に劣っていく技術を感じるようで、時に無茶と思えるほどの出撃を自分に課す。
内心の焦り。
それを身内であるロタールは薄々感じているのか。
時に異常なほどの執念で自分を地上に留めようとしていた。
「死んでも知りませんよ!」
そのロタールが腰につけた掌を握って怒鳴る。
本気で心配している顔。なにかを微かに感じ、だがそれを認めようとしない苦悩に満ちた表情。
彼をそうまで苦しめているのが自分だという事実に苦笑が浮かんだ。
だがすぐさまそれを笑顔に変える。
「いいんだよ」
「……え………」
「空で死ねたら、それこそ本望だ」
小さく笑った。目の前でこちらを凝視するロタールの顔が一瞬悲しげに歪められる。
それを知っていて、見ないふりをする自分は卑怯だ。
でもこれだけは譲れない想いで。この終わりの見えない無意味な戦いの中で、それは唯一自分を慰めてくれる夢だから。
「お前も、わかってくれるだろ?」
空で死ぬことの幸せを。
この汚れた地上で地に伏して死ぬよりも、自分はこの大気に包まれて死にたい。だから……
「空で死ぬことなんか、全然怖くないんだ」
微笑んで、それから少し肩をすくめて見せた。
ロタールが視線を逸らす。そして聞こえないほどの小さな声で、言った。
「兄さんは馬鹿だ」
子供の駄々のような台詞。可愛くて、つい目の前の大きくなった弟を抱きしめた。
「そうだね……私は、大いなる飛行機馬鹿だから」
クスクスとその耳元で笑う。
すると首筋に掛かる息が小さく溜息をつくのがわかった。
「そんなこと、とっくの昔から知ってるよ」
格納庫で男2人が抱き合っている図。
それは傍目には酷く滑稽なものかもしれない。
だが久々に感じた肉親のぬくもりに、私は少しだけ地上に留まることに未練を覚えた。
レッド・バロン撃墜の、それはほんの数ヶ月前の出来事だった。
幸せ……なのかなぁ?(爆)←最近そういうのばっかだな(-_-;)
でも今回はそんなことよりも、序章後第一発のロタールの台詞。「大尉!」が思いっきり「体位!」になって1人で大ウケ(笑)
なに言ってんだ、ロタール(爆笑)
いや、なんかもう今回はこれで満足(笑)ありがとう、誤変換(=w=)
というわけで、少しでも楽しんでもらえたら幸い。
久々に短いあとがきでスッキリ終わろう(笑)
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