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『宣戦布告』 Written by Takumi


 降り注ぐ日差しが差すほどに強い。
 頭上を照らす太陽をうっそりと見上げ、コルドはターバンの位置を丁寧に直した。
 エティカヤは不毛の砂漠地帯に君臨する。それゆえに、一年を通して日の休まるときがない。
 燦々と降り注ぐ日の光は、砂漠の王者を称えているのだとも言われているが、コルドに言わせれば無駄以外の何物でもなかった。
 額にうっすらと浮かんだ汗を乱暴に拭い、大きくため息を付く。
「この暑さにも、いい加減慣れたと思ったんですけどね」
 宮殿の中、誰にともなく呟いて廊下を歩いているのにはわけがあった。
 本当ならこの時間は好物の氷菓子を口へと運びながら、小姓の何人かを相手に遊戯の一つでもしている頃だ。
 だがその楽しみを全てぶち壊したものがある。
 決して逆らえない、マヤル・バルアンの呼び出しがそれだった。
「まったく…どうしてあの人はああ、人の都合ってものを考えないんでしょうね」
 ブチブチと文句を言いつつも、足を早める自分が情けない。
 小姓頭としてマヤルの命令は絶対だが、それ以外のものが自分の中に存在することを、彼は良く知っていた。知ってるが故に、それに大人しく従う自分を歯がゆく思いながら更に歩調を早める。
 シャラン……。
 そんな彼の耳に涼やかな音が聞こえたのはちょうどそのとき。
 一定の間隔を開けてシャラン…シャラン…と続く音はちょうど廊下の突き当たり、その右に続く通路から聞こえているのだと気付いた頃には通路と通路の交差点で音の主と対面する形になった。
「………!」
 相手の顔を見た瞬間、衝動的につきそうになった舌打ちを堪えたのはさすが小姓頭と言えようか。次いで訝しげに自分を上から下まで眺める視線ににっこりと微笑み、軽く頭を下げてみせれば、誰も内心の毒づきなど気付かないほどの効果を持っていることは彼自身が一番良く知っていた。
「ごきげんよう、ラハジル・ジィキ」
 顔を上げ、未だ自分を見下げる細く切れ上がった瞳に微笑んだ。
 そんな反応に、相手がにこりとも笑みを返さないのは百も承知。
 相変わらずの高下駄に、この暑さの中一片の肌も露出しない身体を覆った薄衣。普段からどう結ってるのだろうと不思議に思えてならない髪型は、この暑さの中で見るといつも以上に奇妙に見えた。
 だがそんな容姿とは裏腹に、本人は至って無表情。何を考えているのかわからない闇色の瞳が冴え冴えしく輝いている。
 コルドは彼女が苦手だった。
 理由を述べれば3日は優に過ごせるだろうというほど、彼女に対してあまり良い印象がない。
 だがそれは相手も同じことで、こうしてたまに宮殿内で出会った時にはどちらともなく静かな空気が流れるようになっていた。
「連日大暑を思わせる猛暑が続いておりますが、ラハジル・ジィキにおきましては普段と変わりないご健在ぶり。こうしてお姿を拝見できます機会に恵まれ、大変嬉しく存じます」
 とはいえ、相手は仮にも第二貴妃。
 小姓頭の自分が礼を欠いていい相手ではない。それがわかっているからこそ、コルドは普段ならマヤル相手にも言わない敬語と賛辞を駆使して次々と流れるように唇を動かす。
 当然その間顔は笑顔を保っているが、ジィキ付きの侍女が微かにその頬を染めているのを見逃しはしない。口上の途中で何度か目配せ、楽しんだ。
「ですがこうも暑さが続きますといくらエティカヤに慣れたとはいえ、多少のご苦労もされているのではないでしょうか?もし宜しければ後ほど私の方から使いを出しまして……」
「黙れ」
 だが朗々と続いていた挨拶はそう長くは続かなかった。
 ピシャリと全てをはね除ける静かさで今日はじめての台詞を吐いたジィキを、コルドは引きつる顔をなんとか押さえつけて見返した。
「……いかがなさいました?」
「女のようにペラペラと…耳障りじゃ」
 このクソ女。
 コルドはそう思ったかどうかは定かでない。
 だがそれまで必死の思いで浮かべていた笑みが瞬間消え去り、次いで見る者に思わず鳥肌を立たせるような冷笑を浮かべたのは、心中穏やかでない証拠。
「女のようとは…おかしなことを言われる」
 先程までの穏やかな口調とはうって変わって冷ややかな、皮肉さが伺える語りかけにジィキの目元が微かに動いた。
 お互い意地を張らず、早々に立ち去ればいいものを。
 元来の負けず嫌いな性格からか、どちらも引こうとしないのは見るも明らか。傍らで二人の様子を見守る侍女達がおろおろと目線を彷徨わせるのが見て取れた。
「私のどこを見てそう言われるのか。姿形だけはどう見ても男としか捉えようがありませんし、剣の方もそれなりに……」
 言いかけて、ああ、と一人納得したような顔をする。
 側に控えた侍女達のことも見て見ぬ振りをし、コルドは意味ありげな笑みを浮かべてクスッと小さな笑みをこぼした。
「アレのことをそう言うのであれば、たしかに私は女かもしれませんね」
 わかる者にしかわからない、まるで暗号のような台詞。
 だがその意味を知ったジィキの顔が珍しく強張ったのを認め、コルドは気を良くした。悪趣味だと言われようと、このプライドの高い女をからかうのは面白い。
 思わず込み上げる笑いを喉奥でグッと堪え、ジィキの様子を黙って観察する。一時は巫女姫とまで呼ばれた彼女だ。おそらくあからさまな表現には本能的な嫌悪感を感じているだろう。
 そう高をくくっていたコルドにとって、すぐに表情を改めた彼女が唇を開いたのは予想外だった。
 いつもなら黙ってこの場をあとにするはずなのに。
 だがいつもとは違っただけに、ジィキの言葉はコルドをひどく驚かせた。
 そうだな、と前置きをしたあとに軽く頷く。
「そなたが相手なら、妾も抱いてみたいと思うぞ」
「………冗談でしょう」
 一瞬言葉に詰まった。
 この人はなにを言っているのかと、まじまじと表情のない相手の顔を見つめる。
 だが相変わらず心情の読めない瞳はいくら凝視しても何一つわからない。ただ深い闇色に、先程の台詞が何度も頭の中でこだました。
「冗談などであるものか。お前のその細腰に手を添えて抱きしめたい。舌を吸って乳首を摘んで、その下肢に潜むお前自身を撫でさすり慈しみたいと思うのは…普通であろう」
 いつになく饒舌なジィキ。
 だがその内容が恐ろしく彼女らしからぬことに、コルドは混乱状態に陥った。もしやその頭の突起からなにか妖しい電波を受信しているのではないかと、まじまじと奇妙な形に結わえた彼女の頭部を凝視しては、はたと気付いて必至に首を横に振る。
「ぜ、全然…これっぽっちも普通じゃないです!」
 慌てふためくコルドの様子に珍しくクスリと笑みをこぼし、次いで軽く顎を反らした態勢で冴え冴えとした声を出すジィキはまさに腐っても巫女姫。綺麗に紅をはいた唇がツ…と持ち上がった。
「妾が普通でないのは百も承知であろう?」
 のぅ。抱かれてはみぬか。
 そっと指先がコルドの頬に触れた。氷のように冷たい、この猛暑の中であり得ないはずの温度を保った指先がス…と撫で上げる。
「…………!」
 体中に電波が走ったような衝撃を覚え、コルドは思わず後ずさった。先程まであれほど暑いと感じた気温だが、今は寒気を訴えるほどに涼やか。それともこの背筋を走る汗はいわゆる悪寒というものだろうか。
 様々な考えが頭を巡り、結果的にコルドが取った答えとは……。
「申し訳ありませんが、私、生涯相手は一人と決めておりまして」
 至極まじめな顔で淡々と口にする様子は見る者によってはひどく滑稽。だが相手に口を挟ませる隙を与えないコルドは次々と流れるように言葉を発する。
「ジィキ様には過分なお言葉を掛けていただき、恐悦至極の思いでありますが、以上のことを踏まえそのお話はご辞退させていただく所存であります」
 一息にそこまで言い放ち、相手が口を開く前に「それではマヤルが呼んでますので」と一礼してその場をあとにする。
 その背後で取り残されたジィキが軽くため息を付くのを、コルドは聞き逃した。まして、 その次に呆れたような言葉が続いたとは夢にも思わなかっただろう。
「つまりは妾とは生涯敵手だと、そう言いたいのだな」
 生涯相手は一人と決めている。
 コルドの言葉で、その相手がバルアン以外の何物でもないことは言われなくても察することができた。
 だがそうであるなら、そのマヤルと妾妃の契りを結んでいるジィキとは自然ライバルという形になり…つまりは動揺しているように見せかけて、きっちりと宣戦布告してきたコルドにしてやられたというわけだ。
「面白い」
 ジィキの呟いた言葉に、側仕えの侍女が首を傾げた。
 だがそれに答えることはせず、再び高下駄を進めるジィキの動きに合わせて再びシャラン…シャラン…と涼やかな音が廊下に響き渡った。
 その唇に珍しく笑みが刻まれていたことに気付いた者は、誰一人いない。


いつのリクエストだ…調べることすら恐ろしい(-_-;)
そしてこのカップリング…かつて一度は改めさせてもらった代物だが、結局は第一希望のコルド&ジィキを扱わせてもらいました。
俺って奴はどこまでも天の邪鬼……。
それにしても、いつにも増して意味不明な作品が出来上がってしまいました(爆)
これは…ジィキ×コルド?(爆死)
個人的にはそれも有りなんですが(笑)←黙れ
ひとまず後半はジィキのキャラが別人だなと。えぇ、それは書いてる本人が一番自覚してます(-_-;)
せめてもう少し二人の冷戦ぶりが描けたら良かったんですが。
まぁ…本編ではまだ全く交わりのない二人ですからね。今後の本編展開を望みます(笑)
なので、まずは少しでも楽しんでもらえれば幸いm(_ _)m

 

 

 

 

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