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『正義のヒーローWritten by Takumi


 子供の泣き声がした。
 買い物客で賑わう雑踏の中、そんな小さな声が聞こえるはずがないのに。
 俺の耳はしっかりとそのすすり泣きをとらえ、気になって仕方がない。
 どこから聞こえるんだ―――。
「グラマニ、どうかしたの?」
「あ、いや……なんでもないよ」
 足を止めた俺に、傍らのティナが不思議そうに声を掛ける。
 その問いにすぐさま笑顔を浮かべ、いつもの人当たりの良さそうな口調で身重な妻を安心させるために両手を広げて見せた。
 そう?と首を傾げたあと、ティナは八百屋に積まれた野菜を相手に、再び店主との値下げ交渉に熱を入れはじめた。
 その様子にホッとしながら、再び耳を傾ける。
 それはひどく悲しそうな声。
 無視するにはあまりにも頼りなく、寂しげなソレに心がざわついた。
 声からして女の子、それも2・3歳の子に違いない。
「ティナ、悪い。ちょっとここにいてくれ」
「えっ……ちょっと、グラマニ…!」
 そう思うといてもたってもいられず、戸惑うティナをその場に残し、人混みあふれる繁華街を声を頼りに走り出した。
(……ック……ヒック………)
 やがて嗚咽が混じり始めた泣き声は、次第に近くで聞こえだして。
 通りの突き当たりを右に曲がり、次の曲がり角を左に行った先の路地でふと足を止める。
「ったく、どこなんだよ………」
 やや息の上がった声で辺りを見回した。
 声は近くであがっている。
 この辺であることに間違いはないのに。
 だがそれらしい子供の姿はなく、ただせわしなく人々が行き交うだけ。
「あーもー!」
 顔の横に容赦なく垂れてくる髪を鬱陶しげに払うと、ポケットから出したゴムで手早く一つに結ぶ。
「なんでこんな偽善者ぶったこと……」
 自分らしくない行為に舌打ちし、再び目を閉じ意識を集中する。
 次第に周囲の雑音は消え、やがて泣き声が徐々に大きさを増していった。
 頭の中に泣き声だけが響くようになる。
 繰り返し、繰り返し聞こえるソレは………
「そこか!」
 目を開き、すぐ近くの店舗に隠れるようにあった脇道に駆け込む。
「っく……ひっ…く………」
「………見つけた」
 大きな溜息のあとに出たのは、安堵の声。
 その声に、しゃがんで顔を伏せ泣いていた小さな女の子が顔を上げた。
 涙と鼻水でデロデロになった顔。
 涙で赤く染まった大きな瞳に見つめられ、俺は一瞬かける声を失う。
 だが俺が言うよりも先に、女の子は栗色のおさげを揺らすと、
「……おいちゃ………だれ?」
 声を喉に詰まらせながら、震える声で聞いてきた。
 その様子に苦笑し、俺は大げさに肩をすくめて見せると、
「こういうときに登場するのは正義のヒーローだって習わなかったのか?」
 見事少女の泣き顔を笑い顔に変えてやった。

「子供は女の子がいいな」
 帰宅後、台所に立つティナの横でタマネギの皮を剥きながら言ってみた。
 昼間のことはティナには教えてない。
 そんな得意になって教えるようなことではないし、万が一俺がいい人だなんて思われるのも勘弁だからだ。
 とはいえ、あれからすぐに母親は見つかり無事引き渡すことが出来た。
 だがなぜか別れ際の少女の顔が、少し脳裏にちらついて。
 ひらひらと頼りなげに振られた手が忘れられない。
「バカね、まだ5ヶ月もあるのよ」
「それでもいいんだ」
 クスクス笑うティナを背後から抱きしめ、まだ膨らんでいないお腹を愛しげに撫でた。
「変な人」
 そんなリグにもたれかかるようにして、ぽつりとティナが囁いた。
 その声がひどく柔らかいと思ったのは、俺の独りよがりだろうか?


ああ、なんて幸せそうなんだろう……(うっとり)←撲殺
300hitということでいつもとは違う、まともな小説をUPしたつもりなのだが……(笑)
ちなみにリグが髪を一つにくくるシーンが俺のこだわり(笑)
一回口でゴムを持ちながら雑に髪の毛をまとめて、それからくわえたゴムを右手で伸ばしながらくくる、とね(笑)
手が骨っぽい感じの人だとそれだけでうっとりしちゃうよ。
ということで、楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m



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