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リクエストWritten by Takumi


 その日、エディアルド・ラウズは珍しく浮かれていた。
 しかし他人からはその気分の微妙な変化はわかるはずもないので、結果的にはいつもと同じく、氷のような表情でいることに変わりない。
 とはいえ、今日のエディアルドはご機嫌なのである。
 どのくらいご機嫌なのかというと、
「ふふ……」
 引き締めた唇から、堪えきれずに笑いが零れるほどにだ。
 理由は明快。
(明日は殿下の誕生日……今年はいったいなにを贈るべきか……)
 愛しき主君、アルゼウスの9回目の聖誕祭が明日に控えているのだった。
 当然屋敷内はその準備に追われ、朝からてんてこ舞いの忙しさである。回廊を渡るエディアルドの脇を、先ほどから何人もの侍女達が慌ただしげにすれ違っていく。
 しかしそんな忙しさも今のエディアルドには全く別世界の出来事だった。
 一ヶ月も前から、彼の思考は愛しい主人になにをプレゼントするかに埋め尽くされていた。
(去年はポニーだったが……ご自分で世話をされるほど気に入ってくださったな……)
 とまぁ、このように見た目はキリッと唇を引き結んだ顔でも、頭の中はすっかりドリーマーなのだった。
 そんな彼が現在向かっているのが、その思考を占領してならない主人アルゼウスの自室である。
 呼び出しを受けた直後に足を向けたせいか、それほど時間が経っていない。
 しかしなにぶん考え中の身である。
 気がつけばまったく違う場所に辿り着いていたり、柱にぶち当たったりと先ほどから彼らしくない動きを数度繰り返していた。
 なにせかれこれ3回、主君アルゼウスには誕生日という名目でプレゼントを献上しているのだ。
 そろそろネタが尽きたとしても仕方がないだろう。
 それがよけいに、エディアルドの心を嬉しさで高ぶらせると同時に焦らせてもいた。
 なにせ本番は明日。
 凝ったものはとうに諦めてはいたが、それでもやはり見栄というものはある。
 高価なものでなくてもいい。だが少しでもあの愛らしいアルゼウスを微笑ませ、喜びの声を聞きたいと願わずにはいられなかった。
 だが一週間考えても未だに良い考えは浮かんでこない。
 おまけになまじ皇子という身分柄、相手の物持ちはすこぶる良い。
 ついでに言うと諸国の富豪達からのプレゼントも毎年半端でない。
 そんなプレゼント群と内容の重ならない、それでいてアルゼウスの気に入るような品物を選ぶとなると、至難の業だった。
(参った………)
 目を閉じ、やや眉根を寄せる。
 それだけで、すれ違う侍女達の目には『エディアルドがなにか真剣に考え事をしている』と映るのだからなんとも役得である。
 しかし気がつけば目の前には見慣れたアルゼウスの自室の扉。
 あとはノックをするだけという状態だった。
「………………」
 その木目にジッと目を見据え、それから一つ大きな深呼吸をする。
 ノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けた。
 徐々に開いていく扉の奥から心地よい声が耳に届く。
「ああ、エド。やっと来たね」
 言われてはじめて、自分がここに来るまでかなりの時間を要してしまったことに気がついた。自分の失態に舌打ちしたいのを堪え、深く腰を折る。
「申し訳ありません」
「怒ってるわけじゃないよ。珍しいな、と思って」
 穏やかな声音は自然とこちらの強ばった気持ちを和らげる。
 顔を上げると、まるで日の光のような笑顔が惜しみなく自分に注がれていた。
 その表情に思わず感動してしまいそうになるのを押さえ、エディアルドは抑揚の利いた声音で先を促した。
「お話があると伺いましたが」
「あ、うん。そう大した用じゃないんだけど……」
 わずかに肩をすくめ、はにかむような笑みを見せると、
「これ。青と緑、どちらがいいかな?」
 上着は淡いクリーム色なんだ、と嬉しそうに話しながら胸の前に二色のスカーフをぶら下げ小首を傾げる。
 どうやら明日の服装の相談をしたかったらしい。
 やれ祝辞の言葉だ、参列者のリストだのと騒がしい屋敷内においてまるで平和な質問にクスリとエディアルドは笑みを浮かべた。
 主人を前にした時にだけ見せる、貴重な笑みだ。
 どことなく発する声すら柔らかく感じられる。
「殿下はなんでもお似合いになりますが……」
 当然主人にメロメロな前置きも忘れない。
「明日は庭園でのパーティーを控えてますので緑がよろしいかと」
「やっぱり?そう言うと思った」
 クスクスと笑うアルゼウス。その様子を目を細めて見守る。
 こんな些細な瞬間、いつも思う。自分はこの主人が心底好きなのだと。
 愛しいアルゼウス。
 反則かもしれないが、この際主人が喜ぶのならこんなやり方も有りだろう、とエディアルドはやや腰を曲げ、
「私も殿下に質問がございます」
「え?なに?」
「今年のプレゼントはなにがよろしいでしょうか?」
 上目遣いで主人を見つめる。
 途端、プッ…と可愛らしい笑い声が聞こえると同時にクスクスと肩を震わせるアルゼウスが数歩近づき、そっと肩に手を添えてきた。
「エド、ついにネタが尽きた?」
「…………」
 みるみる顔が赤くなるのがわかる。さすがにあからさますぎただろうか、という後悔がグルグルとエディアルドを襲った。
「愚問でした。申し訳ございません」
 グッと腰を90度の角度に曲げ謝罪する。だがそれを肩に添えられた手が阻止するべく力を込め、再び顔を上げさせられた。
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
 至近距離のアルゼウスに、エディアルドの胸がはやる。
 金色のまつげが長く顔に影を落としている事実に驚きながらも、息さえ伝わる距離に思わず呼吸を控えた。
 だが両肩を掴まれまっすぐに見据えられた瞬間全ての思考回路は停止して。
 桜色の唇ばかりが気になる。
 ドキドキと先ほどから心臓はうるさいほどの早鐘を打ち、それがいっそうエディアルドを焦らせていた。声を出そうと思っても、ようやく絞り出せたのは掠れた代物。
「ア、アルゼウス様……?」
「僕が欲しいプレゼント、聞きたい?」
「……は、い………」
 その返事に満足したのか、にこり、とアルゼウスは笑んだ。
「金のエンゼル」
「…………は?」
「おもちゃの缶詰が欲しいんだ」
「ぎ、銀ではだめでしょうか……?」
「ダメだよ。銀は5枚いるんだ」
 苦笑してみせるアルゼウスに、エディアルドの額にはなぜか汗が浮き出す。
 金のエンゼル……それは盲点だった。
 たしかにあれなら皇子という身分に関係なく、万民に平等なまでに当たり外れが割り当てられる。しかし……
「明日、までにですか?」
 自然声が強ばるのがわかる。今の要請はあまりにも急すぎた。
 だがまるでおかしな事を聞いたかのように、アルゼウスはクスクスと笑う。
「だって誕生日プレゼントなんだから。明日までにくれないと意味がないじゃないか」
「…………そう、でした」
 ではまずはお菓子問屋に電話をしなくてはいけない。
 もしくは本社に電話をして、かき集められるだけのチョコボールを今日中になんとしてでも送ってもらう。
 この際人手を雇っても構わない。
 屋敷内の人間は明日の準備でそれどころではないから、外から人を集めるしかないだろう。
 だがなんとしてでも今日中に金のエンゼルを見つけださなくては、面目が立たない。
 いや、その前に金のエンゼルはどのくらいの割合で市場に流れるものなのだろうか。
 渦巻く思考で、すっかりエディアルドの顔は蒼白となっていた。
 それを認め、アルゼウスはうっすらと笑みを浮かべるがエディアルドはそのことに気づきもしない。
 アルゼウスの誕生日まで、あと半日。
 エディアルドの忠誠が試される、それはなんとも素晴らしいリクエストだった。


99年の某冬の祭典用に作った手土産、『アルゼウス様追悼本』より抜粋<東京紀行参考
短編2つを入れた、そのうちの1つ。
しかし……なんで金のエンゼルなんだろう……(爆)
いつも思うが、ギャグを考えるときの自分の心境とか、あとで知りたくてしょうがない(笑)
とはいえ、なにもかも宮のHPにUPされた8500hitに原因がある(笑)
あんなに可愛い&可哀想なアルゼウス様を目にして、この俺が平常心を保てるはずがないのである(笑)←いばるな
というわけで、今回はこんなもので記念小説をごまかしてみました(爆)
少しでも楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m

 

 

 


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