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人それぞれの美意識Written by Takumi


 一度、彼女の着飾ったところを見たいと思っていた。
 綺麗に筋肉のついた身体と、元の造りは決して悪くない面立ちを知っていたから。
 その赤茶の髪を整え、形良い唇に紅をはき、ドレスを着たらきっと綺麗だろうと。
 漠然と、だがある種の確信を持って彼女を見続けていた。
 戦闘服を身にまとい、汗と泥で汚れ、それでもなお美しい普段の彼女も好きだが。
 一度でいいから、女という枠にきっちりはまった彼女を見てみたかった。
 そしてあり得ない願望は、何の前触れもなく突然叶ってしまったが―――

「ほんとに大丈夫かよ」
 先ほどから何度目かの質問は、艶っぽい唇に苦笑を浮かべながらの返事で応えられる。
「大丈夫よ。あれぐらい、地球じゃしょっちゅうじゃない」
「そりゃそうだけど……今日はその、ドレスだし………」
 夜会の最中、2人が外に出たところを何者かに狙われたのはつい先ほどのことだ。
 なんとかラファエルのおかげで危険を免れたとはいえ、まさかここに来てまで命を狙われるとは思ってもみなかった。
 気分が落ち着くようにと、もらったブランデーをくゆらせながらバルコニーに背中を預けて夜空を見上げるキャッスルに、ラファエルはやや口ごもった風に言う。
 その様子があまりに彼らしく、プッと吹きだしたキャッスルが、バカね、と彼の髪を優しく撫でた。
「こうして生きてるのがなによりの証拠でしょ」
 でも、とその唇が言葉を続ける。
 口紅を塗った、妖しいまでに赤いその唇に知らずラファエルは見とれる。
「助けてくれてありがとう、嬉しかったわ」
「そんなこと……当然じゃんか。キャッスルは俺が守るんだよ」
「頼もしいわね」
 クスクスと笑うのは、きっと本気に取ってないから。
 また子供扱いされたことに、ラファエルが一瞬悲しそうに顔を歪めた。
 一体いつになったら、自分は大人の男として彼女の目に映るのだろう。
 アフォルターという肩書きが彼女にとって全く効果がないモノだとはわかっていた。そんなモノにははじめから自分も頼ってはいなかった。
 だが精神面では?ほんの少しでも、自分は成長したんじゃないだろうか?それとも、彼女の基準はエイゼン?自分は、まだ認められない?
 いくつもの疑問が湧いてはむなしく消えていく。
 そして相変わらず、傍らでブランデーをわずかに口に含んでは思い出し笑いにふけるキャッスルが髪を撫でていた手をそっと頬に移動させた。
「どうしたの?お腹でも空いた?」
 その手首を不意に掴む。
 きょとん、としたキャッスルの瞳に気づきながらも、掴んだ手首をグイッと引っ張った。
「…ぁ……」
 微かな驚きの声があがる。だがそれを無視して、ドン、とぶつかった肢体をゆっくりと抱きしめた。
「ラファエル……?」
「俺、もう子供じゃないよ」
 戸惑うような彼女の声を遮るように、そっとその耳元で囁く。微かに、抱きしめる腕に力を込めた。
「好きだ」
 会場から微かな緩やかなワルツが聞こえる。
 だが耳の奥から聞こえる自らの鼓動の音がうるさすぎて、全く気にならない。
 会場からバルコニーまではさほど離れていない。誰かに見られるかもしれない。噂を立てられるかもしれない。
 だが今は、そんなことよりも彼女に自分の気持ちを伝えたかった。
 この気持ちが真剣なものだと、彼女に知ってほしかった。
「ラファ………」
「キャッスルは?キャッスルは俺のこと、どう思ってる?」
「どうって……」
「俺は好きだよ。エイゼンなんかよりずっと、キャッスルのことが好きだ。絶対幸せにするし、絶対泣かせない。だからキャッスルは?キャッスルは俺のことどう思ってるんだよ」
 身じろぐ彼女をグッと抱きしめ、まるで懇願に近い想いで問いかけた。だが返ってきた言葉は、
「あんた、一体どうしたっていうのよ」
 素っ気ないほどにあっさりとした、半ば呆れの入ったソレだった。
 そして一瞬ゆるんだ腕の隙を見てスルリと身をかわされる。やや乱暴に髪をかきあげ、手にしたブランデーを一口含むとヘイゼルの瞳がまっすぐラファエルに向けられた。
「さっきから聞いてればエイゼン・エイゼンって。あんた、本当に私が好きなの?エイゼンとの勝負に利用してるだけじゃないの?」
 思ってもみなかった言葉に一瞬呆気にとられる。言葉が続かない。
 押し黙ったラファエルに、チッと舌打ちをしたキャッスルがバルコニーの手すりにグラスを置くとそっとその手をラファエルの頬に添えた。
「いい加減、わかりなさいよ」
「なに……」
 なにが、と続くはずだった言葉を飲み込まれる。彼女の赤い唇に。
 それは思ってた以上に柔らかく、また久々に味わう感触にうっとりと目を閉じた。
 だらりと下ろしていた腕をその身体に絡ませ、抱きしめる。ほのかな匂いが鼻をついた。
「あ、あの………」
 名残惜しげに離れた唇に戸惑いを隠せないまま、キャッスルを見下ろす。妙に気恥ずかしいのはきっとお互い様だ。
「こんなこと、好きじゃなかったらしないわよ」
 そっぽを向いたキャッスルが微かに頬を赤らめて言う。濡れた唇が生々しいまでに赤い。
 その唇にもう一度触れたくて。
 そっと上半身を屈めたところで無粋な一声が間に割って入った。
「失礼。シェル嬢、そろそろお暇しようと思うんですが」
 いつからそこにいたのか、ヴィクトールが穏やかな笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。
 思わずバッと離れた2人だが、気まずい雰囲気は隠しようがない。
「いつからいたのよ」
 恥ずかしさを隠すように、キッときつい眼差しでキャッスルがヴィクトールを睨み付けた。
 だがそれを全く意に介さずに、相変わらずの笑みを更に色濃く浮かべてヴィクトールが肩をすくめてみせる。
「たった今ですが」
「嘘ね。見計らって出てきたんでしょ」
「さぁ……」
 はぐらかすような物言いにいらつきながらも、キャッスルは傍らで未だ頬を染めるラファエルを振り返った。
「今日は楽しかったわ。また会えるといいわね」
 その言葉に嘘がないと思える、極上の笑みを浮かべて告げると、ラファエルも同じように晴れやかな笑みを浮かべてみせた。
 だがそれをまたしてもぶち壊すように、ヴィクトールがスッと一歩前に踏み出て軽く会釈をする。
「それではアロイス様、失礼いたします」
「あ、ああ。今夜はわざわざありがとうございました、クリュガー長官」
「地球でのご活躍、陰ながら見守らせてもらいますよ。では、シェル嬢」
 振り返り、キャッスルを悠然とエスコートして去ろうとするヴィクトール。
 あがらうわけにもいかず、おとなしく従ったキャッスルが名残惜しげにラファエルを振り返りながら歩を進める。
 その背中をしばらく見つめ、ラファエルが突如声を掛けた。
「キャッスル!」
 あまりの大声に驚いたようにキャッスルが振り返る。
 その顔をしっかりと見つめ、ラファエルが屈託のない笑みを浮かべてハッキリと告げた。
「キャッスルはやっぱ、鬼曹長が一番似合ってるよ。すげー怖くて強くて、でも綺麗なの」
 そして最後は、やや照れくさそうに締めくくる。
 そんな彼を最初は驚いたように、次いで愛しくてたまらないという眼差しで見つめたキャッスルが唇を艶やかな笑みの形に象った。
「最高の誉め文句ね」
 それだけを言うと、今度こそ振り返らずにヴィクトールと共に去っていく。
 まっすぐな背中。漂う雰囲気は、間違いなく地球でのものだ。
 今日会場にいた男達は彼女の美しさに見とれていたが、ラファエルにとってはそんな彼らは哀れでしかない。
 彼女の本当の美しさを知らないから。
 そしてそんな彼女の真の美しさを知っている自分に、ラファエルは微かな優越感を覚えた。
「あ……」
 ふと傍らに視線をやれば、彼女が置き忘れたブランデーが残されている。
 それをそっと手に取り、残った琥珀色の液体を飲み干した。
 飲み慣れぬブランデーは、微かな苦みと同時に言いしれぬ喜びをラファエルの胸の内に湧き起こらせた。
――レジーナ・キャッスル――
 彼女の美しさは、自分だけが知っている。


うわ〜、すごく健全♪←撲殺
しかし初めて書いたまともなラファ&キャッスル……ふぅ……(爆)
キャッスル×ラファなら書ける気がするが、どうも王道だと妙に緊張してしまうのだった(爆死)
ちなみに背景色は邪眼色ってことで、彼らはユージィンの管理下でいちゃついている、と(笑)←密かなこだわりだな(爆)
こんなやつでいいッスか〜?(^-^;<ゆりさん
ダメなら次回の切り番に期待してください(笑)
ということで、少しでも楽しんでいただければ幸いですm(_ _)m

 

 

 

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