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『天翔けるバカ収録現場Written by Takumi


 シー…ンと静まり返った空間で朗々と声が響く。
「きさま。なんのつもりだ」
 地を這うような、怒りのにじんだ声だ。
 ごくり、と誰かが生唾を飲む。あまりにもすごい気迫に睨め付けられた相手は声も出ない。
 それを知って、男は右足で思いっきり相手の胸板を踏みつけた。
 思わず上がりそうになる唸り声を、少年は必至で堪える。だが苦痛の表情は隠しきれない。自然、脂汗が浮かんだ。
「一騎撃ちが好きなら、勝手にやれ。そしてとっとと死ぬがいい。だが、味方を巻き込むのはゆるさん」
 漆黒の瞳がまっすぐに少年を見下ろす。
 胸板を押しやる右足に更に力が加わった。あばらを折りそうな勢いだ。
 静まり返った空間。ピンと張った緊張の糸がこちらにまでピリピリと伝わってくる。
 少年の顔色は既に極度の苦痛で青に近い。
 だがそんな少年を、漆黒の青年はただ冷ややかに見下ろすだけ。
 その瞳は、闇よりも深く燃えていた―――。

「カ―――ット!」
 監督のオッケーの声が上がった。
 途端、それまで静けさを保っていた現場が息を吹き返したようにざわめきだす。
「いや〜。良かったよ、ロード君」
 上機嫌でセットに向かい主演のロードの肩を監督は満足そうに叩いた。
「あの気迫。撮ってるこっちまで殺されるんじゃないかと肝を冷やした」
 豪快に笑う監督は思った以上のシーンが撮れて上機嫌だ。
 そんな彼に優しく微笑みかけると、ロードは先ほどまで足蹴にしていた少年に手をさしのべた。
「ごめんなさいね〜。もうあたしったら本番になると人が変わっちゃうみたいで〜」
「い、いえ………」
 助け起こしてもらった少年、リックは未だ慣れない俳優ロードの演技とのギャップに苦しみながらも引きつる笑顔で返した。
 スタジオ・スカイパラダイス。
 そこで今まさに、今春の話題ドラマ『天翔けるバカ』の第一回目が収録されている。
 出演者はどれも厳選された実力派揃い。
 唯一の新人リチャード・ハーレイも予想以上の演技力を持っているということで、連日マスコミを騒がせている。
 そして今回はその現場を覗かせてもらっているわけだが。
「やだ、もしかしてあばら折っちゃった?」
 リックの額に浮かぶ汗が尋常でないのを悟ったロードが、黙っていれば端正で近寄りがたい顔を心配げに曇らせた。
「だ、大丈夫です……ちょっとまだ痛みがあるけどそれほどじゃないし」
「本当?嘘ついちゃダメよ、あとでみんなに迷惑が掛かるんだから」
「………はい」
 あんたのそのお姉言葉は迷惑じゃないのか、という言葉をなんとか飲み込んでリックは笑ってみせる。
 そんな彼に満足したのか、ロードは足取りも軽やかに監督とともにモニターを見に去っていった。
 その後ろ姿を見送りながら、ついため息をついてしまう。
 まさか憧れ続けた男優、リチャード・レイストンがこんな人物だったとは。
 わかったときはショックを通り越して笑ってしまったほどだ。
 今でもそのときの自分を思い出すと情けなくて泣き笑いしてしまいそうになる。
 マスコミを前にしての晴れやかな作品発表の場ではじめて彼の語りを聞いたとき。
 あまりのショックで自分の挨拶文をすべて忘れてしまい、ボロボロだったのだ。
 しかも次の日発売された週刊誌ではそのことが大きく取り上げられていた。
 『人選ミス』だの『主役は小心者』などと、ことごとく人の気持ちを落ち込ませる記事の数々。
 とはいえ、それで落ち込んだ自分を「気にすることないわよ」とお姉言葉で慰めてくれたのもまた彼だったが。
「でも……それを言うなら他の奴らだって………」
 ちらり、とスタジオの隅を見やる。
 そこでは今まさに出番を終えた男優が2人、メイクを直してもらっているが。
「おいおい、ピロシキ。な〜にしけた顔してんだよ」
 ウケケケ……と大声で笑うのは同じく今回出演を共にするパードレだ。こんな彼を「司祭」とはよく言ったもので、役柄はストイックな司祭役でも実際の彼は酒好きの女好き。
 常に週刊誌を騒がせるトラブルメーカーだ。
 人選ミスというなら自分よりこいつを指せ、と言いたいくらいである。
 しかもその正面でおとなしく膝を揃え、ウーロン茶をちびちびと飲んでいるのが、
「別に。僕はいつもこんな顔だよ」
 ボソボソッと小さな声で呟くピロシキだ。
 こちらは対面するパードレとは正反対の陰気な空気を背負った、いかにもなロシア人である。しかも実際の彼は下戸だ。
 当然役柄上飲酒シーンが多いが、それらはすべて中身をウーロン茶に変えての撮影でなんとかなっている。
 監督の考えがわからないリックの耳に、再び笑いを堪えきれないパードレの声が聞こえた。
 本来の彼は笑い上戸なのだ。
 ゆえに、彼のNGはすべて笑いの発作によるものである。
「それよか、お前知ってるか?」
「なにを?」
「明日スタジオ入りするゲーリングがついに結婚するんだとよ。ばっかだよな〜〜」
「………僕は君のそういう感覚がわからないよ」
「そうか?まあドラマのパードレならここで『結婚は神が与えた最高の幸せだ』とかなんとか言うんだろうな。理解しかねるぜ」
 肩をすくめたパードレがそこでふと言葉を切り、辺りを見回した拍子にリックと目があった。
 ぺこり、と一礼したリックだが、
「おう、新人!ちょっとこっち来て先輩の相手しろよ」
 とても撮影中あれほど寡黙で慎重な装いを見せていたパードレとは似てもにつかない様子で手招いてきた。とはいえ、相手は先輩である。この世界、上下関係を重んじなければ新人はやっていけない。
 おとなしく彼らの傍らにイスを移動させたリックだが、そんな彼を次いでめざとく見つけたのは、
「やだぁ。あんた達、なにあたしをのけ者にしてんのよ」
 今日の撮影を無事終えたロードが、真っ赤な口紅を片手に嬉しそうにやってきた。
「お、綺麗な色だな」
「でしょ〜。今そこでメイクさんにもらっちゃって〜。この春の新色なんですって」
「へ〜、俺も一本もらってこようかな」
「あら、誰にあげるつもりよ。禁欲的な司祭様が」
「それは言いっこなしだろ?」
 キャイキャイと騒ぐ2人をげっそりとした眼差しで見守るリックだ。どうもこの2人にはついていけない。
 とはいえ、残ったピロシキとは……。
「なんだ?」
 ちらり、と視線を投げたところを運悪く受け止められ、相変わらずのボソボソ声でそう問われた。
「い、いえ。ピロシキさんって大人しいんだなって。あ、いい意味で、ですけど。毎日なにされてるんです?」
「…………金魚が」
「え?」
 ボソッと呟かれた単語に、思わずリックは聞き返す。
 ちらり、とリックを見つめ、それから手にしたウーロン茶をちびりと一口飲むと、
「金魚が可愛くてね」
「…………はぁ」
「毎日僕の帰りを健気に玄関で待ってくれてるんだ」
 つまり、彼の生活は金魚と共にあると、そう言いたいのだろう。
 だがしかし、リックにはなんと答えていいのかわからない。
 当然頭の中には水槽越しに金魚に甘い睦言を語りかけているピロシキの姿が浮かんでいる。
 思わず言葉に詰まったところで、天の助けとも思える監督の声がスタジオ中に響いた。
「そろそろ次のシーン撮るぞー!」
 その声に再びスタジオはざわつく。
 目の前で軽快に話し込んでいたパードレとロードも一瞬目で合図し合い、
「んじゃ、頑張んなさいよ」
「は〜〜、次は俺のシーンからか。おい、ハーレイ。お前哀れを誘うよう演技しろよ。じゃないと俺気分のらねーからな」
 好き勝手なことを言って先に席を立った。
 一方脅されたリックは、なにがなんでも演じきらねばあとでパードレになにを言われるかわからないという恐怖でやや顔を引きつらせる。
 その隣でピロシキは静かに、
「あはははははは…………」
 笑う練習をしていた。
 ドラマ『天翔けるバカ』
 今春の話題作、第一回目の放送は5日後に控えている。
 とはいえ、それまでに自分の身が持つのか、リックは微かに痛む胃を押さえ、スポットライトへと向かっていった。


はい、わけがわかりません(爆)
でも一度ロードのお姉言葉が浮かんだ瞬間、この呪縛からは逃れることは不可能でした(爆死)
続いて陽気なパードレ、陰気なピロシキが浮かんできて……あとはもうなすがまま(-_-;)
おかげでかなりきわどい小説になってしまいました。
これは既にパロディの域を越えてるような……
こんなバカな記念hit小説で果たして某氏は満足してくれるのか。
今はそれだけが気がかりです(^-^;
とはいえ、楽しんでいただければ幸い♪
しかし今回もかなり目に負担のかかる配色ですな……目は大切にしてくださいm(_ _)m

 

 

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