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『彼女と彼女の事情』 Written by Takumi


 彼女を初めて意識したのは……そう、真夏日の空の下。
 華奢な身体、燦々と輝く赤毛。
 乱暴に汗を拭う姿が印象的で、資料整理の手を休めてそっと室内から見守った。
 炎天下の下。戦闘服に身を包んだところを見ると、彼女もここの下士官の一人なのだろう。
 その彼女が大勢の屈強な男達に囲まれているのを見たときは、一瞬強姦寸前なのかと思って慌てて窓際に駆け寄った。
 思い違いだとわかったのはそれからすぐ。
 進み出た男が彼女に襲いかかったと思った瞬間、立場が逆転していた。その華奢な身体からは想像もつかない蹴りが、見事彼の腹に命中していたのだ。
 その場にうずくまる男を足蹴にし、彼女が大声で周りの男達にわめいているのがわかった。
 唇の動きからすればそれはきっと「たるんでるぞ!」の檄で。
 なるほど、と思った。
 彼女が噂の、クリストファー・キャッスル曹長なのだと合点する。
 女だてらに曹長まで行く人間はそうそういない。噂を聞いたときは一度お目に掛かりたいものだと思っていたが。
「まさか彼女がね……」
 窓越しに再び彼女が次の兵士を打ちのめすのを認め、小さく笑った。
「どうかしたのかね?」
 グッドリー少尉。
 その声を耳ざとく聞いたスクリバ大佐が資料から目を上げ、こちらを見据える。
 それに対し、いいえ、と答えてから再び資料整理に集中するような素振りを見せ、さりげなく視線を窓の外へと戻した。
 太陽の下、汗にまみれて声を張り上げる彼女の姿。
 自分とは対照的な、そのエネルギー溢れる様子に自然と笑みが浮かんだ。
 クリストファー・キャッスル。
 いつか彼女と話をしてみたいと、ふとそんな考えが頭をよぎった。
 今日もボルネオの夏は暑い。


 彼女を初めて意識したのは……そう、夕方も近い兵舎の廊下。
 例によって上司に呼び出された先でぶち切れて、そのまま退室した自分を追いかけてきたのが彼女だった。褐色の肌が窓から注ぐ夕日に染まって、綺麗だったのを今でも覚えている。
 映画のワンシーンのようだった。
「ねぇ、待って!」
 息を乱しながらも自分を呼び止める彼女。名前だけは知っていた。
 ジューン・グッドリー。
 一言で言うなら才色兼備。でもそれを鼻に掛けず、気さくに下の人間にも声を掛けることから隊内での人気は上々だった。
 その彼女がわざわざ自分を追いかけてくる。何事だろうと思った。怒りも忘れて振り返る。
「どうしました?」
「これ……」
 そう言って彼女が差し出した手の平には、小さなボタンが握られていた。よくよく見ると見慣れたそれに、あ…と声を上げる。クスッと笑った少尉が肩を竦めて見せた。
「さっきの部屋で落ちたのよ。気づかなかった?」
「…ええ……」
 気づくはずがない。なんせ自分はその時上司と盛大にやり合ってたのだから。
 さすがに取っ組み合ってということはなかったが、最後乱暴にドアを開けたとき何かを引っ掛けた感があったからおそらくその時にでも外れたのだろう。
 シャツの前合わせ、綺麗に並んだボタンの一つが欠けていた。
 間近でその様子を見ていた彼女がそのことに気づかないはずがないが、こうしてわざわざ持ってきてくれたことには感謝しなくてはいけない。
 そう思い、ボタンを受け取ったところで「ありがとうございます」と礼を言うものの。
「それで迷惑かと思ったんだけど……」
 恐る恐るといった様子で再び彼女が差し出したのは、携帯用のソーイングセット。怪訝そうな顔を向ければ、にこりと再び笑われた。
「早いうちに縫いつけちゃった方が良いと思って」
「あ、いえ自分が……」
 いきなり彼女がシャツの前合わせを引っ張ったのに対し、慌てて声を上げれば「大人しく」とのこと。仕方なくその場に立ってボタンが縫い終わるのを待ったが。
「痛ッ……!」
「ご、ごめんなさい!」
 思わぬ刺激に身体が強張った。だが謝罪の言葉を言う少尉の顔も、心なしか強張っているようで。再び針が動く様子に神経を集中してみるものの、
「いっ…」
 またも肌を突き刺す針の痛みに顔をしかめる羽目になった。そんな自分とは対照的に目の前で針を片手に右往左往するグッドリー少尉を見て、思わずため息に近い声が出る。
「少尉、もしかして…不器用ですか」
「……わかる?」
「はぁ、まあ…なんとなく」
「本当にごめんなさい。でも…でも今度こそ巧くいくと思ったのよ」
 申し訳なさそうに肩を落とす少尉の姿に、たまらず吹き出していた。
 完璧な人だと思っていたから。自分とは違う、自信に満ちたエリート人間だと思っていただけに彼女の反応は意外以外の何物でもなく。
 逆に普段のギャップから可愛さすら伺えた。狼狽えるグッドリーなどそう簡単に見れるものでもない。
「この間は5分でつけれたし…上達してるはずなんだけど」
 納得がいかないと言うように手にした針を見つめ、肩を竦めるグッドリー。
 そんな彼女の手から針を受け取り、自分でします、と宣言したあとものの数秒で無事ボタンは元の位置へと収まった。
「すごいわね…」
 心からの声を上げる彼女に、また笑う。
 その素直さが羨ましくもあり、また可愛くもあって。
 沈みきった太陽を背に声を上げて笑った。 


「そんなくしゃくしゃにしてしまったら、式典のとき困るわよ」
 頭上からの声に、キャッスルが慌てて顔を上げる。真っ向から混じり合った漆黒の瞳にその表情が和らいだ。
 本当はあんな事件があって以来、どう声を掛けて良いのかわからないと思っていたから。
 こうして相手から声を掛けてくれたことにひどく安堵しているのがわかった。
 それを承知でグッドリーも朗らかな笑みを絶やさない。
 危うい均衡。紙一重の脅威。
 互いを意識したての頃は、まさかこんな日が来るとは思ってもみなかった。
 治安部隊は数千人体制。その中で巡り会うのはそう簡単なことではない。
 だが自分たちは出会った。
 様々な紆余曲折を経て、あらゆる経験をして。
「あら……」
 不意にグッドリーが声を上げた。なに、とばかりに首を傾げるキャッスルの胸元を指さす。その顔には笑み。
「また取れてる」
「あ…」
「ああ、ほら。そこ、シートの右側に落ちてるわ」
 隅に転がったボタンをつまんで、まいったな、と苦笑するキャッスルにグッドリーが内ポケットを探った。嫌な予感にキャッスルの頬が多少ながら引きつる。この感覚には覚えがあった。感覚というか、既視感……。
「備えあれば憂いなし、ね」
 差し出された手の平には、案の定見慣れたソーイングセット。あからさまにげっそりとした顔のキャッスルに、グッドリーが眉根を寄せた。
「あれから少しは上達したのよ?」
 本当よ、と言い募る様子にあの頃と何ら変わらない彼女を感じ、吹き出した。
 あんなことがあって、いつも通りでいられるはずがない。そう思っていたのに。根本的なところは何一つ変わっていなかった。
 彼女は彼女だ。
 安堵した気持ちが、それを言わせた。
「じゃあ、お願いします」
 後々その台詞を後悔するとしても、今はただグッドリーとの交流を深めたくて。
 対するグッドリー自身も、そんなキャッスルの気持ちを察してかより濃い笑みを浮かべて針を手に取った。
 すぐさま痛いと非難の声が上がるも、その間笑い声は一向に止む気配がない。
 だがそんな彼女たちも、今後更に関係が深まるなどこの時は思いもしなかった。


なんか…普通ですよね、めちゃくちゃ(^-^;
でもさすがにこの2人を向かい合わせて猥談とかさせるわけにもいかないし(笑)←それもどうよ!?
自分の彼氏自慢、とかなるとキャラ違ってくるしで…結局こうなりました。
でもキャッスルとグッドリーって、キャッスルの方が年上なんですよね。1つ違いだけど。
その割にグッドリーさんが落ち着きすぎてるというか…男からも女からも好かれる人の典型って感じです。
まぁ、その彼女にも色々とコンプレックスとかはあるんだろうけど。
個人的にもっとキャピキャピした感じのものを書きたかったんで、やけにシルバー風味な今回の小説は…うむ、予想外。
でも女同士って身近な会話なだけに、今更なにを話すべきか迷いましたわ(笑)
ひとまずグッドリーさんは今後裁縫はシドーに任せっきりということで。
少しでも楽しんでもらえれば幸いですm(_ _)m

 

 


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