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『休息の日』 Written by Takumi
良く晴れたある日の午前。
戦争中とはいえ、休息は誰にでも必要なものの一つである。
それは連合軍・ドイツ軍であろうと関係なく。
そのたまの休日を大いに謳歌している青年が、両手に洗濯物を抱えたどり着いた扉をノックもせずに押し開けた。
「ごめん、ゲーリング」
部屋に入りざまに謝罪の言葉を述べたロタールは、山積みとなった洗濯物をやれやれという風に床に下ろすと、慣れた様子で手近のイスを引き寄せて腰を下ろした。
「おい、誰が入っていいと言った」
憮然とした様子でそんな彼を迎えたゲーリングは、珍しくロタールと休日が重なったため今日は軍服ではなく私服をまとっている。
元来お洒落好きの彼は、戦時中とはいえ他の者よりも明らかにこった服装をしていた。
とはいえ、その服装に今日はまたなんとも不似合いなものを付けてはいたが。
「ぶっ……ゲ、ゲーリング…君、それどうしたの?」
再び謝罪を述べようと思ったロタールだが、目の前で仁王立ちのゲーリングを認めた瞬間たまらず吹き出した。
「なにがおかしい!」
「だ、だって……君のその格好……あはは……ッ!」
指を指してまで笑われたゲーリングは、なんとレースが山のようについた白のエプロンドレスを着用していたのだった。
当然それは常日頃の彼とはギャップが激しすぎて、相手がロタールでなくとも笑死寸前の笑いを提供してくれることはたしかだ。
「バカみたいに大口を開けて笑うな!」
耳まで赤くしたゲーリングだが、やはりこの格好がおかしいという自意識はあるのだろう。わかっているだけ救いがあるというものだ。
「いつものエプロンがちょうど洗濯に出てて、これしかなかったからしょうがなくだ!間違っても俺の趣味じゃないぞ!」
言い訳がましく怒鳴るゲーリングだが、腹を抱えて笑うロタールの耳に果たして届いているのやら。
「お…おなか……痛い………」
しばらくして涙を流して苦しそうに言うロタールを、ゲーリングは蹴っ飛ばしたい思いで見つめながら、改めて自らの部屋に巻き散らかされた洗濯物の山に顔をしかめた。
「それで、一体これはなんだ」
「洗濯物です」
「そんなことはわかってる!」
ようやく笑いの収まったロタールがケロリとした顔で言うと、ゲーリングの顔に青筋が立つのがすぐ。騒々しさではドイツ軍でも指折りのコンビである。最も、ゲーリングにしてみたら心外だと言わんばかりに抗議してくるだろうが。
「お前の洗濯物をなぜ俺の部屋に持って来るんだと聞いてるんだ」
「洗濯機が壊れたんですよ」
「…………なんだと?」
「だから、たまの休日でみんなが一斉に使ったから、年代物のあれもとうとう寿命に達したみたいで」
「それでなぜ俺の部屋に持って来るんだ」
俺は洗濯機など持ってないぞ、とイライラした口調で答えるゲーリングは忙しなく指をトントンと小刻みに動かす。
それを苦笑しながら見つめたロタールがひょいと肩をすくめて、
「だから教えてもらおうと思って、洗濯の仕方」
「…………は?」
「ゲーリング、家事得意だろ?」
そうなのである。このいかにも神経質そうな顔立ちからは予想もつかないが、ゲーリングは家事のエキスパートとして軍内でもかなりの有名人だった。
いや、神経質だからこそ細やかなところまで目が行き届き、完璧に仕上げるのだという説もあるが。
なんにせよ、休日は今日限りである。次回の休日はまだ未定。となると、今日洗濯しておかなければ今後余裕を持って洗濯できる日はいつになるかわからない。さすがに酸っぱい服を部屋に溜めておくのはご遠慮したいということだ。
想像したところでゾッとするような話である。
思わずブルッと身体を震わせたゲーリングが、しょうがない、という風にため息をついた。
「じゃあ、まずはタライに水をいっぱい張ってだな……」
なんだかんだと文句を言っても、結局最後には世話を見てくれるゲーリング。
そんな彼を、ロタールは嬉しそうに見守っていた。
「ありがとう、なんとか終わったよ」
再びロタールがゲーリングの部屋のドアを開けたときは、既に時計は正午を指していた。
と同時に、鼻をついたいい匂いにロタールがヒクヒクと鼻を鳴らす。
なんの匂いかをつき止めながら、既に指摘席と化したテーブルのイス1つに腰を下ろした。
密かに手作りクッションが敷かれているのが嬉しい。
よく見ると端の方に微かに『ロタール』と刺繍まで入っている。おまけにチェーンステッチだ。さすがの芸の細かさに、ロタールは感心を通り越して苦笑を浮かべた。
時代が時代なら、今頃立派な家政夫でもしてるだろう相手は現在台所である。
「で、うまくできたのか?」
相変わらずエプロンドレス姿のゲーリングがひょいと顔を覗かせて結果を聞くのに、うんうんと上機嫌で答えるロタール。
懇切丁寧な説明のおかげで何一つとちることなく、無事乾燥までこぎ着けたのだ。
ゲーリングにはいくら礼を言っても足りないというところだろう。
「洗濯機並みに白くなったよ。この際だからって他のみんなにも教えてあげたらこんな時間になっちゃったけどね」
照れ隠しで笑うロタールに、そうか、と素っ気ない口調で返事をしたゲーリングだが、
「食え」
スッと湯気のたつ皿をロタールへと手渡した。
「……え?」
「腹が減ったろ?」
戸惑うロタールに、当然のように食事を勧めるゲーリングがクイッと壁に掛かった時計を指さす。12時を少し過ぎたそれを認めたとたん、謀ったようにお腹がグーッと鳴った。
「みたいだ」
あははは、と朗らかに笑うとロタールはそそくさと渡された料理に舌鼓を打つ。
時期が時期なだけに、大したものは食べられないはずだが。
そこはゲーリングの手腕なのだろう。普段ならどうとも思わない料理が、こんなに美味しく感じられる。
ドイツ軍1の家事師の名も伊達ではない。
「うまいか?」
同じくように、向かい側のイスに座って料理を口に運ぶゲーリングが上目遣いで聞いてくるのに、ロタールは満面の笑みを浮かべた。
「うん、すごく美味しい。君の料理が食べれるなんて、洗濯機が壊れて良かった」
「言ってろ、バカ」
「ねぇ、ゲーリング」
「なんだ」
ぶっきらぼうに答えるゲーリングを可笑しそうに見つめ、今日一日思っていたことを口にする。
「嫁に来ない?」
「ぶっ………!なっ…なんだと、貴様ッ!!」
行儀悪いことを承知で、思いがけない言葉を掛けられたゲーリングは思いきりむせた。
当然口の中にあったものは全てテーブルの上にぶちまけられた。
「ああもう、汚いなぁ」
「だ、誰のせいだと思ってるんだ!」
「僕のせい?」
「お前以外の誰が原因と思えるんだッ!!」
廊下にまで筒抜けの大声に、聞いた通行人は、またか、と苦笑顔を見合わせる。
今日は休日。限られた安らぎの時間。
彼ら2人の掛け合い漫才が聞こえるうちはまだ大丈夫だと、根拠のない安心感が皆に行き渡る。
今日は休日。
願わくば、いつまでもこの雰囲気が保てますようにと、青い空に向かって誰もが願いを込めるのだった。
こんな時代に洗濯機があったのか、なんてツッコミは無視です(爆)
とはいえ、男同士が小さな部屋で向かい合って同じモノを食べるっていう光景はなぜか好きですね〜(笑)
それも片方がすっごい世話焼きだったりとかするともう完璧(笑)
そんな俺の理想を全て背負ってくれたのが、今回のいい男ゲーリング☆
嫁にでも養子にでも行ってくれって感じです(笑)
ちなみにトンチキなロタールがまたいい味を出してくれて、俺的には結構笑いだったりする(笑)
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