Thank you 67000hit over!
This counter getter is "Usui"

『招かれざる客』 Written by Takumi


 深夜を過ぎた帰宅。
 連日に及ぶ会議と、それに伴う処理に追われ最近はロクに寝ていない。
 明かりを落とした屋敷は静まり返り、ヴィクトールにしばしの安堵を覚えさせた。
「お帰りなさいませ」
 迎えた執事が、だが何か言いたげに視線を絡ませてくる。
 なんだ、と問えば今度は逆に言葉を濁し、ためらいがちにそっと耳元で囁いた。
 途端、ヴィクトールの眉根が寄る。いぶかしげな声が上がった。
「―――客?」
 その様子に執事はそっと、身をすくませた。

「やぁ、遅かったね」
 笑いを含んだ柔らかな声でヴィクトールを迎えたのは、今朝の会議で会ったばかりの顔だった。くつろいだ様子でカウチに寝そべり、ブランデーグラスを手にする様子は当の主人よりも主人らしい。
「こんな時間に何の用だ」
 相変わらず非常識だな、と棘のある返事をするヴィクトールに、怖いなぁ、とさして気にしてない素振りでブランデーを飲み干す男が体を反転させる。
「せっかく会いに来たのに」
「時間を考えろと言っているんだ。それに今朝会ったばかりで何が、会いに来た、だ」
「やだなぁ、わかってるんだろ?」
 含み笑いをした男、ユージィン・アフォルターが、ふふん、と意味深な笑みを送る。何か言いたげな視線に、ヴィクトールがちらりと背後を見やり、そのまま何も言わずに自分の上着に手を掛けた。
「先週したばかりだ」
「足りないよ…全然」
 冷たく言い放つも、逆に笑ったユージィンに軽くあしらわれる。ため息をついたのは無意識だった。
 いつからともなく続いている、体だけの関係。
 士官学校からのつき合いは、良くも悪くもお互いを理解するに十分の年月で、だからこそ時折もどかしいぐらい誤魔化しが利かなくなる。
「満足したら帰るのか」
 脱いだ上着をそこらに掛け、振り返ったヴィクトールの視線の先には既に上着のボタンをいくつか外したユージィン。ブランデーに濡れた舌先で微かに自身の唇を舐め取る様子は、明らかにこちらを誘った仕草で。
 その蠱惑的な雰囲気に、つい挑戦的な台詞が零れ出た。
 クスッと笑うユージィン。まるでこちらの思惑を察しているかのように、そうだね、と言葉を続けた。
「そう簡単には満足しそうにないけどね」
「……好き者が」
「ひどいなぁ。君だって楽しんでるだろ?お互い様だよ」
 そしてどちらからともなく、唇を重ねる。そうすれば、どちらがより相手に惚れているなどという勘違いをしなくて済むから。
 何度目かの情交をした際に、お互いの間で無言のうちに決まったルールの一つだった。
「……ん、…」
 最初はゆっくりと、だが次第に角度を変えて互いの咥内を探り合う。舌先を尖らせてユージィンの舌を絡め取ったヴィクトールが、疲労を感じさせない動きで吸い付き、時に優しく咬んでは新たな刺激を与えていった。
 それと同時に、互いに相手の衣類を脱がせていく。キスをしたまま、シャツのボタンに手を掛けて合わせ目から両脇に掛けて手のひらをスーッと滑り込ませた。
「…っ…あ、」
 それだけで、脇腹の弱いユージィンが微かに身じろぐ。やめろと言うように腕を掴み、だがそれとは裏腹に腰を押しつけてくる。完全に堅くなったソコに早く触ってくれと言うようなその仕草に、ヴィクトールは気づかないふりをした。
 それどころか、まだ完全には脱がされていないユージィンのシャツに隠された胸の突起を布越しに口に含む。下肢同様、堅くなったそこを唇で挟み、いたずらに弄んだ。
「ちょ…ヴィク、トール…!」
「満足させてほしいんだろう?」
「そう、だけど…っ、子供じゃないんだから、別に…」
 もっと直接的な愛撫をしてくれ、とSEXに慣れた体を持て余したように密着させた腰を上下に揺らし始めるユージィンに、ヴィクトールが喉奥で笑う。
 たしかに学生の頃は、お互いどこか相手に負けまいとしているところがあった。与えられる愛撫に素直に声を出さないユージィンと、締め付けられる快楽に溺れないようギリギリまで射精感を我慢した自分。
 愛ある行為と言うよりは、むしろ相手をいかに泣かすか…そんな小さなことにこだわったSEXだった。
 だが今はお互いいい大人で、計らずとも互いの癖も知り尽くした仲だ。
 そんな関係の自分たちに、今更焦らした愛撫など必要ないだろうと言ってくる唇に、黙れ、と言うように少々荒っぽいキスをした。
 んぅ、と抗議を申し立てる男の顎をしっかりと掴み、喉の奥まで犯すような深い深いキス。昔はそんなキスをすればたちどころに腰が砕けていたのに、今は逆にその荒っぽさを楽しむ余裕すら見せる。
 淫乱め、とヴィクトールは知らず笑みを深くした。
「…ふ、ぅ…」
 長い口づけを終え、放心状態のユージィンがぐったりとその顔をヴィクトールの肩口にもたれさせた。ふぅ…と首筋に掛かる息づかいがどこか艶めかしい。
 休む間を与えず、それまで申し訳程度に体を覆っていたシャツを剥ぎ取り、ユージィンの裸に見入る。また痩せたな…と思いながらも口にはしない。相手を労るような台詞はこの場には不釣り合いだった。
「どうした?直接的な愛撫がほしいと言ったのはお前だが」
 ガクガクと震える膝でなんとか持ち堪えているユージィンの腰を掴み、耳元で低く囁く。そのまま耳朶を含み甘噛みしてやると、ん、と息を詰める仕草が密着した体に伝わった。
 ヴィクトールの手が相手の下肢へと伸びる。ソコはもう完全に勃ち上がり、すぐにでも触ってほしいと言うように積極的に何度も擦り付けられた。
「ユージィン」
 頭上から見下ろすように、声を掛ける。だがぐったりと肩口に頭を預けた男は微かに身じろいただけで、これといった動きを見せない。その様子を見て、それとも、と言葉を続ける。
「満足か?」
 笑いを含んだ声で聞いた。当然嫌だとかぶりを振るものだと思ったが、実際は首筋に走った鋭い痛みに息を呑む羽目になった。
「……痛ッ」
「冗談でしょ」
 それまでぐったりと肩口に頭を預けていたユージィンが、したり顔で頭を上げ、婉然と笑う。青緑の瞳が、邪眼がいつになく光を帯びていた。見れば唇には微かに血の跡がある。
 噛まれたかと思い至り、相手を睨めば軽く肩をすくめて笑われた。
 まるでそれまでの媚態が偽りであったかのような、余裕のある仕草。耳に心地よい、彼独特の軽やかな声が響いた。
「こんなので満足してたら苦労しないって」
 そこで言葉を切ったかと思うと耳元に唇を寄せ、それに、と声を潜ませて囁く。
「まだ君を感じてないよ」
「……っ…」
 声と同時にヴィクトールの下肢をゆっくりと手のひらで撫でる様は一級の娼婦のよう。形をなぞるように下から上へ、掬い上げるように持ち上げた。
「僕の中、さっきからすごく熱いから…」
 耳元にユージィンの舌がねっとりと絡み付く。耳朶を甘く噛んだところで、ため息混じりの声を発した。
「試してみる価値、あると思うよ?」
「……淫乱が」
「好きだろ?」
 互いにしばし、視線を交わす。無言のやり取りに先にくぎりを付けたのはどちらだっただろう。
 そっと体を離し、どちらともなく隣室に向かう扉、寝室へと足を向ける。脱いだ服もそのままに、飲みかけのブランデーグラスも放置したまま。
「夜は長いから、ね」
 意味深なユージィンの言葉と共に、扉が閉まる。
 パタ…ン―――。
 静かな屋敷に、ほんのわずか、音がした。


ウスイさんからのリクエストは「ヴィク×ユー」を虚無編の雰囲気で!と言うことでしたが。
果たしてそのリクエストをどれだけ叶えることが出来たか…微妙です(-_-;)
途中まで「よ〜し!久々にユーにあんあん言わせるぞぉ!」と思ってたんだけど、それじゃ虚無編風じゃないし…と思い直し、なんとか喘ぎ声を少なくしてみました。つーか、俺の中での虚無編のイメージって…。
でも久々のエロらしいエロです。
書いてわかったのは…「あぁ、ちくしょー!エロ、面倒くせぇな!」ってことなんだけど(笑)←正直すぎます!
なんだかオヤジ達の情交を書いてると、妙に穏やかな気持ちになりました。これぞ熟年のなせる技。
個人的にこのカップリングは四畳半のイメージが強いんですが、書こうと思えばこんなフツーのやつも書けるんですよ。
とまぁ、要するになにがどう虚無編か…ウスイさんにお任せしますってことで。
少しでも楽しんで頂けると幸いですm(_ _)m

 

 

 

戻る