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『成田離婚』 Written by Takumi


 ざわついた空港。
 忙しく行き来する人々の波と、そこここでかかる発着アナウンスにますます動機が早まる。
 引き返すなら今だ。
 空港に着いたときから何度も胸に浮かんだ想いがまたも頭を支配する。
 近づく搭乗口。
 俺たちが乗る便は895便、日本行きだ。
 新婚旅行はお前の故郷に行こう、そう言ったのを今更ながら後悔する。いや、後悔してるのはそんなことじゃないかもしれない。この結婚自体に、俺は後悔してるのか。
「ラファエル?」
 搭乗口直前で立ち止まった俺をシドーが振り返る。
 怪訝そうな漆黒の瞳が今は直視できなくて、俯いた。
「……ごめん、シドー。俺、やっぱり行けねーよ」
「どうした。気分でも悪いのか」
「そうじゃなくて……」
「ハッキリ言ってみろ。怒らないから」
 珍しく口ごもった俺の肩を優しく抱く腕。
 シドーはこんなに優しいのに。不安になる必要なんて、どこにもないのに。
 伝わる体温が今は切なくて。
 震えそうになる身体に力を込めて、ずっと頭を渦巻いていた単語を口にする。喉奥がひりつくのは罪悪感からか、それとも……
「離婚」
「……は?」
「離婚、したいんだ……」
「………理由は」
 怖いぐらい無表情のシドーが目の前。肩を出した手に力がこもったのがわかった。
 でも痛いなんて言えない。
 そんなこと言う資格、今の俺にはないから。
「お前のことすげー好きだけど、俺、Hとかあんまり好きじゃないし」
 昨夜は空港近くのホテルを取って初夜に望んだ。
 俺ははじめてで……でもやっと手に入れた俺の身体を夢中になって抱くシドーは歯止めがきかなかった。
 何度も痛いと叫んだのに。止めてくれと泣いて頼んだのに。
 たしかに痛かったのは最初だけで、そのあとは俺もシドー同様乱れに乱れたけど、それでも最初の痛みだけは忘れられるモノじゃなかった。
「それが理由なのか」
 声低く問うシドーの視線を感じる。
 浮かびそうになる涙は悲しみから。
 シドーにこんな思いをさせるなんて。あんなに結婚前は優しくされたのに。今だって、こんなに根気よく俺の話を聞いてくれるのに。
 でもだからこそ、シドーとは別れなくちゃいけない。
「あと…お前激しくて、俺なんかじゃ物足りないだろ……」
「どうしてそう思う」
「…………なんとなく」
 嘘だ。
 昨夜散々感じた、自分とシドーの性体験の落差は一目瞭然で。
 体力には自信があったはずの俺が、2回シドーを受け入れるだけでへばってしまった。
 でもあいつのはまだやる気満々で。
 なのに、俺がこんな状態だからって我慢してくれたんだ。
 慰めれば良かった。
 触ってでも、しゃぶってでも。
 最初って肝心だ。
 きっとこれからも、こんなことは何度かあるはずだし。その度にシドーに我慢を強いてたら俺達なんてすぐに壊れてしまう。嫌われてしまう。
 そんなことはイヤだった。
「ふざけるな」
 押し殺したような声が耳近くでした。僅かに怒りを含んだそれに、思わず身体が強ばる。
 だがすぐさま腕を強引に掴まれ、引っ張られた。
「痛ッ……シ、シドー!」
「………………」
 あまりの痛さに顔をしかめたけど、そんなことはお構いなしにズンズンと歩調を早める。
 そんな俺達を周囲の人達が物珍しそうに眺めるのを尻目に、向かった先は男子トイレ。
「なに……」
「いいから、入れ」
 問答無用で個室に押し込められた。
 暴れようにもスペースは狭すぎて、おまけに続けて入って来たシドーにすぐに鍵を閉められた。
 お互いの呼吸を必要以上に近くで感じる。
 昨夜の出来事を思い出してしまいそうで、1人顔を赤らめた。
 だがそんな俺を無視してきつくシドーが抱きしめてきた。骨がきしむぐらい、強く。
「痛ぇ………」
「昨日あれだけ愛してやったのに、なんで今更」
 そんなこと言うんだ、と怒りに震えた声がする。
 次いでカチャカチャとベルトを外す音にギョッと身体を強ばらせた。
「やっ…ちょ、シドー!」
 腕を突っぱねて胸板を押しやろうとするが、がっちりと掴まれた身体は思うように動かなくて。
 そうこうしないうちにファスナーの中からシドーの手が入り込んできた。
「んっ……」
 器用に下着の中をかいくぐり、目当ての代物を手に握る。昨夜散々弄ばれたそこは、シドーにつけられたキスマークがめいっぱい付いてるはずだ。
「……ぁ、ん………」
 その手がゆっくりと動かされて、ぴくっと身体が敏感に反応した。
 昨日の初夜を味わった身体は一夜にしてこんなに淫乱な代物になってしまった。それが酷く恥ずかしくて、声を上げることすら躊躇う。
 だがやり慣れたシドーの手は、容赦なく俺の感じやすい点を次々と見つけだしては攻め苛む。
 俺はバカみたいに身体を震わせて、それを受け入れて。
 亀頭を親指で擦り上げられたのを機に、たまらず果てた。
 あっけない終わり。
 俺1人が虚しく荒い息をしてシドーの頭を肩にもたれる。シドーの掌に吐き出された貪欲な液体がますます俺を落ち込ませた。
「やだって…言ったのに………」
 じわり、と目に涙が浮かぶ。
 こうまでして自分を虐めたいのかと、心底悲しくなった。
「……く…ぅ………」
 だがすぐ近くで聞こえたシドーの声に、顔を上げた。信じられない光景に目を見開く。
「シ、ドー……?」
 シドーが自慰をしていた。
 その手は、さっき俺が吐き出した精液でまみれてて。
 目を閉じて一心不乱に手を動かす。たまに吐き出す呼吸は次第に熱っぽいモノになっていって。じっとりと滴りだした精液が、俺のそれと混じり合う。ぐちゃぐちゃな様子は、でもなぜか嫌悪感の類はまったく感じられない。それどころか、俺の精液を使って自慰に興じるシドーの様子に、俺は密かに欲情していた。
「……ん………っく!」
 一際強くしごいたところで、シドーの顔が苦悶に歪んだ。
 ぞくり、と言い様のない感覚が俺の背筋を走り抜ける。
「はぁ…はぁ………」
 射精したシドーが肩で息を吐く。その手はすっかり精液で濡れてた。俺のと、シドーので。
 俺が言葉を掛けられずにいると、目を閉じていたシドーがゆっくりと瞼を開く。
 漆黒の瞳が微かに潤んだ様子で俺を捕らえた。
「俺はお前のこと考えただけでイケるんだ」
 愕然とする。
 あのシドーが、こんなことを言うなんて。
 無表情で無感動で、俺の事をいつも余裕に満ちた態度で高みから見下ろしてるようなあのシドーが。
 俺の前でみっともなく自慰をして。俺をおかずにしたんだと告白して。
 カラカラに乾いた喉がなにも言えずに引きつった。苦労して飲み込んだ唾が音を立てる。
「だって……」
「お前じゃないとダメなんだ」
「…………ッ」
 たまらなかった。止まらなかった。
 どうしようもない衝動が、シドーの身体に抱きつくことで収まる。
 みっともないぐらい泣いて、謝って、キスをして。
 トイレの個室で男2人がなんて間抜けなことをしてるんだろう。
 頭の片隅ではそう思うのに、でもシドーに再び抱きしめられればそんなことは全て忘れることができた。
「もう離婚するなんて二度と言うな」
 耳元で言われれば、もう大人しく頷くしかない。
 首筋にキスされて、いいか、と訊ねられれば自分から腰を押しつけた。
 驚いたように微かに目を見開くシドーに、すかさず触れるだけのキスをした。
 声を殺してのH。
 それは酷くスリルを伴うモノだと俺が知ったのは、初夜から2日目の午後だった。

「行くか」
 搭乗口を前に、シドーが振り返る。
 それに満面の笑みで答えると、俺は奴の手を取って先に歩き出した。
 無理するな、と腰を叩かれ赤面する。
 でもそれら全てが、愛しくてたまらなかった。
 成田離婚は不成立。
 俺達の未来は明るい。


どこから突っ込んだらいいんだろう……
そんな声が聞こえてきそうな今回の初裏記念。
ひとまず激しいシドーと、少女チックなラファってところか(笑)←笑えるのか?(^-^;
しかし成田離婚ってどういう意味なんでしょう?俺の解釈は……違うのか?
ここ数年ずっとそうだと信じて疑わなかったのだが。
とはいえ、こんなものを表に置いてどうするよ、俺……ホモは表にゃ置かないんじゃなかったのか?(爆)
なにはともあれ、そんな全てのことに目を瞑ってくださると幸いです(笑)

 

 

 


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