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『贈り物の醍醐味』 Written by Takumi
週末の市場は人でごった返していた。
近隣の村と基地の人間が一斉に集まるのでそれは仕方のないことなのだが。
あまりの人の多さに出てきたことを少し悔やみながら、シドー・アキラ二等兵は軒を連ねる店店を丹念に見て回っていた。
今日の目的は古本探し。
暇を潰すにはもってこいの趣味は、だが当の本がなければどうにもならない。
当初は周囲の人間から山のように借りていた本も、だが数週間で全て読み終わってしまった。
こうなったら自分で買うしかないだろう、ということでわざわざ市場に足を向けてみたのだが。
夏真っ盛りということもあり、熱帯性気温のボルネオはまさに灼熱地獄のようだ。
立っているだけで滴ってくる汗を乱暴に袖口で拭いながら、上手に人混みを縫って歩く。
「あっ…と……」
数歩の違いで買い物客と肩が触れ合う。
その拍子に相手の持っていた紙袋から盛大にオレンジが転がり落ちた。
「あらやだ、ごめんなさいね」
すぐさましゃがんでそれらを拾うシドーに、両手に大荷物を抱えた婦人が申し訳なさそうに謝る。
いえ、とそれに短く答え、落ちていたオレンジを全て紙袋に入れると婦人には渡さず自分で抱える。
「悪いのは俺の方ですから」
「いいえ、私の方こそよそ見をしてたから……」
いつまでも手渡されない荷物の行方に怪訝そうに顔を傾げる婦人。
怪しまれないようにほんの少し口端を上げてみせたシドーが、声だけは抑揚なく答える。
「家まで運びます」
「あら、悪いわよ」
「暇ですから」
淡々と答え、さっさと先を歩き出すシドーの背中をしばらくポカンと見つめ、だがすぐさま破顔して婦人もあとを追う。
シドーの不器用な性格をすぐさま見抜いた眼孔は長年の接客職務によるものか。
そんな2人が辿り着いたのは1件の商店。
ドアをくぐったシドーがそこで目にした意外な人物に、微かに目を見開いた。
「アブドゥル伍長」
「ん?なんだ、シドーじゃないか。珍しいな」
髭とバンダナがシンボルマークの伍長ことアブドゥルが、店内で商品を物色している最中だった。
向こうもここでシドーに会うとは思わなかったのか、素直に驚きを表情に出している。
「あら、アブドゥルさんのお知り合い?」
そんな2人の間を慣れた様子で進みカウンター内に収まった先ほどの婦人が可笑しそうに笑う。つまり彼女はここの店長ということか。
「うちの新兵ですよ。そちらこそ、いつ知り合ったんです?」
「ついさっきね、大荷物の私に親切に荷物を持ってくれるって言ってくれたのよ」
良い子じゃない、と目を細める婦人がシドーを見つめる。
だが当の本人ははじめて入った店内を興味深そうに見回しているからか、その視線には気づかない。
古本屋とお菓子屋を同時経営してるようだ。
本屋を探す手間が省けたと早速店内の本を物色してみる。
だが並んだ本の中に「簡単お菓子クッキング」なる本を見つけ、そういえば、と先ほど目にしたアブドゥルの手の中の物を思い出し、シドーは婦人との談笑に花を咲かせるアブドゥルを振り返った。
「伍長、甘い物お好きでしたっけ」
「これか?」
突然の質問にばつの悪そうに照れ笑いを浮かべるアブドゥルが、カウンターに並べられた菓子の山を指さす。
チョコや飴の類がこれでもかというほど積まれた様子は髭面の彼とはかなりミスマッチだ。
甘い物が嫌いだという話は聞いたことはないが、それでもこんなに食べるとも聞いたことがない。
「うちの坊やにだよ。最近訓練頑張ってるから、そのご褒美」
坊や、つまりはラファエル宛ということか。
シドーの脳裏にすぐさま元気の良すぎる同僚の顔が浮かんだ。
騒々しくて人の倍食べる胃袋のでかさは第二分隊1の、やたらと自分にかまってくる少年はたしかにここ数日の訓練は妙に張り切っている。
おそらく隊長を女と認識しなくなったおかげで、本気で彼女を倒そうと躍起になってるのだろう。単純なことこの上ない。
とはいえ、そのせいかここ数日のラファエルの動きが良くなったのもたしかで。
彼が隊長を倒す日が来るんじゃないかと期待している自分がいるのもまた事実だった。
「今日はそのために市場に?」
人の良いアブドゥルならそうであってもおかしくない。
キャッスル隊長・エイゼン軍曹の存在が強すぎて必然的に影が薄くなりがちのアブドゥルだが。その彼の優しさが隊を和ませていることをシドーは知っていた。見事なまでの飴と鞭である。
シドーの質問に照れ笑いをするアブドゥルが、ほんの少し視線を彷徨わせた。
「あ〜…いや、ちょっとバンダナも新調しようかと思ってな」
「そうですか」
「………ほんとだぞ」
「誰も疑ってません」
不毛な会話がクスクスと軽やかな笑いで遮られる。
見ればカウンターからこちらを見つめる婦人が笑いを堪えているところ。
「シドー君、だったかしら?」
その唇が自分の名前を読んだことに首を傾げ頷くと、ひょいっと伸ばされた指が本棚を指さす。
「お礼に好きな本どれでも一冊持っていきなさい」
既に腕の中には5冊の文庫本が抱えられている。
突然の申し出にすぐさま辞退の言葉を返そうとしたところで、アブドゥルがボソッと耳打ちしてきた。
「お言葉に甘えとけ」
「ですが………」
「向こうもああ言ってるんだし。ほしい本がなかったら誰か宛にもらっていっても損にはならないだろ」
断る方が失礼だぞ、と言われればたしかに一理ある。
だが基地内の知り合いで本を読む人間などすぐには思い当たらない。
隊長はあれでいてなかなかの読書家らしいが、今はそれどころじゃなさそうだし。
軍曹は本より異性に興味があって。
ここでアブドゥル伍長用に本をもらっても遠慮して受け取ってくれないだろう。
ラファエルは……考えるだけ無駄だ。
あれこれと考えを巡らし、並ばれた本の背表紙に目を通す。
ふと、一冊の本に目が止まった。
―――賛美歌だ。
同時に、そばかすだらけの顔ではにかむように笑う同僚の顔が思い浮かんだ。
一度だけ耳にした歌声は、いつもの彼とは想像が付かないほど澄んでいて綺麗だった。
どうせあげるなら役に立つものが良いな。
「これにします」
賛美歌を手に取ったシドーを、アブドゥルが怪訝そうな顔で見つめた。
「そんなものでいいのか?」
「これがいいんです」
言い返したところで知らず顔が緩んだ。
これをあげたとき、あの同僚はどんな顔をするだろう。驚きに目を瞠り、それからすぐに顔を赤面させるだろうか。震える手でこれを受け取り、あのはにかむような笑顔を浮かべるはずだ。
その瞬間はきっと得も言われぬほどの満足感を味わえるに違いない。
先ほどアブドゥルがラファエルにお菓子を買っていた理由がやっとわかった。
あれだけ満面に喜びの表情をされれば、こちらだってあげた甲斐があるというものだ。
あの一瞬の表情が見たくてこんなことをしてるんだと言っても過言じゃない。
「これがいい」
ギュッと賛美歌を持つ手に力を込めた。
皮独特の感触が伝わるのを噛みしめる。
シドーの表情を見てアブドゥルが一瞬目を見開いた。
珍しいこともあるもんだ。
そう思った彼が苦笑と共に微かに肩をすくめたのを、果たしてシドーは気づいていたのか。
まずい……何気にシドー×クルゼルだ……(爆死)
と、しょっぱなから撲殺モノの発言をしてみたんですが。言われる前に言ってしまおうというやつです(笑)
とはいえ、アブドゥルとシドー。どうせなら2人同時に出してしまおうと考えたんだが……う〜ん(^-^;
結局なにが言いたかったんだ?シドーとクルゼルはラブラブ?(爆)←自ら墓穴を掘るなよ
いや、それは置いといて(笑)
この2人の組み合わせって本編でもあまりないんですよね<シドー&アブ
今後の展開で色々と絡んでくれたらいいんですけど。一緒に買い物に行ったり、訓練につき合ってくれたり……って俺が言うとなんか嘘くせぇ!!(爆)
こんな具合になってしまいましたが、少しでも楽しんでもらえれば幸いですm(_
_)m
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