Happy Birthday "Takumi"
Have a good time!

『贈り物』 Written by Takumi


 その視線に気付いたのは、会議が始まってすぐ。
 普段とは少し違う、舐めるような視線にそれまでの妙な違和感に合点がいった。
 時折唇を舐める仕草、組んだ指先を弄ぶように動かしては唇に含む扇情的な態度が何を意味しているのかを。
 青緑の瞳が微かに笑む。
 周囲に悟られないように。欲望の影をちらつかせながら。
 だがその淫らな様は、誤魔化しようの無いほど執拗に自分を責め立てた。
「……盛るな、馬鹿が」
 そう口にしたのは会議が終わってしばらく経ってから。
 目の前でゆったりと微笑み、しっとりと重ねた唇を離した男が気怠げに前髪をかき上げるのを見つめて毒づいた。
「たまには良いだろ…こういう場所でするのも」
 いつ見つかるかドキドキする。
 無邪気に言うのは仮にも火星元首を務めるユージィン・アフォルター。
 普段は温厚な笑みと魅力的な声音で国民からの圧倒的な支持を得ている模範的元首は、だが表舞台の顔とは違う、凄みすら感じる笑みを浮かべてうっそりと呟いた。
「だから…しよう?」
「おい」
 上目遣いでこちらを見つめ、次いで伸びた腕が首を絡める。全てが流れるような、流麗な仕草。
 抵抗する間もなく、再び濡れた唇が静かに覆い被さってきた。
 反射的に相手の腰に手を伸ばす。軽く抱きしめたところで重なった唇から微かな喘ぎ声が上がった。
「……ぁ、ん…」
「好き者が」
 そんな反応を認め、思わず呟いたところで擦り付けられた下肢の欲望に目を瞠る。
「……おい」
「ん…なに……?」
 唇を貪る間も器用にシャツのボタンに手を掛けたユージィンが面倒くさそうに返事をするが、その手首を無理矢理掴み、引きはがした。
「どういうつもりだ」
「……だからなにが?」
 苛立った様子のユージィンが、今にも舌打ちをしそうな様子でじろりと見上げてくる。
 だがそれで騙されるヴィクトールではなかった。
「その股間に隠してるものを今すぐ出せ」
 さもないとお前のモノ、二度と使えないようにしてやるぞ。
 ブルーグレイの瞳が青緑のソレと絡み合う。次いでフッ…と笑みの形に歪んだ瞳が、同じように歪められた唇と合わせて微笑む。
「あ〜あ…巧く騙せたと思ったんだけどな」
 残念。
 肩をすくめ、悪いなどとは全く思っていない様子でユージィンが身体を離した。
 先程までの熱が嘘のように、その仕草に未練はない。
「どうやら本当に潰されたいらしいな」
 その様子に苛立ち、早く言えと促したところで不意にジッパーを下げるユージィンに思わず片眉を上げた。
「……どういうつもりだ」
「まぁ、そう慌てないで」
 短気は損気って言うだろう、と軽口を叩くユージィンがすっかり開かれたジッパーの穴に手を突っ込んだ。しばらくモゾモゾと股間をまさぐり、彼が手にしたものというと……
「誕生日、おめでとう」
 にこやかな笑顔と差し出された掌には、綺麗に包装された長方形の箱が一つ。
 怪訝そうな顔のヴィクトールに微笑み、ユージィンは説明を加えた。
「万年筆だよ。この間壊したって言ってただろ?」
 誇らしげな口調。
 だがそれを耳にしたヴィクトールが微かに肩を震わせていることに、ユージィンは気付かない。
 なんとか震えを抑え、唇を開いたヴィクトールが常にない笑顔を浮かべていることにすら、彼はプレゼントに対する喜びだと思っていたのだ。
「……貴様、まさかとは思うがこれを俺に贈るつもりか」
「そうだけど?」
 キョトンとした顔で聞き返すユージィンに、ブルーグレイの瞳がますます青みを増す。
 次いで轟いた怒声に、ユージィンは思わず首をすくめた。
「一体どこの世界に男の股間で暖められた万年筆を喜ぶ男がいるんだ!?」
「何人かは…いるんじゃないかなぁ」
「特例を挙げるな!いいか、俺はだな……」
 そうして延々とはじまる説教に、ユージィンがあからさまに顔をしかめる。
 彼はなぜ自分が説教されているのか、わかっていないのだ。
 わかっていることはただ一つ。
 また自分はこの親友の勘に障ることをしていて、見事それが的中してしまったらしい。
 頭上から降り注ぐ説教の数々に肩をすくめながら、ユージィンはこっそりとため息をついた。
 ヴィクトールの説教はそれから約一時間続いたという。


自分で自分の誕生日を祝う…空しいなぁ(^-^;
とはいえ、このファイル自体FD不調のため長い間消滅してて、今回気合いを入れて復興させてもらいました。
どこまでも運のない誕生日祝いだ…。
ちなみに当時はこの「股間部で暖められた贈り物は嬉しいか否か」という質問に、かなり多くの方から「嬉しい」という返事を
頂いて正直戸惑ったもんです(笑)
そうか、みんな嬉しいのか…。
改めて自分のHPに訪れる人たちの奇特性を垣間見た気分でした(笑)
でもこんな内容でもそれなりに楽しんでもらったみたいで、幸いです。
これからも気長につき合ってくださいませm(_ _)m

 

 


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