『朝のまどろみ編』 Written by Takumi


  窓から射し込む光が、寝室をゆっくりと照らし出す。
 乱れたシーツ、床に散らばった衣類が昨夜の情事を伺わせた。
 部屋の中央に据えられた巨大な天蓋つきのベッド。
 そこに部屋の主と思われる1人の青年が一糸まとわぬ姿で横たわっていた。褐色の肌、漆黒の髪が印象的な、華奢な体つきの青年だ。
 その横では、同じく裸体の青年が上半身を起こし傍らで寝息をたてる青年を愛しげに見つめていた。こちらは燃えるような赤毛が目にも鮮やか。
 聞こえる寝息に、男は静かに上半身をかがめると、その頬にそっとキスをする。
「ん……」
 隣で寝ていた青年が不意に寝返りを打った。
 その拍子に彼自慢の漆黒の髪がその横顔を覆う。
 それを払おうと手を伸ばし、そっと額に手を触れた。とたん、それまで閉じていた瞼がうっすらと開く。闇色の瞳が自分を捕らえた。
「あれ……もう起きてたんですか?」
 目を擦りながら問う青年。
 その子供っぽい仕草に苦笑を浮かべながら、男は青年の寝乱れた髪に手を触れた。
 サラサラと気持ちよく指間を流れる髪の毛に唇を当てながら、
「いつも何時頃起きてるんだ」
「7時ですが?」
「遅すぎるぞ」
「兄上が早すぎるんですよ」
 クスクスと清々しい笑いを発し上半身を起こそうとするイレシオンを片手で制した。
「なんです?」
 怪訝そうに首を傾げる。
 その顔に見とれる自分を自覚しながら、そっと顎に手を添えた。
「キスを……」
 囁くと同時に、どちらともなくしっとりと唇を重ねる。
 乾いた唇が次第に濡れ、やがて男はその漆黒の髪を頭ごと抱きしめた。自然口づけは深まる。
 窓から注いだ光が、シーツの上にそんな2人の影をかたどった。だが構わずただ一心に互いの存在を確かめる。
 無二の存在であることを。

「朝からするキスじゃありませんよ」
 やがて唇を離し苦笑しながら髪をかき上げるイレシオンに、ドミトリアスは目をすがめた。
「お前が色っぽいからだ」
 そして普段は鷲のようにどう猛な瞳に柔らかな笑みを浮かべる。
 イレシオン以外の者が見ることを叶わない、彼の素顔。
「また御冗談を」
「冗談なんかじゃない……お前がほしい」
 スイッと腰に回った腕。その慣れた様子に苦笑を浮かべながら、だがシオンは抵抗の様子を見せない。
 代わりにその腕にやんわりと触れた。
「ダメですよ、もうすぐ人が来ます」
「構わん」
「私が構うんですよ。そろそろお部屋にお戻りください」
「冷たいことを言う」
「ではよからぬ噂を立てられても良いと?」
 にっこりと邪気のない笑みを浮かべた弟に、ドミトリアスはがっくりと肩を落とす。
「まったく、昨夜はあれほど可愛かったというのに」
 ブツブツと文句を言いながら、だが諦めたのか、素直に床に散った衣類に手を伸ばし袖を通す。
 どんな状態においても自分が皇子だということを忘れない、そんな兄の性格を知り尽くした弟の勝利である。
 しかし衣類を身につけながらも、ドミトリアスは名残惜しそうな眼差しをイレシオンへと投げかけた。
 その様子にイレシオンはクスクスと笑みをこぼすと、
「では昼間も可愛く演じて見せましょうか?」
 素肌にまとったシーツをわずかにめくりながら、上目遣いに兄を見つめた。
 その様子に思わずゴクリと生唾を飲むドミトリアスである。
 ボタンを留める手が止まる。
「いや……今のままで良い」
 やがて再びボタンをかける手に集中したところで、俯きながらボソッと呟いた。
「え、なんです?」
 聞き返すイレシオンに、カッと耳まで赤くしたドミトリアスが足早に部屋を出る。だが扉の向こうに消える間際、一瞬だけこちらを振り返り、悔しげに言った。
「お前のそんな様子を見るのは俺1人で十分だ!」
 すぐさま周りに気づかれぬよう、静かに扉が閉まる。
 1人ベッドに取り残されたイレシオン。
 だがその肩が次第に小刻みに震え、ついには声をあげての大爆笑となったのを、ドミトリアスは自室に帰る途中の階段で苦々しく聞いていたのだった。
 王位継承者が集うカデーレ宮殿。
 だがいつの時代も、皇子達が互いに憎みあってただけとは限らない。
 そして今夜も、イレシオンの自室の扉は開かれるだろう。
 自分が唯一崇拝する、未来の皇帝のために―――。


初めて書いた血伝ショート。
なんて言うか……兄上別人過ぎ!!(爆死)
しかも文章もとんでもなくへったくそで、今見たらその下手さに思わず涙が出そうッス(T-T)
とはいえ、これもまぁタクミの軌跡ってことで誤字脱字以外はなにも手を加えずUPしてみることにしました。
当時はこれをメールで知り合いにダーッと送ったんだよなぁ……(遠い目)
そしてこの作品を皮切りに、次々と、まるで憑かれたかのように血伝ショートを書きだした、と(笑)
ちなみに当時のメールの冒頭には……
『ドーンの坂道を転がり落ちるような暗さにやや引き、アルゼウスの死去にショックを受け、シオンの執念にある種の妄想を抱き、ミュカを完全無視しながら無事読ませていただきました(笑)』
とある(爆)
いや、現在もまったくその気持ちに変わりはないのでこれからも頑張ろうかね〜ヽ(´ー`)ノ

 

 

 

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