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美味しい食事Written by Takumi


 昔から気の弱さだけが目立ってた。
 小さな物音一つでビクついて、強面そうな連中を見ると自然俯いて歩いていた。
 そんな僕がなぜ治安部隊なんて最も縁遠いものに入隊したのか。
 なけなしの強がりだったのかもしれない。僕にだってこのぐらいできるんだと、周囲に見てもらいたくて。これ以上、馬鹿にされたくなくて。
 綺麗だと唯一誉められた歌声すら発する間もなく、日々死にものぐるいで生にしがみついた。
 『臆病者は良い兵士になれる』
 昔上司に言われた言葉だけを頼りに、なんとか今まで生きることができたけど。
 いつまた死ぬかわからない。不安定な毎日を昔と変わらずビクついて生きている。
 だがそんな日々が少し様子を変えた時。
 僕の周りには仲間と呼ぶべき人達が存在していた。
 これまでの上司とは比べものにならない、責任感が強く部下思いのキャッスル曹長、頼りがいのあるエイゼン軍曹、優しいアブドゥル伍長、元気で楽しいラファエル、そして……
「どうした」
 不意に声を掛けられ、思わずスプーンを取り落とした。
 騒々しい酒保の喧噪の中で、その声だけはまるで別物のように僕の耳に届く。低い、だが深みのある声。
「あ、シドーさん……」
「隣、いいか」
 トレイを持って自分を見下ろす東洋人に、慌てて隣のイスを引いた。
 同じ部隊の仲間。
 そう言ってしまうにはあまりにも遠い存在で。寡黙な人格がそう思わせるのか、同じ二等兵のラファエルに対するものとは全く違う想いを僕は彼に寄せていた。
「珍しいですね、シドーさんがこんな時間に酒保に来るなんて」
 いつもなら自室で読書をしてる時間だ。
 酒保は夜になればなるほど騒々しくなる場所だから。彼のように酒に縁のない人は早めに夕飯を取るものと思っていたのに。
 その彼がこんな時間に酒保に来るとは思ってもみなかった。
 だがそんな僕の質問にチラリと目線を向けると、何もなかったかのようにスープに手を付けはじめる。無視されたのか、その僅かな気まずさにモゾモゾと座り直した。
「あの……」
「おい」
「は、はい!」
「スプーン、拾わなくていいのか」
「あ………」
 言われてはじめて自分がスプーンを床に落としていたことに気づいた。慌てて拾い上げると、スッと目の前に代わりのスプーンが差し出される。
「使え」
「あ、ありがごとうございます」
 情けないくらい、彼を前にするとあがってしまう自分がいる。もう何度同じ戦場を駆け抜けたかわからないのに。何度生死を共にしたかわからないのに。
 この緊張感だけはどうあっても解消されそうにない。
 それが少しもどかしくて、でもこれ以上彼との距離を縮めてはいけないという本能みたいなものがあるのも確かだった。
 隣で静かに食事を進める彼を見ると、とても声を掛けられる雰囲気じゃなくて。僕も静かに食べかけの食事に手を付けることにした。少し冷めたスープがまるで僕たち2人の関係を表してるようで、喉奥がキュッと狭まった感覚に少しばかりむせてしまった。
「ごほっ…ごほ………」
「大丈夫か」
「はい、すみま…ごほっ……」
 ナプキンを渡してくれる彼にお礼を言い、顔を背けて落ちつくまで何度も咳をする。すると席を立ったシドーさんがなにも言わず離れていくのを視界の端に認め、苦しさと情けなさに思わず涙がにじんだ。
 僕が鈍くさいから。おどおどしてるから、きっと嫌いになったんだ。
 僕はラファエルのような軽口も叩けないし、率先して行動するような勢いもない。
 ただ気弱さだけが誰よりも勝ってる、そんな情けない僕に彼が呆れるのもきっと仕方ないことなんだろう。
 頭ではそう納得するのに、心はそれを認めたくないのか。じわりと浮かんだ涙が頬を伝うのに時間は掛からなかった。
「ふ、う………」
 グッと歯を食いしめて声を殺す。こんなところだけ強がりな自分にまた嫌気が差すのを誤魔化すように、手渡されたナプキンで乱暴に涙を拭いた。
 背を丸くして、周囲に気づかれないように泣く自分は一体どれだけ成長したと言えるんだろう。
 馬鹿にされたくない、自分にもできるんだと証明したくて入った治安部隊なのに。
 気がつけば、入隊前と変わらない自分がいる。
 いつまでも臆病で、涙もろくて……
「……あっ………」
 ぺしっと頭を叩かれ、思わず顔をあげれば水の入ったコップを差し出した彼が目の前。
 見慣れた無表情が微かに目を細め自分を見つめるのに、慌ててゴシゴシと頬を擦る。
「シドーさん……」
「飲んだら少しは落ちつくだろ」
 そう言ってコップを僕の目の前に置くと、再び隣に腰を下ろし食事を再開する。
「あの…ありがとうございます」
 これを持ってくるために席を離れたんだろうか。僕のために、シドーさんが。
 戸惑いを隠しきれないまま礼を言えば、再びチラリと視線を投げてよこした彼がパンをちぎりつつボソリと言葉を吐く。
「気にするな」
「……え…?」
「失敗なら誰にだってある」
 なにを言われたのか、すぐにはわからなかった。だが次の瞬間、彼がなにを言いたかったのかがわかって僕は頬が上気するのを覚える。
 今日の訓練中のことだ。
 曹長とのマンツーマン指導でこてんぱんにやられた僕を、見学していた他の部隊の連中が指を差して笑ったのだ。そのときは恥ずかしくて情けなくて。同時に何も言い返せない自分がすごく惨めだった。
 きっと彼はそのときのことを言っているのだ。
 だとしたら、もしかして今日のこの遅い夕飯は……
「あの、シドーさん」
「……………」
 視線でなんだと答えられ、言うべきかどうか数秒悩んだところで思い切って想いを口にする。昔の自分ならここで自己完結をして終わりだった。でももう僕は治安部隊に入隊して、少なからずも仲間の暖かさを知ったから。
 昔とは違う、見えない勇気を持つことができたんだと思いたくて。
「ありがとうございます」
 満面の笑みで答える。そばかすでみっともない僕だけど、笑顔だけは歌同様に数少ない取り柄だから。気持ちを素直に伝えられる手段として、僕はシドーさんに微笑んだ。
 そんな僕をしばらく見つめたあと、ポンッと頭に彼の手が乗った。次いでグシャグシャッと多少乱暴にかき回される。
「その調子だ」
 抑揚のない言葉は、だが最高の賛辞で。
 僕は残りの食事を、入隊して以来はじめて美味しくたいらげることができたのだった。


改めまして、当HP初訪問の方には「ようこそいらっしゃいました」
常連には「やぁ、今年も濃くよろしく」
ということで……なぜシドー&クルなのか(笑)
なんとなくレア系のキャラで書いてみたいな〜と思った、それだけです(撲殺)
というか、クルゼルのあの雰囲気が初訪問者の初々しさにかぶってるな〜、と思ったからなんですが(笑)
個人的にはクルゼルには「ブラック・クルゼル」としてアナザーの世界を暗躍してほしいもんです(笑)
それこそ、シドーを監禁して自分の思い通りにしたりとか(笑)←おい
なにはともあれ、こんな管理人が経営するHPですが少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
…………こんなこと言って、初訪問者が1人もいないって可能性も当然あるんだがね(笑)

 

 

 

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