『ギャップとは……』 Written by Takumi


 飛行機乗りなら誰もが知っている、レッドバロンの称号を持つ男。
 マンフレート・フォン・リヒトホーフェン。
 『真紅の悪魔機』と呼ばれ、多くのスコアを記録し既に伝説的存在なのは決して過言ではない。
 その彼の自室の前の廊下を、先ほどから忙しなく行き来している男がいた。
 金髪碧眼の典型的なゲルマン系の容姿に、皮肉げな印象を与える薄い唇。
 (どうするかな……)
 カツカツと靴音が廊下に響く。先ほどから考えることはただ一つ。
 (このまま帰るか、もしくは……告白するか。二つに一つだ……)
 そう、彼ヘルマン・ゲーリングは明日の出撃を前に最後の決心を決めかねていたのだ。
 別にこれといって特別難しい出撃ではない。
 だが今日見た光景が忘れられかった。出撃前、はにかんだ笑みを浮かべて友が言った言葉が再び頭をよぎって消えようとしない。
「これが終わったら恋人に結婚を申し込むんだ」
 だが彼の願いは叶えられなかった。彼は撃墜された。落ちていく飛行機を遠目に確認し、改めて自分の生命の不安定さに気づいた。
 今日生き延びれたからといって、明日も生きていられる保証などどこにもない。
 なら、言えるうちに全てを告白した方がどれだけ気が安らぐか。
 たとえ軽蔑されようと、後々後悔するようなことに比べたらずっとましだ。
 そう思って来たのに、いざ扉を目の前にして再び決心が鈍りだした。立ち往生は既に20分にも及ぶ。
 (みっともないな………)
 そんな自分をかえりみて、思わず皮肉げな笑みを唇に浮かべ、
 (ここまで来たんだ。今更怖じ気づくな)
 叱咤すると同時に勢いよくドアノブに手をかける。掴んだノブをひねろうとした、そのとき――
「あれ…ヘルマンじゃないか。どうしたんだい?」
 廊下を歩いてきた部屋の主、今まさに決心を告白しようと思った相手、リヒトホーフェン大尉に声をかけられた。
 ゲーリングが飛び上がるほど驚いたのは言うまでもない。
「た、大尉……てっきりお部屋にいらっしゃるものかと………」
 それでもいたって平静を装って目の前のレッドバロンに敬礼をする。
 それを手で制すと、
「用事だったか?悪いな、シャワーを浴びてきたんだ」
 言うとおり、リヒトホーフェンの髪はわずかに湿り気を帯びていた。
 その様子に更に身体を強ばらせるゲーリングの内情を知ってか知らずか、
「部屋に入りなさい。話は中で聞こう」
 ゲーリングの横からドアを開け、そそくさと中に入る。断れるはずもなく、しばらく廊下で戸惑っていたゲーリングだが、
「早くしなさい。暖気が逃げる」
「は、はい。では失礼します」
 リヒトホーフェンの催促に慌てて身体を滑り込ませた。
 思った通り、綺麗に整頓されたリヒトホーフェンの部屋。彼の部屋に入るのはこれが初めてだった。
「で、話って?」
 ベッドに腰掛け、あどけない瞳で見上げる上司を前に、ゲーリングは直立不動の形を崩せない。
「いや、大したことでは……」
「私では頼りないか?」
「いえ、そういう意味では……!」
 苦笑するリヒトホーフェンに慌てて弁解するゲーリング。その様子にクスッと笑みを漏らし、
「ヘルマン」
 静かに名前を呼んだ。
 スッと手を伸ばし、ゲーリングの手を掴む。
「は、はい」
「話してくれ」
 真摯な瞳。対するゲーリングは直立不動が行きすぎて既に反り返った態勢で上司を見下ろす。
 シャワーを浴びたばかりだというその身体から漂う微かな石鹸の匂い。
 上気した肌、濡れた唇。
 それら全てに既に理性は薄れかけている。
「あ、あの……」
「うん?」
 首を傾げる。その仕草に再び胸を打たれつつ、ゲーリングは深呼吸を一つして唇を開いた。
「好きです」
「…………」
「不謹慎だということは重々承知しています。ですが……」
 言いかけた言葉を、柔らかい何かで遮られた。
 それが唇だと気づいたときは既にベッドに押し倒されてて。間近に見えるリヒトホーフェンの眼差しに動悸が激しくなる。
「あ、あの……大尉?」
「マンフレート、だよ」
 そして再び近づく唇に思わずゲーリングは目を閉じる。
 この展開はなんだ、という考えが頭をパニックにしたがそれもリヒトホーフェンの肌を感じた時点でどうでも良くなった。
 (俺達は相思相愛だったんだ……)
 ヘルマン・ゲーリング2○歳。
 世界中の幸福を一身に担ったような、そんな陶酔感に襲われた夜だった―――

 下半身の鈍痛で目が覚めた。
 (あれ……ここは………)
 見慣れない天井に首を傾げながら、だがベッドの傍らのソファーで優雅にコーヒーを飲むリヒトホーフェンを認め、慌てて身体を起こした。
 だがその途端、
「いっつぅ………」
 再び襲った下半身の痛みに、昨夜の出来事がまざまざと蘇る。
「ダメだよ、急に動いては」
 そんなゲーリングを気遣うように、リヒトホーフェンがベッドに近づき身体をさする。
「あ、あの大尉……これはいったい………」
「びっくりしたよ、まさかヘルマンから誘いを受けるなんてね」
「で、ではあの………」
 恐る恐るといった感じで慎重に言葉を選ぶが、
「ふふ……良かったよ」
 にっこりと邪気のない笑みを浮かべるリヒトホーフェンを前に、ゲーリングはもはや言葉もない。
 (こんな顔で……こんな身体で……攻めぇぇ!?)
 彼の心の絶叫は、果たしてレッドバロンの耳に届いたであろうか。


鬼畜バロン!!(笑)
きっとゲーリング以外にも色々と手を出しているはず(笑)←あくまで妄想
でも見た目も性格も穏やかな人が実は攻めってパターンは嫌いじゃないです(笑)
ゲーリングもいつも以上に真剣に考えてるだけ、そのギャップが楽しい(笑)←お前も充分鬼畜だよ(-_-;)
しかしバロン×ゲーリングとロタール×ゲーリングは果たしてどちらが人気があるんだろうね?(爆)
いや、当然史実の彼らとは切り離して考えてもらわないと困るんだが(^-^;
とはいえ、バロンには今後も影の支配者として君臨してほしいです(笑)

 

 

 

 

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