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『記憶を踊らせて』 Written by Takumi
はじまりは、ほんの些細なやり取りだった。
それまで颯爽と目の前を歩いていた彼の身体が一瞬傾いで、思わず伸ばした腕がその重みを受け止めた時。
意外な軽さに目を瞠った。次いで間近に迫った彼の唇に目を奪われる。
それは決して艶やかなものではなかった。むしろかさついた、味気ない印象を覚えたのに。
普段と何ら変わりなく動く彼の姿からは思いもしなかった、末期のユーベルメンシュ特有の一面を垣間見たようで、落ち着かなかった。
意識しだしたのはそれからだ。
一瞬でも良い。一秒でも良い。
彼の視線に留まりたいと。
その全てを独占したいと思うようになったのは―――。
「…………ッ…」
組み敷いた身体が僅かに身じろぐ。
思い通りに動かないせいか、その動作はひどく緩慢で見下ろす自分に罪悪感を募らせた。
床に転がったコップ。絨毯に染みを作った液体は、無味無臭の薬品を含んだ代物で。
「……申し訳ありません」
自分をひしと睨み付けるブルーグレイの瞳に、思わず謝罪の言葉を口にした。
だからといって許されるわけがない。彼の信頼をこんな形で裏切ってしまった。
それはひどく後ろめたく、だが目の前でこうして自分の思い通りになる彼を認めてしまえば、高揚している気持ちを認めずにはいられない。
「申し訳、ありません…」
罪の意識から、再び同じ台詞を口にした。返事はない。
戒めたのは身体の自由だけで、声は発せるはずなのに。それをしないところに彼の怒りを感じ、やるせない気持に「でも…」と言葉を続けた。
彼の肩口に顔を埋める。耳元でそっと、囁くように。吐き出すように言葉を続ける。
「愛してるんです」
許されるとは思っていない。だが、それでも伝えたかった。
自分の気持ち。自分の想い。
半身に抱くものとはまた違う、より焦がれる想いをわかってほしくて。
「嫌なら避けてください」
警告をしたところで顔を近づけた。長い間触れたいと思っていた唇が目の前に迫る。
「……………」
ほんの少し、かさついた感触に瞠目した。だがそのまま唇を押しつける。反応はない。舌先で下唇を舐めとれば、湿った感触にあらぬ事を連想し一人赤面した。
なんの抵抗も見せない彼に安堵の息をつき、何度もそれを繰り返す。舐めて、口づけて、また舐めて。
やがて唾液でそこが艶やかに濡れだせば、次いで下唇をそっと口に含み甘噛みする。
先ほどの乾いた感触とは違う、しっとりと吸い付くような感触に目眩がしそうだった。
彼への強い想いからか。
それとも、今も自宅で自分の帰りを待つ妻への後ろめたさか。
わからないままただ無心で唇を貪った。口づけては一旦遠のき、相手の表情を伺う。まっすぐに注がれた視線は言葉以上に威圧感を伴って自分を苛む。喉奥が奇妙な痛さで引きつりそうだった。
「……口を、開けてください」
乾いた声。極度の興奮からか、それとも単なる後ろめたさか。
だがゆっくりと目の前で開かれた唇を認めた瞬間、そんな考えは忘れてしまった。
深く口づける。舌を、絡めた。
「……っ、ふ…」
この日初めて聞く声。微かに上擦った、苦しげな声に下半身が疼いた。たまらず彼の下腹部に擦りつける。まだなんの反応も見せないソコに、下からゆっくりと焦らすように自身の高ぶりを押し当てて。
「…感じますか?」
恥ずかしいのを承知で聞いてみた。彼が答えるはずがないと、わかっていながら。でもこの興奮を味わっているのが自分だけでないと信じたくて。彼も、同じように感じてくれているのだと思いたくて。
そう、聞いた。
でも彼の身体は相変わらずなんの変化も見せず、末期症状はこんな所にまで影響を与えるのかと一瞬真剣に考え込んだ。あとで考えればあまりに人を馬鹿にした問題。それに気づかない時点で、この時の自分は普通じゃなかったのだろう。
大胆に、なっていたのかもしれない。
ソコに右手を添える。布越しに軽く握った。
「………っ…」
「…そんな目で見ないでください」
自分を睨み付ける瞳の眼光が一層厳しくなったのに対し、泣きそうな苦笑を浮かべた。
反応を返しはじめた彼自身を手中に収め、だが心は一層晴れる様子を見せない。彼を思い通りにしているのだという喜びなど微塵も感じられず、それどころか罪悪感ばかりが高まっていくだけ。
そんな思いを振り払うかのように、握ったソコをゆっくりと上下に揺らした。
「……つ、っ……」
無理に抑えた声が更なる欲情を煽ることを、この人は知っているのだろうか。
小さく笑んでからジッパーのつまみを歯で噛んだ。そのまま、視線を彼に定めた状態でゆっくりと引き下ろす。
「…恥ずかしいですか」
途中まで降ろしたところで一度口から離して上目遣いで彼を見つめた。焦らすつもりだったわけではなく、ただこの陵辱に彼がどんな顔で耐えているのかを確認したくて。だが目の前にあったのは目元を微かに染めた、妙に艶のある表情で。
思わず、唾を飲み込んだ。
その際、無意識に吐き出した息が僅かに姿を見せていたソコに掛かったのか。
「……ぁ、…ん…」
必死に声を殺し、眉根をギリギリまで寄せた顔が色っぽく顎をあげた。
まるでキスをねだるようだと、その顔を見て明らかに高まった下半身を宥めながらどこまでも浅ましい思考に染まった自分を笑った。
だがたった一瞬目の前で起こった表情はどこまでも鮮明に記憶に残り、
「……そういう顔は…卑怯ですよ」
自分を誤魔化すように苦笑した。だが次いで紡いだ言葉は掠れた喉を通って裏返る寸前。いつの間にか掌に汗がじっとりと浮かんでいる。
乱暴にそれをズボンの後ろでふき取って、手に掛けたズボンを下着ごと一気に引き下ろした。露わになった太股、膝、そして股間の高ぶり。普段は隠れたそれらに愛しさがこみ上げる。
だがそう思った矢先に目の前の膝頭が強引に合わさった。隠れた股間を名残惜しそうに眺めれば、射殺す勢いで視線が投げられる。
「言いたいことがあるなら、はっきり言ってください」
「……………」
「無言の抗議なんて、なんの解決にもなりませんよ」
内心の興奮とは裏腹に、不思議と冷静な声が出た。
そんな自分に驚きながらも、だがそうまでさせる彼の魅力に改めて感心する。
普段の自分ならここまで冷たい視線を浴びて普通でいられるはずがない。ヴィクトールもそれを見越しているのか、言葉は発せずとも視線だけはいつまでも厳しく向けられている。
だが今日ばかりはそれも計算違いと言うべきか。
今を逃しては駄目だという強迫観念に近いものが自分の中にあるのだ。たぶん今、この瞬間を逃してしまえばおそらく二度と彼に触れることは許されない。もう二度と、彼の側近くでその呼吸を感じることもできなくなってしまうだろう、と。
だから。
今だけはなにをどう責められようと、退くつもりはなかった。
退いた瞬間全てが終わると、わかっていたから。
「あなたを、抱きます」
射抜くような眼差しに真っ向から対峙し、告げた。心なしか強まった膝頭の力みにフッと笑みを零す。その笑みは自分でも驚くほどに、冷ややかだった。
「無駄ですよ」
笑ったまま、膝頭に手を掛ける。更に力のこもったソコを、だがなんの躊躇もなく強引に左右に割り開いた。
それまで鋭い眼差しを向けていた瞳が一瞬見開かれる。
「……っ…」
その一部始終を観察し、だって、と言葉を続ける自分がまるで別世界の住人のように思えた。自分がなにをしているのか、認識することすら危うい精神状態。
浮かべる笑みが更に深まった。
「こんなになってるのに、放っておけるはずがないでしょう」
起立したモノが露わになった。震える太股は羞恥からか、はたまた屈辱からか。
だがそんな些細なことの一つ一つがたまらない快楽に繋がった。間髪入れずにむしゃぶりつく。ねっとりと、舌で全体をなぶった。
「……っ、ふ…く……」
頭上で低く殺される声。もっと聞かせて、とばかりに鈴口を舌先で焦らすように舐めた。
すぐさまその部分が自ら滴らせた愛液で濡れそぼる。その分舌の滑りは良くなり、必然的に彼に与えられる快楽も増していった。
その度に殺される喘ぎ声。自分がそうさせているのかという優越感に、更に彼を攻める手腕が厳しくなる。
ただ舐めるだけでは物足りない。ただ触るだけでは味気ない。
どうしようかと考えあぐねた結果、ソコを軽く歯で噛んだ。
頭上で上がる声が一際高まったのがすぐ。
そして同時に高ぶりを増した自身の下肢を意識して熱い吐息を漏らした。声だけでイキそうだと、本気で思った。
「……ぁ…っ、ん……」
「ほら、もうこんなに濡れてる」
ぬるぬるですよ、と笑ってその下に控えた袋の部分をやんわりと掌で揉みしだいた。
本当はそんな余裕などないのに。少しでも自分を優位に立たせたくて、精一杯の理性をかき集めての演技。
でもその反面自分に何度も問いかける。
自分はきちんと笑えてるか。欲情にまみれた顔をしていないか。
「楽にして…あげますね」
途端組み敷いた身体が大きく反り返る。下肢に絡めた掌が激しく扱かれたからだ。とろり…と先端から白濁色の液が流れ出る。
「…っ、ふ…はぁ、は…うっ……」
次第に切羽詰まった様子を見せる息づかい。しっとりと汗が浮かんだ身体。桜色に染まった肌にいくつものキスマークを落としながら、起立するモノの奥。これまで誰も触れたことがないだろう秘所に指先を埋めた。
「……あっ…」
上擦った声。まだ第一関節までしか入れてない指先は、だが運良く彼の良いところを探り当てたのか。
「…ん、ぁ……ッ…!」
あっさりと、果てた。身体が一瞬大きく揺れ、それからベッドに崩れ落ちる。
突然の射精感に肩で息をし、荒い息を吐くヴィクトールに笑いかけた。
「そんなに良かったですか?」
それともこっちの方が感じやすいとか。もしそうなら…ちょっと疑っちゃいますね。こう見えても嫉妬深いんですよ。
いつも以上に饒舌な自分。入れた指先を何度も出し入れさせて、その度に喘ぐ彼の姿に恍惚とした眼差しを投げる。彼のソコを自分の指が犯しているという事実。そのことがひどく興奮を促していることを自覚して、実際勃ち上がった自身を空いた左手で数度擦り上げた。
「っ…」
短い呻き声は自分のもの。思った以上に刺激が強すぎたのか、しばらく動きを止めて静かに呼吸をすることでなんとか波をやり過ごした。さすがに本人を目の前にしての自慰は普段の空想を伴うものとは刺激が違うらしい。
そんな事実に苦笑しながら、一旦指を引き抜きベッド脇に転がしておいた小瓶を取り上げ、栓を抜いた。掌に滴らせたそれは僅かに粘りのある、潤滑剤。
ヒヤリ…と掌を濡らした液体を体温でじっくり暖め、未だ組み伏せた下で荒い呼吸を繰り返す男を見下ろした。耳元に唇を近づけ、囁く。
「…力を抜いてください」
無理はさせたくないんです、と。薬を盛って組み伏せておいて、何を今更と自分でもおかしくなるような台詞。
だが目の前で微かに痙攣する彼の裸体を見せつけられれば、そんなことは一瞬で頭から消え去り、無意識のうちに唾を飲み込んでいた。
超人間と呼ばれるユーベルメンシュ。頭脳的にも肉体的にも優れたこの身体は、では快楽にはどれほど敏感だろうか。
再びゴクリ…と唾を飲んだ。額にうっすらと浮かぶ汗を拭う。
太股に掛けた掌。グッと力を込めて更に足を開かせる。中心で息づくソレを確認し、僅かながらの安堵を覚えた。
馬鹿らしいと、わかっていながら。
「……ふ、ぅ…」
ゆっくりと、潤滑剤で濡れた指先を挿れた。しっとりと絡みつく内壁に、更なる欲望を刺激され呼吸が荒くなるのを自覚する。
ここに自身を埋め込んだらどんなに気持ちがいいだろう。どんなに、彼を感じることができるだろう。
指の付け根まで押し込んだ。ぐるり、と中でねじらせる。
「うっ…あぁ……」
押し殺そうとしても、間断なく漏れる喘ぎ声ばかりが耳につく。ともすれば、その声だけで弾けそうな自身を宥めて二本目の指を挿れた。
今度はすんなりと入る。それだけ中がほぐれてきたことの証拠に、彼が自分を受け入れてくれてるのだという錯覚に酔いそうになった。
埋め込んだ指先を何度も出し入れする。
ギリギリまで引き抜いたところで、一気に最奥まで貫いて。前立腺を指先で何度も押しては彼を喘がせた。潤滑剤の音がグチャグチャと響く。指を動かす度に中でとろけた潤滑剤がソコから溢れだして、妙な気持ちにさせられた。
「すみま、せん…」
声に出してから、これは誰の声だと思った。
上擦った声。余裕など微塵も感じさせないそれは、だが間違いなく自分が発したもので。
額から流れ落ちた汗がゆっくりと首筋を伝うのを感じた。息が荒い。目眩が、した。
「……も、う…限界です……!」
猛った自身をソコにあてがう。一瞬驚愕に見開かれたブルーグレイの瞳と目が合ったが、微笑む余裕すらない。
熱い入り口に触れただけで、もう達してしまいそうだった。
意を決意して、ゆっくりと挿入する。亀頭が、埋まった。
「…………ッ…!」
その一瞬のことをどう表現すればいいだろう。
熱い、だがしっとりとした内壁にやんわりと包まれて。だがすぐさま締め付けられた。そのきつさに顔が歪む。襲い来る快楽。耐えようとした。耐えようとした、が。
「……うっ…!」
気がつけば達していた。まだ半分も挿れていないというのに。
「…ぁ、あ……」
たまらない余韻に声が出る。突然の射精感に浸る一方で、だが恥ずかしいぐらい感じてしまった自分に羞恥心で死にそうになった。
「…すみま……せん、すみ…」
ぼろぼろと涙が溢れた。みっともなかった。鼻水が出て、ずずっと鼻を鳴らす。それからまたすぐ、涙がこぼれた。
「すみ、ません……こんな、つもりでは……」
言いながら自身を引き抜いて、すっかり萎えてしまったそれを見下ろしてますます自己嫌悪に陥る。怖くて、彼の顔が見れなかった。
何度も謝る。
すみません、と。こんなつもりではなかった、と。
だが相変わらずなんの返答も見せない彼に、居たたまれなくなった頃。
「大の男がそう簡単に泣くな」
今日初めて聞いた彼の声に、反射的に顔を上げた。見れば晒した下肢を隠すこともなく、上半身を起こしたヴィクトールが乱れた頭を乱暴にかき上げているところで。
「…ヴィ、…トールさま……」
「まったく…」
ぐちゃぐちゃになった顔を見て、彼が一瞬苦笑を浮かべた。それがひどく嬉しかったのは、この時初めて彼が自分を見つめてくれたのだという事実に気づいたからで。
「愛…してるんです……」
するり、と口から漏れていた。言った瞬間、自分自身が驚いた。
だがそれは彼も同じだったのか、一瞬目を瞠り、それからすぐに憮然とした表情を浮かべる。乱暴に投げつけられたシーツ。見事に顔に当たったそれは、だが取り除こうと手を伸ばしたところで耳に届いた彼の言葉に動きが止まった。
「泣きながら言う奴がいるか」
馬鹿が、と。呆れたような、それでいていつも通りの彼の口調に再び涙がこみ上げる。
許されたわけでもないのに、その一言に救われる思いがした。
シーツを握りしめる手に力がこもる。すみません、と呟く声が震えた。
何度も、謝った。
やがて彼の手が優しく髪を撫でた時、再び新たな涙で視界が揺れ、どうしようもない自己嫌悪にただひたすら泣き続けた。
その間、傍らで彼が静かに見守っていることへの喜びを感じながら。
同時にこれから自らに科せられた贖罪に真っ向から向き合いながら。
いつまでも、泣いていた。
そして今、自分は病室のベッドから窓の外を眺めている。
生きていることの不思議に、苦笑が浮かんだ。いつだってそうだった。決意した時に限ってその決意が貫かれることはない。
死ぬ覚悟で望んだ謀反行為。だがそれは思わぬ所で思わぬ人物によって援護された。
あんなことをした自分に、彼が再び手を差し伸べたことが信じられなかった。
「……私は、許されたんでしょうか」
窓から見える景色に向かって呟く。
同時に、それを聞いていたかのように病室のドアがノックされた。
ゆっくりと顔を戻す。ドアの向こうに立っている人物が誰か、不思議とわかっていた。
そしてその彼があの時の自分と同じような決意を抱いていることも、なぜか漠然と感じていた。
「どうぞ」
だが発した声は思った以上に冷静で。
開いたドアから現れた上司の姿に微かに笑む。
それが自分が最後に見た、ヴィクトールの姿だった。
いつまでも記憶に鮮やかに残っている、彼の姿だった。
なんなんでしょうね、この内容は…(^-^;
書いてる途中何度も自分に「大丈夫?俺、正気!?」と問いかけてました。
とにかく稀に見る難産で、無駄に時間と気力を削って書いた作品なんですが。
今回何が困ったって、とにかく喋らないヴィクトールが…。エーリヒの独り言も、ヴィクの喘ぎ声のみの演出もいい加減限界が見えてきて…いっそ、ユージィンが乱入しに来てくれないかと本気で思ったもんです(笑)
とはいえ、俺にしては妙にエロシーンが懇切丁寧に流れてるんじゃないかと。
キスから始まって扱いてほぐして、最後に挿れる。普段なら書くのが面倒でどこか絶対省いてる作業なのに(笑)
そんなわけで、ただひたすらエロしかしてないリクエスト小説になってしまいましたが、如何なもんでしょう?
個人的にはエーリヒの「末期のユーベルメンシュは勃起力がないのか…」という疑問に心底突っ込みを入れておきたいな、と(笑)
でもAtsukoさんには本当にお待たせしちゃって…申し訳ないです(^-^;
その分いつもよりまた多めに書いておきましたので、ご了承下さい。
というわけで、あとはもう1人でも多くの人が楽しんでもらえれば幸いですm(_
_)m
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