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『他人のぬくもり』 Written by Takumi


 ガタガタと整備されてない道を走る車は、運転手の気質も相まって乗り心地は最悪だった。
 だがもう目を開けることすら困難で。
 おまけに運転手の柔らかな歌声が更に眠気を誘って、これで寝るなと言う方が無理な話だ。
 ――ティペラリィは遠くなった。
 何度も同じフレーズを繰り返す。それは聞き慣れた歌。
 ――ティペラリィは遠くなった。
 次第に遠くから聞こえる歌声に、リックはついになけなしの意識を手放したのだった。

 ガクッ……!
「うっ…わ……な、なんだ!」
 突然車が急ブレーキを踏んだ。おかげで車体は大きく前後に揺れ、後部座席で悠々と寝ていたリックは見事なまでにすっ転んでしまった。
「ってぇ………」
 転んだ拍子にぶつけた頭をさすりながら、なんとか座席に座り直す。
 外を見回せば、あたりはただっ広い広野。空には微かに星が瞬いているだけ。どのあたりまで来たのか断定出来ない。
 そんなところで突然急停車を決め込んだ運転手に文句を言ってやろうと、大きく息を吸い込んだが、
「ガソリンが無くなった」
「はぁ!?」
 怒鳴りつける前にあっさりと言われた言葉に目を見開いた。
 聞き間違えでなければ今ガソリンが無くなったと言われ、それはつまり……
「だからガソリンが無くなったと言ったんだ」
「ガソリンって……じゃあ、どうやって基地まで帰るんだよ!」
 ご丁寧に繰り返す運転手ロードの落ち着きぶりがよけい癪に障り、運転席を背後からガクガクと揺らした。
 そんなお子様じみた行動に、うんざりとした様子で振り返るロードが再び淡々と答える。
 その漆黒の瞳がまるで動揺していないのを確認し、ますますリックの機嫌は悪くなった。
「予備も乗せてなかったからな。基地の方で気がついて迎えが来るのを待つしかないだろ」
「待つって……ここでか?」
「ここ以外のどこで待つ気だ」
「そりゃ…そうだけど……」
 ロードの言い分は正しくて。反論できない悔しさに、リックは乱暴に背もたれに身体を預けた。
 それを合図に、ロードもエンジンを切ってコートに顔を埋める。腕を組み、目を閉じたのがフロントミラーで確認できた。
 その顔の端正さに思わず見とれそうになる自分を叱咤するように、リックもふん、と大きく鼻を鳴らすと同じように腕を組んで目を閉じる。
 当然やってきた沈黙は、だがどちらも話す気がないためにじわじわと沈積し。
 結果的には喋ることを禁止するかのように、重苦しいまでの空気と変わって車内を取り囲んだ。

「…さむ……」
 どのくらい時間が経っただろう。
 気がつけば寝ていたリックは、そのために奪われた熱を急に実感しブルッと身体を震わせた。ズズッとついでに鼻水をすする。
「この寒中に寝るからだ」
 バカが、と容赦ない台詞を投げるロードになにを、と反論したところを堪えきれないくしゃみで中断された。
「っくしょん!」
「寒いのか」
「そうだってさっきから言ってるだろ!」
 なに聞いてるんだ、とばかりに食ってかかったリックを、フロントミラー越しに見たロードがやれやれと肩をすくめる。
 そんな余裕ぶった態度が気に食わず、再び怒鳴り返そうとしたリックだが、
「お、おい……」
 突如運転席から外にでたロードが、コンコンと後部座席のドアを叩くのに思わず呆気にとられた。だが言われるままに鍵を外し、ドアを開けたところでロードが入ってきたことでさすがに声が裏返る。
「な、なにやってんだ、テメー!」
「寒いんだろ」
 ガチャッと後ろ手にドアを閉めるロード。だがご丁寧に鍵まで掛けたところでその漆黒の瞳が微かに笑んだ。
 ぞくり、とリックの背筋を駆け上がったのは果たしてなんなのか。
 わからないまま伸ばされた腕に顎を捕まれる。
「寒さなんか感じられないくらい、抱いてやる」
 言い終わらないうちに唇を奪われた。再びぞくりと身体を震わせたのは、間違いなく快感。
 暖かい舌が微かに開いた唇からスルリと忍び入り、リックのそれを絡め取る。軽く吸い付くことでリックが微かに呻いたが、無視して延々と口腔内を犯し続けた。
「や…めろ……ッ!」
 たまらず胸板を押しやったリックが息苦しさに肩を上下させ、濡れた唇をグイッと袖でぬぐうのをロードは可笑しそうに見つめる。
 まるでそんなリックの反応を楽しむかのように、懲りずに再び手を伸ばした。
 だがそれを今度は容赦なく払いのけ、リックはキッとロードを睨み付ける。だがその瞳に憎悪の色がないことは誰の目にも明らかで。
 むしろ、そうされることで感じる自分を恥じらっているのがありありとわかる代物だった。
「やめろって言ってんだろ!」
「やめてもいいのか?」
 耳元で囁かれた。
 先ほどまでは優しい声音で歌っていた声。だが今は淫靡なまでの響きを持ってリックの身体を刺激する。
「んっ…く……」
 耳たぶを甘噛みされ、たまらず声が漏れた。すぐさま口元を手で覆うが、一度発したものは隠しようがない。カーッと身体が熱くなるのを感じ、行き場のない感覚を目の前の男に抱きつくことで押さえる。
「くそ……お前なんか、好きでもなんでもねーんだからな!」
 濡れた眼をその肩口に押さえつけながら、だが同時に腰を相手のそこに押しつける。自分同様高ぶったモノを確認し、リックは更に赤面した。
 そっと後頭部を撫でられる。耳元でまたも、あのいやらしい声が囁いた。そんなリックをおかしがるように、微かに笑いのこもった声。
「久々にゆっくりできるな」
 邪魔する奴もいないし、と言う手がゆっくりと高ぶったリックの中心をさすり出す。
 そういえば今頃基地ではパードレとピロシキがまた下らない賭でもやってるんだろう、と思いながらも巧みなロードの指使いにたまらず喘いだ。
「……あっ……ん…」
「いい声だな。いつも聞けたらいいんだが」
「ばっ…か……言うな………」
「まぁ、聞くのは俺だけで十分か」
 亀頭を親指でグリグリと刺激され押し寄せる快楽に、身体をエビ反りにしたまま腰を揺らす。
「ふ……んっ…んっ……ぁ」
 その様子にフッと笑んだロードの息が耳に掛かり、よけいなもどかしさが加わった。
「焦らす…なよ………」
 涙に濡れた瞳で訴えれば、唇が器用にそれをすくい取る。目尻に軽いキスを何度もされ、疼く腰は痛いぐらいに張っている。
 だが欲しいモノがすぐに与えられないことを、リックは知っていた。
 いつもそうだった。
 兵舎でこっそりと情事を交わすときも、彼はいつも自分が泣き出すまで焦らし続け。隣に聞こえないように声を殺させるのに、それとは裏腹に激しいまでの突きは否が応でも声をあげてしまう。
 なにもかもが意地悪で、だがそれでいて自分を抱く腕が優しいのを知っているから。
 結局はなにも言えずにいる。与えられる快楽に溺れてしまう。
「…ロー…ド……」
 頼むから、とその耳元で囁いた。
 にやり、と相手が笑むのがわかる。くそ、と毒つきたいのを、だが再び与えられた快楽にやむなく中断された。
「も…いい加減……っぁ…」
 とうとう我慢できずにロードの掌で放ってしまった。こればかりは何度やっても慣れない。羞恥心で身体が真っ赤になった。
「たっぷり出たな……溜まってたのか」
 たった今吐き出された精液をなんの躊躇いもなく口にするロードが、ククッと喉奥で笑いを殺す。こちらの羞恥心を煽るためにしたことだとしても、やはりこの恥ずかしさだけはどうしようもない。
 しょうがなく、息も絶え絶えなのを我慢して言ってはみるが効果がないのは目に見えていた。
「……いっ…てろ、変態………」
「自分でしなかったのか」
「も、う……!」
 いつまでもベラベラとうるさいロードを押しやりそっぽを向いたが、放ったばかりのソコはまたもジンジンと自己主張を始め居心地の悪さにゴソゴソと腰を動かした。
 それをめざとく見つけたロードがついに笑い声をあげる。
「お前のせいだからな!」
 悔しくてキッとロードを睨み付けようと振り返ったところで、彼の様子に目を見開いた。
「………なにしてんだ?」
 見ればいつの間にかコートを脱ぎ、シャツの前ボタンを全てはずしたロードがゆったりと背もたれにもたれ手招きしている。当然その顔には余裕たっぷりの笑み。
「来いよ」
 形良い唇が何様だと思わせる尊大な口調で言う。
 動けないリックに、スッと手が差し伸べられた。
「お前から乗って腰を振るんだ。この間みたいにな」
 その台詞に、クソ、と毒つきたいのをリックは必死に堪えた。
 自分はこの眼に弱いから。なにもかもを見透かしたような、漆黒色の瞳。
 その瞳が自分を捕らえているなら、もう逃げられない。
「………優しくしろよ……」
 その手を取るのは時間次第。
 だから身体が熱にうなされるのも、きっとすぐだ―――

「そろそろ行くか」
 ようやくお互いの息が整ったところで、ロードが不意にそんなことを言い出した。
 当然リックはキョトンとした眼差しを彼に送るが、答えが返ってくるわけがない。
 仕方なく声に出して聞いてみたが、
「ガソリン、無いんだろ?」
 返ってきたのは不適な笑み。
 イヤな予感がした。
「タンクの中にはな」
「……………どういうことだよ」
 にや、と笑ったロードがよっと身体を起こし、座席の下からなにかを取り出す。
「こういうことだ」
「……テメー、なんだよそれッ!!」
 ロードの手には帰るに十分な量のガソリンが入った容器が握られていた。
 つまりはそういうことだったのだ。
「し…信じらんねーーッ!」
「そう言うな」
 叫んだリックを、まあまあとロードがなだめる。その頭を胸に抱え、そっと囁けば黙ることを彼は知ってる。タチが悪いと言えば悪いが、決して気持ちがないわけではない。
 基地までの帰り道。
 黙り込んではいたが、互いの心が満たされていることは伝わる。
 もう寒さは感じない。


早速雑誌連載から煩悩してみました(爆)
しかし……エロじゃないぞ、こんなの……なんか俺が求めていたのとは違う……(-_-;)
という感じがどうしても消えません。
参ったな……やはりそろそろ裏リクエストは断るべきだろうか?(撲殺)
とはいえ、結局ラブラブなんですよね、奴らは。
いいことです!っていうか、もう今回の連載で彼らの愛は確実に深まったと俺は読んでます!!(笑)
でももしSalaさんが雑誌読んでなかったらどうしよう……(爆)
あ、いや、そのときは……文庫になるまでお楽しみ(てへ)←撲殺

 

 

 

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