今夜は良い夢を……』 Written by Takumi


 何度言ったかわからない、好きだという台詞。
 恥ずかしがる彼の顔が見たくて、目が合う度に何度も口にした。
 その気持ちに偽りはないのに、だが常につきまとう不安要素に心のざわめきを止めることができなかった。
 そして今、その理由が明らかとなる。
 すぐさま脳裏に思い浮かんだのは、愛しい恋人の姿。
 彼のことだけが、気がかりだった。

「……ん………」
 隣で寝返りを打つ恋人のあどけない寝顔に微笑む。
 カール・マッソウ。
 苦労の末手に入れた彼も、最近になってようやく濃厚な情事に恥ずかしがらずに応えてくれるようになった。
 キスをすれば首に絡まる腕。腰を抱き寄せれば背伸びするつま先。
 そんな嬉しい反応に顔をほころばせる反面、赤面する彼を目の当たりにする機会が減ったことに寂しさを感じずにはいられないのも事実で。
 だからこそ、その彼が無防備に寝顔をさらすこの一時を楽しみにしている自分がいる。
 しっとりとした肌の至る所に赤く残ったキスマークは、独占欲の強い自分がつけた所有の証。
 消える頃にまたつける、と告げれば照れたように笑った彼が「待ってます」と答えた。
 些細な情事のあとのやり取り。
 だが今は、そんなやり取りがこんなにも愛しく思える。
 そっとベッドから降り、サイドテーブルに隠し置いたファイルを手に取った。ここ数日の反乱分子の動きを詳細にまとめた資料だ。
 彼らの狙いは明らかに国の上層部連中。おそらく高官を手に掛け、その勢いのままに国を脅かそうという狙いなのだろう。
 事実、先日は情報部の副官が狙撃された。すんでの所で阻止したが、それでも上層部達が彼らの存在をより身近に感じたことはたしかだ。そういう意味では反乱分子達は確実な成功を収めつつある。
 そしてその彼らの次なるターゲットとして打ち出されたのが自分だった。
 保安部長官という肩書き。
 政治の裏舞台で暗躍する自分を殺して何の役に立つのか。
 だが彼らに必要なのはそんな職務内容ではなく、保安部長官暗殺という事実だ。だからこそ、いつどこで狙われるかがわからない。
 既に一週間が経った。あとは時間の問題だろう。
 殺されるつもりなど毛頭ないが、どんな場合ももしかしてということはある。
 そうなったとき、自分はどうするのか。
「……う…ん………」
 再び寝返りを打ったカールが、目を閉じたまま傍らの枕近くに手を伸ばす。辺りを手探りで触れ、そこに目当ての人がいないことに気づくとうっすらと瞼を開いた。
「……ちょ…かん……?」
「ここにいるよ」
 こっそりと後ろ手に資料を隠し、笑みを浮かべてベッドへと近づく。彼の手を握ってやれば、安心したような溜息が漏れ、握った掌に頬がすり寄せられた。
「どうした?怖い夢でも見たか?」
「いえ……」
 心配なのは彼のことだけ。
 自分がいなくなったあと、この彼は一体どうなってしまうのか。
 素質があったとはいえ、開花させてしまったのは自分だ。なら最後まで責任をとりたかった。最後まで、彼と共にいたかった。
 だがそれも叶いそうにない今、自分はどうしたらいいのだろう。
 どうしたら、彼を傷つけずにいられるのだろう。
「キスしてください」
 珍しく積極的な彼に微笑んだ。いいよ、と耳元で囁いてそっと身を屈める。微かに開いた唇から舌を入れ、丹念にかれのと絡めた。
「ん…ふ……」
 カラカラに乾いた口腔が次第に湿っていく。首に回った腕に満足感を覚えながら、その一方でぼんやりと考える。
 手紙を書こう。
 彼宛に、最後の手紙を。
 一ヶ月後に届くよう指定していれば、万が一生き残れたときに破棄することができる。それにもし自分が死んだのなら、彼に声を掛けるにはちょうど良い時期だろうから。
「どうかしました?」
 唇を離したところで怪訝そうなカールの瞳と目が合った。
 どうして、と聞けばしばらく考えたあと戸惑うように言葉を続ける。眠い目を擦りながら、こちらの胸板に身を預ける様子はひどくあどけない。
「嫌な予感がするんです」
「………どんな風に?」
「うまく…言葉にできないんですけど……」
 一瞬言葉に詰まったのを誤魔化すように問い返せば、考え込んだ彼にホッと安堵の息を付きそうになる。
 だがその反面、勘のいい彼に舌を巻いた。
「心配しなくても、浮気はしてないよ」
「……わかってます」
「光栄だ」
 疑う素振りを見せない彼の返答に微笑みながら、微かに乱れた前髪を掻き上げてやる。
 気持ちよさそうに目を瞑る恋人を見納めようといつになく真剣に見下ろせば、ギュッとシャツの裾を握られた。
 声を掛けようとしたところで、その手が震えていることに気づく。
「私には長官だけなんです」
「カール……」
「だから……」
 なお言い募ろうとする彼の唇を塞いだ。触れるだけのキス。
 勘の良い彼のことだ。おそらく漠然と、なにかが起こることに気がついてしまったのだろう。勘が良いのも善し悪しだな、と苦笑する傍らで余計な心配を掛けたことに自分の未熟さを感じずにはいられなかった。
「そんな心配はしなくていい」
 だからその耳にしっかりと囁きかける。
 彼が忘れないように。私から愛されていたと、微塵も疑わないように。
「それとも、その身体に教え込んだ方がいいかな?」
「………はい」
 恥じらうように言う彼。
 だが今夜は多少無理をしすぎた。危うく失神間近の体験をした彼に、これ以上の情交を要求するにはさすがの私にも罪悪感がある。
「冗談だよ。これ以上君を疲れさせるのは忍びないからね」
 その頭を抱え、数度軽く撫でさすればホッとした様子が手に取るように分かった。
「もう寝なさい。明日も早いんだろう?」
「ええ…でも長官は……」
「私もすぐ寝るよ」
 良い子だから、と疑いの眼差しを改めない彼をなだめすかし、なんとか布団を被せる。
 その額にキスをし、次いでその横に身を滑らせればすぐさま彼の手が伸びてきた。
 首に絡まり身体を密着させることで、私の存在を確認しているのか。まるで子供のような頼りない仕草が、その時の彼の心情を表しているようでたまらず抱き返す。
「今度は良い夢が見れるといいな」
 耳元でそっと囁くと、頷いた彼がしばらくして心地よさげな寝息を立てる。
 その寝顔を確かめながら、私はぼんやりと考えていた。
 可愛い私のカール。
 冒頭にはそう書こう。そして沢山のキスマークを。
 深夜のベッドルーム。
 あれこれと手紙の内容を考えながら、数日後に言い渡す彼への別れの言葉も考えては打ち消し、うち消しては肯定してと終わらない悩みを抱えたかのようにいつまでも考えていた。
 反乱分子の危機が彼に降りかかる可能性がないとも言えない。
 だからこそ、別れておきたかった。
 こんな自分の考えを彼はどう思うのだろう。
 きっと目に涙を溜めながら嬉しくないと叫ぶに違いない。そんなものはあなたの自己満足だと、気を張りつめて怒鳴るだろう。
 だがカール。
 君が目の前で殺されるところを見るぐらいなら、私は別れた方がずっと良いと思えるんだよ。
 別れなら、いつかはやり直せるかもしれない。
 だが死んではどうしようもないんだ。
 それが君にわかるだろうか。わかってくれるだろうか。
 隣で寝息を立てる幼い恋人に私は小さく微笑み。
 その髪に触れるようなキスを落とした。
 可愛い私のカール。
 願わくば、君がいつまでも幸せを感じていられますように―――。


またやっちゃったよ……最後の最後まで純愛モノ(-_-;)
しかも最後、やたらと説教臭く感じるのは俺だけじゃないはず(爆)
あぁぁ〜〜プロジェクト最終回がこれで果たして皆さんは納得するんだろうか?<今更第三者の意見なんか気にすんなよ(爆)
とはいえ、今回はエロ親父のリベンジということで(笑)
一応こんなことも頭じゃ考えてたんだよ〜♪というのが伝わればいいです、もう(笑)
でも本当にあっという間の7日間でした。
こんなに必死に更新したのはHP開設以来かも(笑)
しかも全然辛いとか思わなくて、楽しくて楽しくて仕方がなかったという、まさに俺にとっては自分で言うのもなんだが素晴らしい企画だったよ(笑)
また年内になにか共同でやりたいね、と今内とは語ったが。
果たして次回はあるんだろうか?(笑)
思い出した頃にまたポロッとやり始めるかもしれませんが、気長に待ってみてください(笑)

しかし受けカールから始まって三人三様のカールモノが集まりましたね。
相手はハインツからヴィクトール、果ては元長官と幅広く(笑)
闇プロジェクトの名に相応しく、エロ要素も盛りだくさんということで、ただひたすら本人達は楽しんだんですが(笑)
皆さん的にはどうだったでしょう?
少しでも多くの人が楽しめ、かつ、カールの魅力に開眼されたことを願います(笑)
7日間、ありがとうございましたm(_ _)m

 

 

 

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