『媚態』 Written by Takumi
綺麗な男は見慣れていた。
自分を含め、ユーベルメンシュと呼ばれる部下達。
かつてはかけがいのない友だと思っていた現元首。
だから彼を見たときはそれほどの感慨は受けなかった。むしろ、彼と同じ血を持つ友のことを思い出し、改めて遺伝子の濃さに失笑すら覚えたものだ。
その彼が今、目の前にいる。
青緑の瞳が微かに潤み、唇を震わせてはその隙間から誘うように舌を覗かせる。
しどけない様子。伝わる空気は甘さを含んだ欲望。
そのとき自分は、たしかに欲情していた―――。
「……ぁ、ん…」
露わになった乳首に舌を這わす。それだけで組み伏せた身体が嘘のように震えた。
知らず笑みが浮かぶ。同じ目をした男を知っているからか、目の前で生娘のように恥じらう青年が物珍しかった。
だが顔を染める羞恥の色とは裏腹に、確実に反応を返してくる身体に再び笑みを浮かべる。
今度は失笑の笑みだ。
どんなに嫌がっていようと恥ずかしがっていようと、肉欲には異常なまでの貪欲さを見せる身体が彼の父親を連想させた。
「アロイス」
耳元に唇を近づけ、組み伏す相手の名前を呼ぶ。
うっすらと開いた瞼からは、しとどに濡れた瞳がすがりつくような様子でひしと自分を見つめてきた。先ほどから促される快楽によってとろりと潤んだ眼差しが恥じ入るように伏せられる。
「……見る、なよ…」
息が弾んでいた。
無理もない。既に組み伏せて二時間近くが経過している。その間目の前の青年が欲情にまみれた液を放ったのは三度。
一度目は指先で丁寧に扱いてやった。いやだ、やめろという声にあおられて、本当ならもう少し遊んでやる計画がいつしか自分まで夢中になっていた。
手の平全体で彼の、まだ少年臭さを残した中心を掴んではじめは優しく。徐々に焦らしと荒っぽさを交えながら何度も扱いて。感極まり、彼の身体が大きく反ったところで仕上げとばかりに口づけ、口腔内を蹂躙した。
二度目は放ったばかりのソコを口に含み、同時に後ろを刺激するやり方でイカせた。幼少時をマルセイユ、それ以降を治安部隊で過ごしていた身体は男の味など知り尽くしているだろうと思って。
だが実際に指を入れ、軽くかき回したところですすり泣く声を耳にし、事実を知った。
彼がどう身を守ったのかはわからない。聞こうとも思わなかったが、同時に自分の中で何か言葉にできない感情が生まれるのを感じた。
必死に泣き声を殺す彼の頭を抱え、髪の毛に小さな口づけを何度もする。
情事に慣れた自分がするにはあまりに幼稚で気恥ずかしさが伴う行為。
だが行為を繰り返す度に、抱きしめた身体が確実に弛緩されていくことにどこか喜びを感じている自分を知り、それを忘れるかのように唾液で濡らした指をゆるんだソコにねじ込み、その隙間に舌を入れた。
彼が再び白い欲情を放ったのは、それからすぐのこと。
三度目の射精は意外に呆気なく、先ほどの射精感に溺れた身体を抱きしめほぐれかけたソコに先端を挿れた瞬間再び身体を震わせ達した。
その早さに思わず苦笑を浮かべたが、同時に痛いほどに締め付けた内部の肉壁に自身も小さなうめき声を上げる。
すぐさま埋め込んだソレを引き抜き様子を伺えば、放った本人は呼吸を整えるのに精一杯で、その早さを恥じる余裕もない。
だがはじめてとはいえ、後ろだけで射精した青年に知らず笑みが浮かぶ。
そして今、自分は再び四度目の射精を促そうとその彼を仰向けに組み伏せていた。
「…見る、なって…言って、ぁ…」
何度も射精を経験した身体は少しの刺激にも敏感に反応する。
口腔内に含んだ乳首を弄ぶように転がせば、すぐさま堅くなった突起が更なる刺激を求めて舌先を押し返してくる。興味深い身体だった。
意志では嫌だと言いながら、身体はそれをひどく求めている。
同じ瞳を持つ奴の父親はむしろ意志も身体も、ひどく素直にこちらを求めてきた。だからこそ、その息子に当たる彼の反応が物珍しかった。
「や…それやだって…おっさん…!」
「口の利き方を知らないのか。クリュガーだと何度言えばわかる」
「だって…ぁ、ん…こんなこと、して……」
「恥ずかしいとでも?こんなに濡れて今更よく言う」
大きく広げた足の間、先ほどの刺激で赤く熟れた様子のソコに軽く指を入れたところで涙混じりの声がかかる。やめろ、というように伸びてきた手が弱々しく身体を押しのけてくるが、逆にその腕を掴み仄かに染まった手首に軽く歯を立てた。
「ん、っ……」
鼻に掛かった声。女とは違う、だが特有の色気を持った響きに笑みをこぼす。
よく知った声が脳裏に蘇った。
早く、もっととあられもなく叫ぶ声。組み伏せた腕の下、自ら身体を揺すり更なる快楽を得ようとする貪欲な姿。
同じ血を分けた親子。だが表す反応はこうも違う。
「……なに、考えてんだよ…」
思い出し笑いに微かに口元をほころばせたところを、青緑の瞳に真下から睨まれる。だが涙に潤んだ瞳は一向に功を奏さず、むしろ漂う色気に再び指先が露わになった下肢をまさぐった。
それだけで震える中心は頭をもたげ、先端から生々しい精液をじわりと滲ませる。
「ふ…ぅ……」
「どうした?もう限界か?」
意地悪く耳もとに唇を近づけ囁いた。ギッと睨んでくる瞳が新たな涙を零すのを目の前で見届け、小さく笑う。
この反応が見たくてこうも焦らしているのかもしれないと、自分の性格の悪さに失笑した。
「素直になれば、イカせてやらないこともないが」
「だれ、が……あっ…ん」
強情に歯を食いしばりながら囁く相手を認め、手中に収めた彼自身を強く擦った。とろりと溢れ出た精液に手の平が汚れるが、構わず何度も扱く。そのぬめりを借りて、よりいっそうの快楽が押し寄せることを知っていたからだ。
「あっ…ぁ、や…ん……っ!」
目の前で身体をくねらせるアロイス。
普段映像を介して見る彼は、国民の模範として常に冷静で国のために全てを捧げている。
その瞳は笑みを絶やさず、態度は常に穏やかで優しい。
だが目の前にいる彼はその模範的姿とはほど遠く、貪欲に快楽を求める一人の青年でしかない。全ての責務から解放され、父親の思惑から逃れられた瞬間を自分は見届けているのだと、どこかでそんな冷静なことを考えている自分がいた。
「アロイス、ここは…どうだ?」
囁くように声を掛け、後ろを指先で大きく広げる。入り口がよく見えるよう、身体を少しずらしてアロイスを俯せた。
露わになった襞。
その一つ一つを確かめるように、ソコを撫でるように触った。ヒク…と物欲しそうに動いたと同時に、組み伏せたアロイスが溜まらず吐息を吐く。
「あっ…や、それは嫌だって…ん……」
腰を浮かせ、なんとか逃れようとする身体を押さえつけた。少し力を入れれば抜け出せる程度の力だ。本当に嫌ならいつでも逃げろと、そういう意味で加減している。
それを知っているからか、組み伏せたアロイスがシーツに押しつけた顔を一瞬歪め小さく「くそ…」と呟いた。
逃げない理由は、彼もこの先を願っている。そういう意味だった。
「もう少し色っぽい声でねだれば考えないこともないぞ」
「そんな…俺、できねぇよ……ッ」
何度も入り口を撫でられ、だが一向に指先が入ってこないことに焦れたのか、ついには涙声になったアロイスが顔を上げ肩越しに背後を振り返った。
涙に濡れた瞳がいつもより鮮やかに映る。
微かに息を呑んだのは、その様子があまりに無垢だったから。とても男に組み伏せられている人間の顔には見えなかった。
「泣いても無駄だ。それとも、もっとしてほしいという意思表示か?」
だがそれを気取られないよう、ようやく指先を中に挿れ小さくかき回す。悲鳴が上がるのが同時。身体を反らせたアロイスが跳ねるようにベッドの上で大きく喘いだ。
「ちがっ…ぁ、ああっ…や、そこ…!」
「フッ…ここで感じるのは父親と一緒か。やはり親子だな」
思わぬところで得た確信に、入れた指先を根本まで埋め更にもう一本増やす。
唾液と精液にまみれたソレは思った以上にすんなりとアロイスの中に飲み込まれ、強く締め付けられた。
その熱と圧迫感に知らず苦笑する。
こんなところは父親とそっくりだった。
「ば、か…こんな時にオヤジと…んっ、比べてんじゃ……」
「どうした?もうこんなにヒクついてるぞ。欲しいんじゃないのか?」
「誰が…いっ、や…ぁん…」
二本の指を同時に動かす。感じやすい入り口を擦るように撫で、圧迫感すら感じる最奥を丁寧に愛撫した。
その度に組み伏せた身体は素直な反応を返し、一方で発する言葉は睦言とはほど遠い単語を並べ立てる。
何度も嫌だと呟くアロイス。
その強情さに少しばかり嫌気が差し、舌打ちするのを堪え背中を鎖骨に沿って唇を這わせた。綺麗に筋肉のついた身体が時折弾くように反応し、その一つ一つを楽しむようにゆっくりと唇を下へとずらしていく。
「身体は嫌がってないだろう」
唇の行き着く先を理解したのか、一瞬大きく見開かれた瞳が驚愕に染まった。意地悪く微笑み返してみれば、唇を噛みしめた顔が辛そうにゆがむ。
「あっ…あっ、あ…も、やだって……」
「どうしてほしい?」
尾てい骨の上、わずかに窪んだ場所を舌先で舐めながらひっそりと囁いた。
吐息が掛かる度に組み敷いた身体が震える。
限界が近いのか、間断なく溢れ出る喘ぎ声が次第にせっぱ詰まったものに変わっていった。
父親とよく似た、だがそれでいて媚びのない澄んだ声。
「……ぁ…」
「ラファエル」
名前を呼んだ。アロイスではなく、彼が望む方の名を。
それだけで、十分だった。
「やっ……」
シーツを握る拳が白くなるほど固められる。エビ反りになった身体が一瞬ベッドから浮いた。それと同時に目前に迫った秘所がわずかな収縮を繰り返しているのを認め、小さく笑えば、振り返った彼が羞恥の染まった顔を向けてくる。
その瞳から溢れる涙がとめどなく頬を流れるのを認め、知らず生唾を飲んでいた自分をなんと説明すればいいのか。
「んっ…も、挿れ…てぇ……っ!」
鮮やかな天使の告白。
しなやかな身体。目の前で繰り広げられる媚態に、ただただ笑みを濃くする。
だが快楽に溺れさせているようで、その実彼の身体に溺れているのは自分自身だと。
本当は気づいているのかもしれなかった。
今はただ、その事実に目を逸らしているだけで―――。
今回親子丼企画を復活する際に、なぜかこのファイルだけ見あたらなくて焦りました…。
そして改めて自分の書くヴィクトールのなんちゃってオヤジぶりに涙が出そうです(T-T)
ヴィクトール、好きなのになんでこうも毎回単なるエロオヤジに成り下がるんだろう…でも奴が素直に愛の告白をするとは思えないので、はやり俺の書くヴィクは毎回こんな感じで変わり様がないのだった(爆)
でもこの小説を書いたときはなんだろう…ひとまずラファを沢山喘がせようと思ってたのかってぐらい「あんあん」言ってますよね(笑)←笑い事じゃねぇ…
本当はもっと、こう、ぎりぎりな感じのやり取りを書きたかったのに。
ヴィクが相手ではそうもいかず、という感じですか。
やはり大人の余裕でお子さまを手玉にとってほしいという願望があるだけに…(笑)
まぁ、今回新たに企画を発動するにあたって、その辺の改善も試みてみたいなぁ…と思うわけです。
というわけで、少しでも楽しんでもらえれば幸いm(_ _)m
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