Written by Takumi


 暗い部屋の中。
 大きな寝台の上に横たわった男を見下ろす形で再会した相手を、静かな眼差しで見つめた。
 どちらとも口を利かない。ただ無言で互いの瞳を見つめ合うばかり。
「久しぶりだな」
 ようやく言葉を発したヴィクトールが微かに笑えば、一瞬目を細めたサリエルがすぐさま目を逸らす。その表情は苛立ちとも、羞恥ともつかない微妙なもの。
「コクマの懲罰房以来…か」
 静かに言葉を続けるヴィクトールの傍らでは、昏々と眠り続けるユージィンが血の気のない顔で横たわっている。
 ヘルに乗っ取られた身体。
 サリエルによってその意識は一時的に抑えられたが、再びユージィン自身が目を覚ます保証はどこにもない。そんな日は永遠に来ないかもしれなかった。
「あの時はシュレンドルフに同調していたが、ようやく元の器に戻れたというわけだな」
 だがそのことには触れず、何気ない素振りで話しかけてくるヴィクトールにサリエルはキッと顔を上げ厳しい眼差しを投げかけた。
「お前には関係のない話だ」
 言外に黙れと含んだその様子にうっすらと笑みを浮かべ、ヴィクトールが気にせず右腕を伸ばす。その指先が弄ぶようにサリエルの顎を掴めば、一瞬ビクッ…と反応した身体が僅かにひるんだ。
「っ…離せ!」
 そんな自分を恥じてか、サリエルが掴む腕から逃れようと身体をよじれば、逆に伸びてきた左腕に腰を取られ動きを完全に奪われた。
「なっ……!」
 サッと顔を赤らめるサリエル。
 それは果たして羞恥からか、それとも怒りからか。
 判断を下す前に巧く相手の身体を戒めたヴィクトールが、間近に迫った耳朶を愛撫するように口に含みながらそっと囁いた。
「ではその身体でもう一度、試してみるというのはどうだ」
 あれ以来していないのだろう。
 囁く合間も腰に回した腕がゆっくりと下肢に伸び、辿り着いた割れ目を優しく撫でさする。
 反射的に腰を引けば、触れあった互いの下半身が微かに反応しているのを認め、知らず頬を染めていた。
「なにを…貴様、私を愚弄する気か」
「愚弄とはまた物騒だな。あの日はお前も良い想いをした、そうだろう?」
 にやりと笑みを深めながら言うヴィクトールの言葉に、嫌でもあの日のことが鮮明に思い出される。
 マックスと同調したまま放り込まれた懲罰房。
 そこに現れたヴィクトールが何の前触れもなく突然自分を抱いた。彼の目的がマックスであったのか自分であったのか、それは今でもわからない。
 だが行為のあとに彼の言った台詞が忘れられなかった。
「マックスは不慣れでも一応こちらの要望に応えようと努力するが、お前は…生娘そのままだな」
 笑いを含んだ声。
 言外に様々な嘲笑を含んだその言葉に何も言い返せなかった自分が悔しかった。
 抵抗を貫き通すこともできず、結果的に弄ばれた自分にただひたすら怒りを覚えた。
「悪い話ではないと思うが」
 そして今、再び自分を抱こうとするヴィクトールの眼差しを受け、サリエルはその瞳を容赦なく睨みつけた。
「フザけるな」
「……無理な強がりは自分を貶めると、以前教えたはずだが」
 だがそんな反応すら楽しむように、ヴィクトールは更に伸ばした手のひらで丹念に尻を揉みしだく。割れ目の間に指先を入れ、ズボン越しにソコを緩く愛撫した。
「…………ッ」
 嫌だと思っていても反応してしまう身体。そして密着した身体は嫌でもその事実を相手に伝えてしまう。
 にやりと笑ったヴィクトールが触れるほど間近に唇を近づけ、言った。
「無理はするな」
「なに…っ……」
 言い返そうと口を開いた瞬間、狙っていたかのようにヴィクトールの唇が覆い被さってきた。すぐさま口腔内に忍び込む舌先に、ぞくり…と背筋を這い上がった感覚。
 だがそれだけでは終わらなかった。
 強引な口づけに身体がひるんだ隙を狙って、ズボンを下着ごと一気に膝まで引き下ろされた。声を上げかけたところで唇を解かれ、身体を反転させられる。背中を預ける形になれば、露わになった下肢にゆっくりと手の平が覆い被さった。
「……な…やめろ!」
 その手の目的を知り、慌てて身体をよじるも、がっちりと腰に回された腕がそれを許さぬ強さで自分を押さえつけてくる。
 その瞬間サリエルの顔を染めていたのはたしかに恐怖で。普段は傲慢すぎるほどの自信に満ちあふれた顔が、この時ばかりは青ざめ引きつっていた。
 それを見届けたヴィクトールがひっそりと笑みを濃くし、手にしたサリエル自身を丁寧に扱きはじめる。
「あっ…ぁ、…っく……」
 たまらず声を上げるサリエルに、それみたことかとばかりに手を早める。
 若い性を陥落させるのは簡単だった。
 問題はいかにして相手をその気にさせるか。その点ではラファエルの方が数段扱いやすかったと、数日前に抱いた身体を思い出しヴィクトールは小さな笑みを唇に浮かべた。
 同じユーベルメンシュとはいえ、ああも違う双子も珍しい。
 どちらかといえばユージィンの体質を受け継いだのはラファエルの方だ。嫌だと言いながらも、最後には腰を振ってねだってくる姿は父親と酷似していた。
 だがサリエルは異常なまでの自尊心が最後まで邪魔をする。抱かれてなるものかと、与えられる快楽に溺れそうになる身体を叱咤してなんとか寝首をかこうと画策しているのが手に取るようにわかった。
 だからこそ気が抜けない。
 だがそれゆえに、ラファエルには感じられない面白さが彼にはあった。
「今度の体毛は茶色か…マックスの金も良かったが、この色も悪くはない」
 手にした一物を覆う茂みを確認し、ふっと笑ったヴィクトールにサリエルの頬が朱に染まる。離せとあがらう身体が一際力を込めた。
 サリエルは言葉の攻めに弱い。
 その事実に気づいたのは前回、マックスと同調した彼を抱いた時だった。いくら快楽で陥落しようと試みても、結局は卑猥な言葉一つの方がいくらも効果があった。
 最後には青緑の瞳に苦渋の色を浮かべたサリエルが、泣きそうな顔で呟く罵詈雑言。
 ラファエルにはない愛しさを彼に抱いたかどうかは定かでない。
「どうした、嫌がってる割にはもう…こんなに堅いが?」
「うるさ…はなせって、言って……」
「辛いなら少しでも可愛いところを見せたらどうだ。そうすれば楽にしてやるぞ。舐めて、しゃぶって…何度だって挿れてやる」
「……っく……」
 囁きの最後で耳朶を甘噛みしたところで、抱きしめた身体が強ばるのがわかった。まだろくに触っていないソコが弾けるのがすぐ。
 手の平をしとどに濡らした精液をじっくりと眺め、呟いた。
「………早いな」
 笑いを含んだ声でわざと言ってみれば、耳まで赤くしたサリエルが目を閉じ肩を上下させながら怒鳴り上げる。
 彼にしては至極珍しい、だが恥ずかしさを誤魔化すための癖の一つだった。
「貴様がっ……!」
「気持ち良かっただろう」
 相手に最後まで言わせずに、不意にそんな言葉を投げつけてみた。
 だがサリエルが一瞬言葉に詰まったのを見届けただけで、答えを聞いたも同然だった。満足げな笑みがその顔に浮かぶ。
 その表情を認めたサリエルが悔しげに唇を噛みしめ、手近にあった枕を思い切り叩きつけた。
「離せ、馬鹿!」
 予想もしなかった攻撃に、ひるんだヴィクトールの隙をついてサリエルが脱兎の如く部屋を飛び出す。
 だが追いかけるような真似もせず、その背中を送り出したヴィクトールはサリエルの予 想外の行動に小さく笑みを浮かべる。
「馬鹿、か…」
 あの高慢なサリエルがそんな台詞を吐くとは。
 ラファエルと同調してしばらくが経つ。いつの間にか、半身の思考に染まっていたのかもしれない。だが……。
「ずいぶんと俗にまみれたものだな」
 それともまみれたのは液にか。
 我ながら俗に満ちた思考に、ヴィクトールはそれからしばらく肩を震わせ笑っていた。
 手を濡らした精液もそのままに―――。


……駄目だ!今のうちから宣言しておきます!
今回の強化週間は質より量でイカせてもらうよ!!(爆)
だって…本当に難しいんだよ。どうしようもないんだよ。そもそも3人もいるから誰に絞って書けばいいのか迷うんだよ!(爆死)
そしていつにも増してオヤジなヴィクトール。
彼も彼ですっかり別人です。
そしてそんな2人の傍らで深い眠りについたユージィンは思っていただろう。
「人の枕元でHしてんじゃねーよ…」
今回一番のご愁傷様〜なキャラは彼に決定(笑)
それにしても、サリエルはすごく好きなキャラなんだけど、それだけに色々と考えちゃって…逆に書けなくなることが多いです。今回も本当なら書きたいシーンがもっとあったんだけど、そこまでどうやって話を持っていくかが考えられなくて…あぁ、自分の考えの浅さが嫌になる(T-T)
とはいえ、最後の意地で更新してみました!
こんな代物なら更新しない方がマシだよ…という意見は……今回に限り無視!!(爆)←おい
あと5日〜…頑張ろう(^-^;

 

 

 

 

 

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