『愛言葉』  Written by Takumi


 今夜は、あの日と同じ熱帯夜。
 生々しく思い出す、空気の暑さと、互いの熱さ。
 月光の下、乱暴に抱いて、傷つけて、用が済んだら後ろも振りかえらずにその場を去った。
 背中に微かに聞こえたのは、彼のすすり泣く声。
 罪悪感で、よけいに振り返られなかった。
 あれから一ヶ月、彼はなにも言ってこない――――。

「シドー、お前今夜見張りな」
 酒保での夕飯は騒がしい上に酔っぱらいが多く出るという悪条件の下でとられる。
 だが例年にない暑気に皆イラついているのか、今年はその騒ぎも尋常でない。
 隣のテーブルでビールの掛け合いがはじまったのを尻目に、向かいに座ったラファエルを一瞥すると、
「俺は明日だ」
 抑揚のない声でそれだけを言い、シドーは再び黙々と食事を続ける。
「だから、そうじゃなくって!」
「…………なら早く言え」
「〜〜〜〜!!ジェイクの奴が腹痛で動けねーんだよ!だから明日当番だったお前が繰り上がって今日の見回りだって言ってんだ!わかったか!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るラファエルをしばらく見つめ、シドーは自分のトレイからデザートのプリンを彼に渡した。
「やる」
 とたん、ラファエルの顔がパッと輝いたのは言うまでもない。
「え?なに?くれんの?」
「情報提供代」
「サンキューな!」
 ニコニコと顔をほころばせながら、さっそくプリンを食べはじめるラファエル。
「あと、夏場だからしっかり虫よけの薬つけていけよ?咬まれたら大変だからな」
「わかってる」
「ほんとか?お前って案外面倒くさがりだからなぁ」
 あれこれと忠告をする一方、ラファエルは心底おいしそうにプリンを食べる。
 だが、そういえばさぁ、と続いた言葉に、シドーのフォークを持つ手が止まった。
「見張りの相手、クルゼルだってよ」

「こんばんは、シドーさん」
 湿気を含んだ暑さにイライラしかけていたところを、涼やかな声で我に返る。
 一ヶ月ぶりに見る彼は、いつもと変わらぬ笑顔だった。
「………ああ」
「今夜も暑いですね。こんな日に見張りだなんて、ついてないです」
 微笑みながら、シドーの横にぴったりと並ぶのはクルゼル。
 その顔を見ることができず地面を見つめるシドーに、彼はかまわず話し続ける。
「ジェイク、大丈夫かな?……シドーさんも本当なら明日見張りだったんでしょ?災難でしたね」
「別に気にしてない」
「でもこんな熱帯夜が続くなんて、ほんとに異常気象ですよ」
「……………」
 言葉を交わすことさえ苦痛を感じる。
 だから地面を見つめて、せめて視線だけは合わせないようにしていた。
「そういえば昨日アブドゥル伍長が犬のもらい手探してましたね」
「……………」
「あれ、何犬だったんだろ?もらい手は見つかったみたいですけど綺麗な毛並みでしたよ」
「……………」
「……それで、僕はいつまでこんな不毛な会話をしなくてはいけないんです?」
 その言葉にハッと顔を上げた。視界に入ったのは、今にも泣きそうな苦笑を顔に浮かべたクルゼル。
「クルゼル………」
「あの日、どうして僕を抱いたんです」
「……………」
「ラファエルの代わりですか?」
 一ヶ月前の出来事が、生々しく思い出された―――。

「やっ…やだ………シドーさん……やめて……!」
「だまれ!」
「どうし…て……こんなこと………」
「うるさい……お前が悪いんだろ………誘ったのはお前の方だろ!」
 イライラしていた。
 なにもかも、この暑さのせいだ。
 あの日も自分たちは見張り当番で、その日はそれまでで一番暑くて。
 なのにクルゼルがいちいちラファエルについて話すから、ついカッとなった。
 嬉しそうに話してたあいつの手を取って、木に巻き付いてたツルで両腕を頭上で縛る。
 ボタンを引きちぎって、露わになった肌に夢中で舌を這わせた。
「ひ…あぁ………」
「感じるか?………感じてますって言えよ」
「かん……じて…ます………んっ!」
「………男慣れしてるな。俺が初めてじゃないんだろ」
「そんなっ………!」
「ヒクついて……俺のが欲しいのか?」
 言いながら、ズボンをはぎ取りクルゼルの細身な下半身に指を絡ませ、扱いた。
 クッと息を詰め、快感にわななく彼の様子にシドーは皮肉げな笑みを浮かべる。
「純情そうに見えて淫乱か」
「んっ……シドーさん!……やめ……やめて…くださ、い………」
「縛られて感じてるんだろ……こっちも限界だって言ってる」
 言いながら、不意打ちで亀頭に爪を立てた。
「ひっ……やぁぁ!………」
「倍の大きさになってるぞ。顔のわりに普通サイズだな」
 笑いがこみ上げた。自分はなにをしているのか。
 大木にもたれたクルゼルの身体を思いっきり開かせる。
 両腕を縛られ、大きく股を開くという卑猥な姿にそれまで冷静だった下半身がドクッと脈打った。
「シドーさん、正気に…戻って……ださい…」
「正気に戻って欲しくないのはお前だろ……射精したくてたまらないって顔だ」
「そんな、こと……やっ…それ以上……動かさな……んっ」
 ゴチャゴチャとうるさい唇をふさいだ。
 奥深くまで舌を突き入れて、口腔内を刺激する。
「んっ……ふ…ん……っ」
 クルゼルの涙で自分の頬が次第に濡れていくのがわかった。
 だが、やめる気にならない。もっと、酷いことをしたくなる。
「んんっ……」
 舌で刺激を与えながら、下半身を一気に扱きあげる。
 早いピッチで上下に動かし、先端から流れる白濁の液をすくい取って、彼の後ろに塗りつけた。
「……ぐ……んぅっ!」
 なにをされるのか気づいたクルゼルが、最後の力で暴れようと身をよじる。
 それが更に相手の虐待心をあおるとも知らず―――。
 余裕で彼を大木に押さえつけると、そのまま自身の高ぶりを押しあて、グッと力づくで押し挿れた。
「…………………ッ!!」
 クルゼルが言葉にならない悲鳴を上げる。
 だがそれも全て唇で覆った。なにも、聞きたくなかった。
「んぅ!!んっ……ぐ…っ…」
 前戯もなにもなく挿れたそこは、侵入者を拒絶するかのようにきつくて瞬間的にソコを絞られる感覚に陥る。
 だがそれを無視して、更に奥深くを目指して腰を進めた。
「ぐっ……う゛う゛……んっ…」
 唇をはずそうともがくクルゼルを大木に押しあて、抑制する。
 腰の動きを早めた。限界が近づいている。
「………………っ!」
「…………くっ!」
 果てたのは同時。
 だが射精の到達感に浸る間もなく、ソコから自身を引き抜いた。
 血で染まったそれをズボンの中に押しやり、所持していたナイフでクルゼルを戒めていたツルを断ち切る。
 拘束を解いた途端、糸の切れた操り人形のようにクルゼルはその場にズルズルと倒れた。
 それを一瞥して、その場を去る。
 言葉一つかけず、足早に。
 ようやく冷めてきた頭は、兵舎に帰る間中、警鐘を鳴らし続けていた。

「僕が知らないとでも思ってました?……知ってましたよ、ずっと前から」
 そして目の前に再び現れたクルゼルは、あの日の出来事を再び思い出させようとしていた。
 だって、と言葉を続けるクルゼルを、シドーはただ茫然と見つめる。
「あなたがラファエルを見ていたと同じように、僕はあなたを見ていたんですから」
 だからわからないはずがない、と言いきるクルゼルの瞳に涙が浮かぶ。
「クル………」
「わかってます!あなたはラファエルが好きで、僕なんか……」
 頭を振って、シドーの言葉を聞こうとしない。
 よほど興奮しているのだろう。頬は赤く染まり、涙がぽろぽろとこぼれていく。
「でも、僕はあの日あなたに抱かれて嬉しかったんです!あんな抱かれ方でも、あなたが僕をラファエルの身代わりで抱いたとしても!」
 一気にまくし立てたクルゼルは、そこで言葉を切り、肩を上下に揺らして呼吸を整える。
 その間も涙はボロボロと彼の頬を伝い、地面へと落ちていく。
「すいません。こんなこと、言うつもりじゃなかったのに………」
 やがてしゃくり上げながら、それでもクルゼルは必死に笑顔でシドーを見上げる。
「見張り、行ってきますね」
 くるっと背を向けるクルゼル。
 その背を見つめながら、再び頭に警鐘が鳴った。

「クルゼル!」
 叫ぶと同時に、その身体を腕に抱く。
 考える前に身体が動くとはこういうものか、と変なところで妙に納得しながら。
 すっぽりとおさまった小さな身体が、動揺でびくりと身体を強ばらせるのがわかった。
「な、に………」
「ラファエルの代わりなんかじゃない」
 その身体を強く抱きしめながら、耳元でそっと告げた。
 え……、と振り返る顔を間近で見つめ、シドーはもう一度同じことを言う。
「俺は、お前を抱いたんだ」
「だって………」
「抱いてる最中お前がずっとイヤだって言うから、嫌われてるのかと思った」
「あんな状況じゃ…でもシドーさんは……」
「ラファエルなんか、どうでもいい」
 俺は、と言葉を続けるシドーの唇をクルゼルのソレが塞いだ。
「信じていいんですね?」
 離れた唇が、しっかりとした口調で問う。
「僕、こう見えてもすごく嫉妬深いんですよ」
「……………この間は、すまなかった」
「いいですよ、もう」
「……………抱いていいか?」
 シドーの言葉に、再び腕の中のクルゼルがビクッと肩を震わせた。
 そうさせたのは自分だと知っているから、再び耳元に唇を寄せ言葉を続ける。
「今度は優しくする」
「すごく…すごく痛かったんです……だから………」
「うん?」
「や、優しく、お願いします」
 その口調がおかしてくて、つい笑った。
 めったに見れないシドーの笑顔を拝めたクルゼルは、その笑顔につい見とれる。
 そして絡み合った視線が、再び互いの唇へと行った瞬間、どちらともなく深い口づけを交わした。

 今夜は熱帯夜。
 だが暑さの中、彼らは更なる体温の上昇と、身体の交わりを深める。
 それは前回よりも熱く、優しいものだろう。
 交わし合う言葉、それは愛の睦言以外、何物でもないはずだ。
 今夜は熱帯夜。
 だが2人にとって、そんなことはどうでもよかった―――。

「シドー、お前首のところ虫に咬まれてるぞ」
 再び酒保で出会ったラファエルが、シドーの首もとを指さして言う。
「首………?」
「ほらそこ、赤くなってる。お前あれだけ言ったのに薬塗らなかったのかよ」
 だからお前は、と言葉を続けるラファエルを無視して、シドーは首もとに手を添える。
 その顔が微笑んだことに、いったい何人の者が気づいただろうか。


『ニシキヘビに餌をやろう!』同様、煩悩同盟に献上していた作品ですが。
淫乱&鬼畜シドー!(笑)
もう今回はこの一言に尽きますよね!(笑)
いやぁ、俺も久々に読み返してまさかこんな別人に仕立て上げてたとは…と正直びっくりしました(笑)
でも話の展開としては好きなパターンなんですよね。
無理矢理やった上で、冷静な受けが事情聴取をするという……(笑)
そりゃそうと、すっかり受け臭いクルゼルが何とも言えません。とても今の俺が「クルゼル=攻め」だと信じてるとは思えないぐらい(笑)
最後は最後で「それでいいのか!?」的な終わり方をしてるし(笑)
いやぁ…昔は本当に色んなことに挑戦してたんだなぁ…と自分の軌跡をたどってる気分です(笑)
そんなわけで、少しでも楽しんでもらえれば幸いm(_ _)m

 

 

 

 

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