『一夜の情交』 Written by Takumi


 明かりは極力絞ってほしいという希望に応えた寝室は、独特な雰囲気を醸し出していた。
 意識はしてないのに、自然と視線がベッドに向かう。
 おそらく、奴もここで抱かれたのだろう。
 今でも目を閉じれば思い出す。端正な顔に刻まれた余裕の笑み、見下すような青緑の瞳。
 キスマークを散らせた身体を露わに、恥ずかしげもなく言う。
 『これが僕のやり方だ……君には理解出来ないだろうけどね』
 言外に含んだ、明らかな嘲笑。自分の器量の小ささを笑われたようで、怒りで身体が震えた。
 その直後、考え直す間もなく行動に出た。
 深夜を過ぎた住宅街は閑散とした様子で僅かな音もしない。はじめて訪れる屋敷の扉を叩き、出てきた彼に前置きもなく告げた。
 抱いてくれ、と。
 返ってきたのは深い笑み。意味深な眼差し。差し伸べられた腕。
 後悔は、ない。
 
 奴に出来て、俺に出来ないはずがないんだ。
 キュッと唇を噛みしめた。
 そんな自分を、背後から抱きしめる男がいる。そっと耳を甘噛みされ、嫌悪感で鳥肌が立った。
「どうかしたかね、クリュガー君」
 耳元でそっと囁かれる。ねっとりと舌が首筋を這い、たまらず目を閉じた。
 それをおかしげに認め、マッソウは喉奥で笑いを噛みしめる。
 はじめからおかしいと思ってはいた。あの気位の高いヴィクトール・クリュガーが突然自宅に訪れ、おまけに抱いてくれなど。
「どういう心境の変化か、聞いてもいいかな?」
 向き合った態勢で、ゆっくりとボタンを一つずつはずしていく。噂に聞くユーベルメンシュのきめの細かい、吸い付くような肌に感嘆しながらちらり、とヴィクトールを見上げた。
「……別に、特に理由はありません」
 言葉とは裏腹に、そっぽを向いた顔は羞恥心で真っ赤だった。
 それが更にマッソウを刺激するとも知らず。ヴィクトールは言葉を続ける。
「ただ、これで少しでも私を厚遇していただけるなら」
「つまり、私を利用しようと?」
「そう取られても構いません」
 キッパリと言うヴィクトールに、マッソウは楽しげな笑みを浮かべた。
 同じような人物を、自分は知っている。
 青緑の瞳が印象的な彼は、今のヴィクトールのように自分に抱かれて現在の地位を手に入れたと言ってもいい。
 だがその彼とヴィクトールはあまりにもタイプが違いすぎる。
 一方は男を魅了してやまない、天性の娼婦だ。
 だがヴィクトールはむしろ、このようなことを嫌悪するタイプだと思っていたのだが。
 自然、満足げな笑みが浮かぶ。
「君がどんな理由で私に抱かれに来ようと、私もそれほど理由にこだわらない質でね」
 ボタンを外し終え、露わになった肌に唇を押しつける。
 ピクッと敏感に身体が震えた。
「思ったより感じやすいようだね」
 クスクスと喉を鳴らす。
 そう、理由などどうでも良かった。ユーベルメンシュの身体が抱けるのなら。
「実を言うと、私も君には以前から少なからず興味があってね」
「…………」
「気づいてはいただろう?」
 ピンク色の乳首をじわりと周りに円を書くように触れる。すぐさま突起が立ち上げる。
 それを口に含み、丹念に味わう。
「やめっ……!」
 思わずあがる声に、おや、とばかりに目線をヴィクトールに注いだ。
 その視線を受け、ヴィクトールは更にあがりそうになる抗議の声をグッと喉奥で堪える。
 こんな所で根を上げるわけにはいかない。
 奴はこれよりもっとすごいことをしたのだ。なら、自分にそれができないはずがない。
 どこから来る根拠かは知らないが、とにかく奴、ユージィンには負けたくないという想いがヴィクトールを支配する。ついにはマッソウに抱かれることを決心するほど、追い立てる。
「ふ…う……」
 ねちゃねちゃと乳首にまといつく舌。なま暖かいそれに、感じたくないのにモゾモゾと腰のあたりが疼きはじめる。決して欲求不満などではないのに。
 それをめざとく見つけたマッソウが嬉しそうに口端をあげた。
「感じてきたようだね」
 羞恥心で耳まで赤くなるのがわかった。
 マッソウが言葉で自分を煽ろうとしているのはわかっているのに、なぜか素直に反応してしまう自分が憎らしかった。
 唾液でてらつく乳首。
 ベッドサイドの穏やかな明かりがそれを妙に生々しく浮き出す。
「やるならやるで、焦らさないでください……」
 それを目の当たりすることも叶わず、素っ気ない口調で相変わらず笑みを浮かべたままのマッソウを睨み付けた。
 おやおや、とばかりに肩をすくめるマッソウが腹立たしい。
「わかってないようだね。焦らすのが、楽しいんだよ」
「…………変態」
「ふふ……君にもいずれわかるよ。誰かを陵辱する楽しみがね」
 だが、と言葉を続けるマッソウが不意にファスナーの中に手を突っ込み、勃ちかけたヴィクトール自身を掴んだ。
 思わず屈みそうになる身体を堪え、ヴィクトールは声を殺した。
「くっ……」
「でも、君が急いでほしいというなら仕方がないね」
 耳元でいやらしく囁かれる。
 マッソウの手中で弄ばれるソレは淫らな指の動きに従って、本人の意に関係なく次第に質感を増していった。
「ん…ぁ……」
「声を出したまえ」
 くちゅくちゅと粘液質独特の音が部屋中に響く。
 口元を拳で覆ったヴィクトールに、髪を乱したマッソウがそっと囁き、強引にその手を口元から離しキスをした。
 同時に前を触っていた指とは逆の指がゆっくりと背中を伝い、尾てい骨を越え、その奥に眠る秘門へと向かう。
「ヴィクトール・クリュガーのここを知ってる男は、もしかして私がはじめてかな?」
「なに、を…バカな……」
「もう立っていられない?」
 既に慣れた仕草で弄ばれたソコは、痛いほど張りつめ先端から堪えきれず精液をわずかににじませていた。
 それを認め、マッソウはいやらしげに笑むと先端に親指を押しあて、グリグリと刺激を与えた。途端、ヴィクトールの身体がエビ状に反る。
「はっ……く…ぅ………」
「ベッドに、行こうか?」
「……行きたいなら…行けばいい………」
 どこまでも強情なヴィクトールの口調に、マッソウは笑みを深くする。
 そっと腰に手を回し、その耳元に唇を近づけた。
「では私の希望通り、ベッドに行ってもよろしいかな?」
 答えは言葉のない、頷きで返される。
 そのあまりの強情さに、だが笑みだけが浮かんでくる。
 目の前の彼は、はやり、自分の良く知った少年とは全くの別物だと確証する。
 ヴィクトールほど気位の高い男はそういないだろう。
 だが、だからこそ楽しめる。
 そんな彼を組み伏せる瞬間、自分はその状況にこれ以上ないほどのエクスタシーを感じるはずだ。
 その瞬間が楽しみで。
 マッソウは静かにヴィクトールの手の甲に口づけを落とした。

「…マッソウ………」
 上気した肌がなまめかしい。
 途切れ途切れの台詞で自分を魅了するのは、四つん這いになったヴィクトール。
 秘門に自身を埋め込んで、かれこれ30分が経つ。
 だがその間、一度もイカせてはいない。
 彼がイクと思った瞬間を見計らって動きを止める。彼自身を握って射精を引き留める。
 そうしながらただひたすら、このプライドの塊であるヴィクトールを籠絡させていた。
 結果、目の前にヴィクトールは既に恥も外聞も捨て自分に懇願の視線を向けている。
 それを認め、ゆっくりと出し入れを繰り返していた腰を速めた。
「あっ……んっ…んぅ……マッソウ、マッソウ……」
 ツー…と目尻を流れる涙を唇ですくい舐め、自身も荒い呼吸で囁く。
「カールと。……呼ぶまではイカせないと思いたまえ」
「……ぁん、っく……カール!…カール!」
 間を置かず、ヴィクトールが叫ぶように名前を呼ぶ。
 カール、と何度も。
 言葉の裏に「早くイカせてくれ」と懇願をにじませ、苦しげに名を呼ぶ。
 同時に貪欲にマッソウの動きに合わせて腰を激しく動かすヴィクトールを背後から眺め、満足げな笑みを浮かべた。
 娼婦のように自分を煽る彼もいいが、ヴィクトールのように普段強情な人間を屈服させるのもまた違う快楽を自分に与える。
 ブルッと背中を堪え切れぬ快楽が駆け抜けた。
 思わず汗の浮かんだ額に苦痛の皺を刻む。自分ももう、限界が近い。
 ヴィクトール自身には既に思考回路などというものは皆無。ただ与えられる快楽を貪欲なまでに味わうことしか今は頭にない。
「はや…く、カール……!」
「いい子だ……」
 背後から腰を抱え、グイッと腰を押しつける。それだけで抱えた身体がビクッと痙攣を起こした。


以前宮が日記でぼやいてたカップリングを、勢いのままに書いたやつです(爆)
まだHP開設前で、スペースだけは持ってたので掲示板にURLを書いて公開したので知ってる人も多いと思いますが。
…………このカップリング、今見たら結構ツボなんだけどさ(爆死)
なんだろうね。
このヴィクが強情ながらも懇願するってパターンにグッと来たのかも(笑)←黙れ
しかしこんな中途半端なところで終わってたっけ?(^-^;
自分的にはもっと先まで書いてたつもりだったのだが……まぁ、ファイルにここまでしか保存してないってことはここまでなんだろうな。
う〜ん、なんかもっと書いてみたいカップリングだ(笑)

 

 


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