シーツの波間で踊る魚』 Written by Takumi


 目が覚めれば目の前に広がるシーツの海。
 砂漠に囲まれたこの土地で、海がどんなものかはあまり良くわからないが、例えるのならそれしかないと本能的にわかっていた。
 わずかに気怠さを残す身体を起こし、乱れた前髪をかき上げる。
 瞬間、肩口を走った痛みは昨夜の名残。
 いくつも走った爪痕を想像し、小さく笑みを浮かべた。
「……ん…」
 シーツの海の波間であがった声に目を向ける。
 日に焼けた健康的な肌が微かに身じろいだ。身体全体を覆うシーツをわずかに引き上げれば、鷲のように鋭い瞳が現れた。
「……何時だ」
「まだ日が昇ったばかりですよ」
 マヤル、と甘い囁きで返せば寝返りを打つ相手が目の前。
 惜しみなく晒される素肌に衝動的に唇を寄せた。
「よせ」
 面倒くさそうに腕を払われ、おや、とばかりに身を引く。
 昨夜は何度もこの身体を求めたというのに。
 闇の中に隠された秘事は日の光にいとも容易く身を潜めた。
 小さくため息をつき、目の前でシーツにくるまれた身体をそれでも名残惜しそうに指先でなで回す。
「………ッ…」
 ぴくりと反応した身体に笑みが浮かんだ。
 昨夜の名残を未だに体内に残した彼は、言葉とは裏腹にまだ飢えていると告げていたから。
 だから、再び唇をその腰のくびれに押しつけた。
「…やめ、ろ……」
「気持ち良いんでしょう」
「馬鹿か…こんなことして……つッ」
 確実な反応が返ってきた。
 視線の先にある彼の下肢。その部分を覆ったシーツが微かに盛り上がっていることを見逃す自分ではない。
「どうして…昨夜はあんなに私をほしがったのに」
 おかしいですね、と耳元で囁いて甘噛みすれば鋭い瞳が一瞬瞼の奥に隠れる。
 すぐ側にある唇がわなないた。
「怖がらないで」
 静かに囁いて、触れるだけのキスをした。
 それと同時に右手を下肢へと伸ばし、欲情を確実に手中に収める。
「くっ…そ……」
 両腕で顔を覆い、赤面しそうな自分を必死に隠そうとする彼につい意地悪をしたくなる。
 普段は多くの人間をかしづかせる彼を泣かせるのは自分だけだと、妙な陶酔感に襲われるのはいつものことだった。
「バルアン」
 滅多に口にしない彼の名を呼ぶ。
 ピクリ…と一瞬身体を震わせた彼が覆った腕の合間から微かに瞳を見せた。
 その目に微笑み返しながら、ゆっくりと手にした彼の欲情を擦りはじめる。
「あっ…つ……」
「どうして欲しいんですか」
「…コルド、お前………」
 濡れた瞳が憎しみに染まった視線を投げかける。
 だがそれを無視して、更に彼を煽りたてる。握った手に力を入れた。
「は…ぁ……」
「言わないことにはどうにも動けませんからね」
 いつの間にか、自分の吐息も焦りを含み始めていた。
 妙に息継ぎの短い呼吸が聞いていておかしい。
 次第に濡れてくる右手を意識しながら、最後だとばかりに相手を見据えた。
 返ってきたのは、ぎらぎらと激しい眼差し。
 次いで乾いた唇がゆっくりと開いた。
「…こい、よ……」
 抱かせてやる。
 囁きに近い声で発した言葉に、思わず苦笑が浮かんだ。
 どこまでも王者の気風を崩さない彼。位高げで、プライドに満ちた態度。
 彼こそ、生まれながらの赤き死の王なのだと。
 どこまでも続く砂漠の大地を統治する強き男なのだと、相手に感じさせる技に長けた男を目の前にそんなことを思った。
 肩をすくめ、そんな彼の身体に掛かったシーツをうやうやしく手に取る。
 目の前にあるのは欲情に満ちた王という名の一人の男。
「あなたが望むままに……」
 開いた足の間に身体を滑り込ませる。
 腰に絡まった足を押さえつけた。
 それだけで、良い。
 それだけで、自分と彼はこのシーツの海を泳ぐ魚になれる。
 身分もなにも関係ない、二匹の魚に。
 耳元であがった吐息に、そんなことを考えた。
 じわりと首筋を伝った汗に、今日も暑くなる砂漠の一日を予想しながら。


極限られた人にメールで送った血伝エロ(笑)
でもエティカヤで唯一認められる肉体関係は彼らしかいないんじゃないかと……。
ヒカイは片思い、ムイクルはストーカーだから(笑)
ちなみにバルアンはたとえ受けでも態度はでかいです。間違っても女のような声は上げません。
その辺がこだわりと言えばこだわり。
まさに「抱かせてやる」の領域なんですよねぇ(笑)
でもコルドはコルドでそんな彼の胸中を知っていて、わざと従う振りをする、と。
主従関係の良いところです(=w=)
そんなわけで、1人でも多くの人がこのカップリングを認めてくれれば幸いです(笑)

 

 


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