『少尉の本音』 Written by Takumi


奴に対面したのは、何も親切心からではない。
憔悴しきったであろう憎き敵の無様な格好を、この目に焼き付けておきたかったからだ。
「しょ、少尉。捕虜への面会は禁止されてます!」
「うるさい、俺の勝手だ」
頑としてどかない監視兵を一瞥して扉に手をかける。
錠に鍵を差し込み、カチリ、と音がしたと同時にノブに手がけた指に力がこもる。
「おい、ロー………」
だが扉をわずかに開けたとき、聞こえた切ない声に俺はかけるべき言葉を失った。
「リック……リチャード………」
わずかな隙間から室内を覗き見る。
薄暗いソコにいるのは、長年憎みつづけてきたリチャード・レイストン。
こちらの様子に気がつかないのか、備え付けの簡易ベッドに腰掛け、だがその手が持つ薄っぺらいモノに愛しげな眼差しを向け同じ言葉を何度も呟く。
リック…リチャード、と。
(写真、か………)
目をすがめ、彼に手に握られた紙切れを判別したと同時に、俺は静かに扉を閉める。
「あの…もうよろしいんですか?」
伺うように聞いてくる監視兵を来たとき同様睨み付け、俺はその場を後にした。
階段をのぼりながら、ふとここに来るまでに考えていたことを反芻する。
冷血漢だと思っていた。
背中を向けた負傷敵機にも容赦なく攻撃をかけるロード。
その機械的な操縦から、人間味を感じることはただの一度も無かった。
だがその彼があんな表情をするようになったのには、少なくとも写真の主の影響だろう。
「ようやく人の子になったか……」
反響する廊下で一人呟く。
かつては自分が彼をそんな風にしようと思っていたことを懐かしく思いながら。
戦場で奴をあおり、挑戦状をたたきつけ。
どうすれば奴が熱くなるのか、自分なりに考えたつもりだった。
「ま、全部無駄だったってことだな……」
少しの虚しさが残る。
だがそれを苦笑することで自分を励まし、彼が呟いていた言葉を思い出した。
「リック、リチャード、か……」
奴を人間にした張本人。
先ほどのロードの様子からして、二人の関係が友達以上なのは一目瞭然だ。
きっといい奴なのだろう、リックという人間は。
そのまま数歩歩きつづけ、だが俺はふと足を止める。
考え付いたことに、思わず目が点になった。
「リックってもしかして……男か!?」
悲しいことに、否定の言葉が見つからない。
果たしてライバルが人間化したことを喜ぶべきか、まさかそんな趣味だったのかと悲しむべきなのか。
しばらくその場で一人唸っていたが、
「ま、奴の人生か」
顔を上げ、それだけを言って俺は自室へと戻ったのだった。


いつ書いたやつでしょうね、こりゃ(爆)
たぶん雑誌連載時、ゲーリングラブ!な状態になった頃じゃないかと……「絶対いい人」説を打ち立てるために書いたんじゃないかな(笑)
今じゃすっかりバカキャラになってるけど(笑)<ゲーリング
当時はシリアスもばっちり決めてくれるキャラだと信じて疑わなかったのよ……
とはいえ、そんな想いがあるだけにかなりいい人です、このゲーリング(笑)
本編ラストでは格好良く決めてほしいモノだ(切実)

 

 

 

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