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Dedicated to "Echigoya"

『天翔けるバカ収録現場3』 Written by Takumi


 被弾したフォッカーDrT。
 その傍らで、互いを牽制し合うように青年3人が言葉を交わす。
「次の機会は当分先ですよ、兄さん」
 厳しい、だが身内を心配しているのが伺える口調で青年の一人が目の前の上司に進言した。
 言われた相手は乱れ髪を気にする様子もなく、きょとんと青年を見返す。
「兄さんは明日からまた休暇です。まだ治っていないんですから」
「何を言ってるんだ、ロタール」
「そうだ、何言ってる」
 思ってもみなかった実弟の言葉に、言われた上司は目を見開く。
 その傍らで2人のやりとりを聞いていたその部下も、同じように驚いた様子でロタールを見つめた。
 そんな2人の視線を受けても、だがロタールは一向にその表情を改めようとはしない。
 それどころか、ますます厳しい顔つきを保ったままで兄を見つめ続けていた。

「カ―――ット」
 監督の声が響くと同時に、ホッとその場の緊張が解ける。
 スタジオ・スカイパラダイス。
 ドラマ『天翔けるバカ』もほぼ安定した視聴率を打ち出す中、今回は第二部ということでドイツ軍にスポットを当てることになった。
 それが功を奏するかは未定。
 当たればますますの視聴率向上は望めるが、万が一にも失敗すればそれまでの視聴者までも失うだろうという、いわば大勝負だ。
 監督としても、腕の見せ所である。
 よって、今回の撮影がいつも以上の緊張と期待をもって迎えられたのは言うまでもない。
 再びざわつき始めたスタジオに、それまでスポットを浴びていたロタールが珍しく安堵のため息をついた。
「どうした?疲れたか?」
 そんな彼をめざとく見つけた部下役、ゲーリングがさりげなく肩を抱いてくる。
 その腕を邪険に払うと、ロタールはかったるそうにオールバックに整えられた髪を掻きむしった。
「ここ何日か徹夜が続いたからね。いい加減無理が来たのかもしれない」
「そういえば、リックの代役を引き受けたってな。働き過ぎじゃないか?」
 ほら、とおしぼりを差し出すゲーリングを軽く睨み付ける。
 その視線に肩をすくめてみせるゲーリングは、来月にも挙式予定の新郎候補だ。
 ゲルマン系の顔立ちは一般婦女、特に高年齢層に受けが良いようで、この俳優大量生産の今でも一定の人気を保っている。
 その彼が今回新たな一面を出したいと言うことで、熱血・短気・単純がイメージの部下役を引き受けたことは、映画製作発表時に大きな話題となったことで記憶に新しい。
 また第1部での彼の希にみる演技力で、新たなファン層を得たというのも有名な話だ。
「婚約者のご機嫌だけじゃなく、僕の機嫌まで伺ってくれるんだ?」
 ありがたくて涙が出るね、と一瞬皮肉げな笑みを浮かべたロタールに、ゲーリングは思わず素っ頓狂な声をあげた。
「はぁ!?」
「おしぼり、ありがとう。でも自分の体調は自分で面倒見れるから」
 ぶっきらぼうに答えると、そんな彼におしぼりを押しつけロタールはさっさとステージをあとにする。
 わけわかんない奴だな、と背後でゲーリングがため息をつくのがわかった。
 わかんないのはお前の方だよ、と怒鳴り返したいのを我慢するかのように、ロタールはギュッと拳を握る。
 だがそんなロタールの耳に悲鳴に近い声が届いたのは、それからすぐのことだった。
「レッドバロンさん、勘弁して下さいよ!」
 声の方向を見れば、週刊誌片手にやや涙を潤ませた広報部長が目の前でふんぞり返った青年相手に説教をたれている。
 その光景に、ああ、とロタールは困ったように苦笑を浮かべた。
 こんな光景は何も珍しいことじゃない。
 珍しいどころか、もう見慣れていると言った方がいいかもしれない。
「あぁ?お前誰に口利いてんだよ」
 ふてぶてしい、という表現がしっくりくる口調でそんな応対をしたのは、まさに今広報部長からおとがめを受けているレッドバロン本人だ。
 ドラマ内では穏やかで騎士道精神を大切に思う好青年を演じているが、実生活では女遊びがあとを絶たないかなりの好き者だった。
 おまけにその昔は地元でちょっとは名の知れた族をやっていたとかで、腕っぷしにも自信がある。
 ハッキリ言って、今回の出演者の中でも最も扱いにくい人物だった。
 そんな彼の、これまでに落とした女の数は80人に達するほど。
 ちなみにその彼の実弟、ロタールも現在スコアを伸ばしつつあるが、彼の場合は刃傷沙汰になることが多いので、1度事件を起こすと何週間か入院するのが常である。
 さすがに今はドラマ収録中とあってそのへんは控えているようだが、それ以前は1年の約半分を病院で過ごすほどだ。
 よって、彼のスコアは兄を凌ぐほどのものではない。
 とはいえ、兄弟揃っての好き者だと、業界では有名な話だった。
 当然今も広報部長が手にしている雑誌には、レッドバロンの密会がフォーカスされているのだろう。
 だが本人に全く反省の色がないのでどうしようもない。
「ですがドラマのイメージというものがありますからと、先日も再三忠告したはずですよ!なのにこんな……」
「だって向こうが勝手に迫ってくるんだもーん」
「もーん、じゃありません!」
「あのさぁ、さっきから言ってるけどお前誰に口利いてるつもりよ?……あんまりうるさいと殺しちゃうよ?」
「なっ……何を言ってるんですか、あなたは!」
 既にクランクイン以来、何度かレッドバロンの尻拭いをさせられた広報部長はほぼ切れる寸前である。
 だがいつも以上に険悪な2人の雰囲気に、周りのスタッフ達も心配げな眼差しを送っている。
 しょうがないな、とばかりにそれまで傍観を決め込んでいたロタールはため息をついてそんな2人に近づいていった。
 こんな兄でも、一応は血の繋がりがあるのだから見逃してはおけない。
「兄さん」
 控えめに声を掛けると、途端それまで鋭い眼差しで広報部長を睨んでいたレッドバロンがパッと顔を輝かせた。
「ロタール!」
「あんまり広報さんを困らせないでくださいよ。降板されても知りませんよ」
「だってこいつ、生意気なんだ」
「でも僕達は雇われの身ですから。上がこうしろと言うならそれに従わないとダメでしょう?」
「そりゃ、そうだけどさ……」
「それより今夜、一緒に飲みに行きませんか?良い店、見つけたんですよ」
「行く行く!!あ、座れよ」
 穏やかに話しかければ、それまでとはうって変わって嬉しくてたまらないという感じでレッドバロンが自分の隣のイスを勧めてくる。
 この荒くれ兄貴も、弟には借りてきた猫状態だった。
 おまけにロタール自身、飴と鞭の使い方を良く心得ている。
 当然その様子にホッとした広報部長はあとはロタールに任せる気なのか、それじゃ、とそそくさと席を外していった。
 すると何処から現れたのか、
「相変わらず兄弟仲良いな、お前達」
先ほど別れたばかりのゲーリングが入れ替わりコーヒー片手に近寄ってきた。
「ったく、このスタジオ設備がいいのはいいけど寒いのが難点だよな〜」
 そう言うと、背後からロタールの首に抱きつき寒そうに身体を震わせる。
 その仕草にロタールが身体を強ばらせるのと、レッドバロンが怒気も露わに立ち上がるのが同時。
「ゲーリング!てめー、ロタールから離れろよ!」
「は?なんでそんなことあんたに言われないとなんないの?」
「うるさいうるさい!ロタールは俺のなんだよ!お前の汚い手で触るな!」
「あ〜、お前の身体ってやっぱ暖かいわ。極楽極楽」
「人の話を聞け〜〜ッ!!」
 ドラマとは全く立場が逆である。
 とはいえ、それは連合軍側の役者も同様なのであえてスタッフ達も何も言わない。
 それどころか、自分たちに飛び火しないよう、極力静観を心がけていた。
 とはいえ、渦中のロタールといえば、
「ゲーリング。ふざけるのもいい加減にしろ」
 邪険にその腕を振り払うと、まるで汚いものでも払うかのよう肩のあたりを軽く叩いた。
 そんなロタールの反応に複雑な表情を浮かべるものの、ゲーリングは少し肩をすくめただけで空いたイスに腰を下ろした。
「ハッ……いい気味だ」
 だがそんな中ただ一人、レッドバロンだけが全く見当違いな自己満足に浸っているのだった。
 ドラマ『天翔けるバカ』第二部。
 収録自体は好調な滑り出しを見せているが、その実出演者同志の仲はいまいち険悪な雰囲気を隠せない。
 果たして無事クランクアップを迎えられるのか。
 スタッフ一同は、ただひたすらその日を夢見て今日も静観を心に誓うのだった。


新年以来、不幸続きの越後屋(^-^;
そんな彼女にせめて元気を出してもらおうと書いたのが今回のやつなんだけど……ご、ごめんね。なんか全然リクエストと違うものになっちゃって(爆)
リクエストは『ドイツ軍の健全ギャグ』だったのに、どこが「健全」で「ギャグ」なんだか(-_-;)
どうも連合軍側に濃いキャラを持っていったせいか、ドイツ軍はそれほどぶっ飛んだ性格の人が考えられなくてね。
特にゲーリングはこっちでは絶対格好いい男にしようと思ってたから(笑)
結果、バロンぐらいしか変な性格の奴はいないんだけど……それでも連合軍側に比べたら可愛いもんだよね(^-^;
う〜……越後屋、これで勘弁してくださいm(_ _)m
次回、正式に切り番取ったときに頑張るからさ(笑)

 

 

 

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