『終局』−始まりには常に終わりが存在する−
「な、なんだったんだ……」
これまでとは比較にならないほどの濃さだ。
頭がクラクラする。
ふらつく足で数歩歩いたところで、結局未だに肖像画の廊下から抜け出せてないことに気づいた。
「はぁ〜………」
さすがにもうなにも言う気が起きない。
もつれそうになる足を鼓舞してみたところで、だが突然背後から何者かに抱きしめられた。
「おはよう、アロイス!こんなところでどうしたんだい?」
「ぐえっ……!」
ギュッと首に巻き付けられた腕が、器用に息を止める。
それをなんとか引き剥がしたところで、今まで散々悪態をつく対象と決めつけていた張本人に出会いこれまでの怒りが爆発する。
「テメー、このクソオヤジ!だいたいなにもかもお前が悪いんだからな!!」
「なんだい、いきなり。ああ、お腹がすいたのかな?大丈夫、すぐご飯だから」
「そんなこと言ってねーだろ!」
叫んだと同時にグーっとお腹が鳴った。
そういえば、起きてからどのくらいの時間が経ったのだろう。
それでなくても気力を使うことばかりをしていたような気がする。
「ほらね」
耳ざとくその音を聞き取ったオヤジが嬉しそうに笑みを深める。
「もしかして迷子になったの?」
「…………だ、誰がそんな間抜けなこと……」
「お父さんって呼んでくれたら食堂まで案内するけど?」
「ばっ……!」
馬鹿じゃねーの、と言おうとして思いとどまる。
もしここで奴の言うとおりにしなければ、きっとこのままダッシュで俺を置き去りにするのは目に見えてる。
なら一瞬の恥ぐらいは大人しく我慢するべきなのかもしれない。
なんたって、そう考えてる間もお腹はシクシクと空腹感を主張してくるんだから。
「ん?どうした?」
俺の考えが手に取るようにわかるんだろう。
オヤジが心底嬉しそうに目の前に顔をつきだしてくるのを、なんとか拳を握ることで我慢する。
「………おとう、さん……」
「連れていってください、だろ?」
どこまでも調子に乗る親だ。
白くなるまで握った拳にますます力を込め、最後のもうひと頑張りを試みる。
「食堂まで連れていってください、お父さん」
「ああ、アロイス!!」
がしっと再び力強い腕に抱きしめられた。
我慢、我慢だ…………
だがそう自分を説得する俺の耳近くでオヤジがクスクスと笑いながら言った台詞に、思わず目を見開いた。
「この屋敷、性格が悪いから気をつけるんだよ」
「どういう……」
聞き返そうとしたところでパッと身体が離れる。
そそくさと廊下を歩き出すユージィンは後ろを振り返る素振りすら見せない。
俺は慌ててその後を追った。
まずは朝食をたっぷり食べたのあとで、じっくりと話を聞こうと思いながら。