『兄弟愛とはなんぞや?』 Written by Takumi


 カデーレ宮では今日も盛大な罵声があがっていた。
 その騒動に、またか、というように使用人達は苦笑を交わすが、すぐさま慣れた様子で中断していた仕事を再開する。
 既に彼らの間では日常と化した、三男アルゼウスと四男ミューカレウスの喧嘩。
 ちょっかいを出すのは常にミューカレウスからだったが、それに素直に反応するアルゼウスのおかげでいつも喧嘩は派手な取っ組み合いへと展開する。
 次男シオンはそんな2人の間をオロオロと所在なさげに右往左往し、どいてください!と逆に2人から怒鳴られる始末。
 そして最終的には、長男ドミトリアスが間に入って幕を閉じるのがここ数回のパターンとなりつつあった。
 とはいえ、今日はその喧噪がなかなか止む気配を見せない。
 それどころか、ますます勢いを増していきつつあった。
 さすがの使用人達も怪訝そうにホールを伺う。
 聞こえてくるのは声ばかり。
 だが普段と違うところと言えば、その声がいつもの少年独特なものだけではないということだろう。
 甲高い少年のソレに混じって、明らかに変声期を過ぎた青年の声が混じる。
「いい加減にしろ、ミュカ。なぜそういつもアルに構うんだ」
「兄上には関係ないです!」
 呆れた口調のドミトリアスに、言われたミューカレウスが悔しげにキッと目線の遠い兄を睨み付けた。
「これは僕とアルの問題です!いくら兄上でも口出しは無用!」
「関係ないはずないだろ。そんなことで皇帝後継者として務まると思っているのか。お前ももう12だ。少しは我慢というものを知らなくてはいけない年頃だろ」
 一人前の口を利く末弟に、やや眉根を寄せ、ドーンは改めて彼に自分の現状を教える発言をした。
 おそらく自覚はあるのだろう。
 俯き、再び悔しげに唇を噛むと、ミュカは両脇で堅く拳を握った。
 虐めすぎたか、とその様子にやや反省したドーンが慰めようとその肩に手を伸ばしかけたその時、それまでかたくなに俯いていたミュカが突如顔を上げ、言い放った。
「歳歳って…あ、兄上なんか……その年でもう後退が始まってるくせに!」
「うッ……」
 突然のミュカの攻撃に、思いもみなかったドーンは図星を指されたというように胸を押さえた。ズキズキという痛みが胸に走る。
 元はと言えば、常日頃のアルとの喧嘩にドーンが仲裁に入ってくることが原因だった。
 毎回他人の喧嘩ごとに首を突っ込んでくる兄が、ミュカには気に入らなかった。
 おまけに彼はいつもアルばかりをかばって自分を責める。
 さすがにそれが毎回続くとなれば、さすがの末っ子ミュカも反抗したくもなるだろう。
 そのため普段なら決して言えない台詞が、怒りのためかつい出てしまった。
 ミュカ自身、口にした瞬間「やばい」と思ったが、もう遅い。
 カデーレ宮の暗黙の認、禁句に触れてしまったミュカは謝るに謝れない状態に追い込まれていた。
 だが一方で痛いところをつかれたドーンも、まさかミュカが反抗するとは思ってもみなかったのだろう。
 未だに胸を押さえ、驚きを隠せない顔で末っ子を見つめていた。
 たしかに以前からきついことを言う弟だった。
 だがまさかこんな台詞で自分を追いつめるとは。
 窮鼠猫を噛むとはこのことか、と妙に頭の隅で冷静に判断している自分を自覚しながら、だがあまりの彼の台詞にややよろめきかける。
「ミュカ、なんてことを!」
 そんなドーンを横から支えながら、次男シオンが青筋を立てながらミュカを激しく諫めた。
 珍しい次男の攻撃にややひるみながら、やはり兄上達は愛し合っているのだろうか、と最近巷を騒がせている噂話を気にしつつも、ミュカは再び声を荒げた。
「なんだよ!本当のことだろ!兄上の髪が薄くなってるって本当はシオンだって思ってるくせに!」
「……そうなのか、シオン」
 ショック、と大きく顔に書いてある表情でドーンが目の前の弟を見つめた。
「なにバカなこと言ってるんですか……」
 その視線をやや避け、シオンは小さな声で答える。
「だって僕聞いたんだ!この間シオン、兄上がハゲたらもう興味ないなって言ってたの!」
「ミュカ!!」
 もう自分がなにを言っているのかわからない弟が、再び口を滑らせた。
 それまでかつがつ笑みを浮かべていたシオンの顔が一気に蒼白となる。
 そんな2人を見て、ドーンは静かに兄弟愛について考えていた。
 涙が一筋その頬を流れたことに、誰か気づいた者はいるのだろうか。


カデーレの明日はいかに!?(爆)
いや、もうどうとでもしてくれって展開だな(笑)
というか、ドーンファンに抗議のメールもらいそうだ(^-^;
でも4兄弟の中でドーンが一番早く○○そうだな、とね……ちょっと思っただけなんだよ。
心労多そうだし、気苦労耐えないし、最愛の弟は死んじゃうし……ねぇ?(微笑)
とはいえ、やはりシオンが一番怖いキャラだと再確認した話ですな(笑)
兄上への愛も髪の毛次第ってか……それも有りってか(笑)

 

 

 

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