『全ては愛ゆえ』 Written by Takumi


「ロードのバカ……おせーんだよ…」
 時間は守れっていつも言ってんのに、と愚痴をこぼしながら廊下の壁にもたれているのはリック。
 夕飯も終わり、誰もが自由時間を満喫しているというのに彼は先ほどからずっとここでロードを待っていた。
 時間内に来ないなら帰ってしまえばいいのに、そうしないところが惚れた弱みというものだろう。
 愚痴は言っても、一向にそこから去ろうとはしない。
「あ〜あ………」
 ズルズルと背中をずらし、その場にしゃがみ込む。
 立てた膝に顔を埋め、大きくため息をついた。
「……から………てんだよな……」
 やがて聞こえた小さな声に顔を上げる。
 1人じゃない、2人分のソレに怪訝に思って腰を上げ廊下の角まで足をしのばせた。
 ひょいっとわずかに顔を覗かせ、そこにいる人物を認める。
(パードレとピロシキ……あいつらこんなところでなにしてんだよ……)
 リックの存在に気づかない2人は、トロトロと肩を並べて歩きながら、
「次の飛行、明日だったか?」
「そ、早朝に敵地の偵察だってさ。人使い荒いよなぁ〜」
「昼食までには帰ってこいよ」
「ま、生きてたらな」
「バカを言うな………」
 スッとパードレの手がピロシキの襟元を掴んで引き寄せた。
 腰に素早く腕が回される。
「クスクス……こんなところで?」
 笑いながら、だが一向に抵抗しないピロシキもなすがままに目を閉じる。
 微かに唇を重ね、離し、再び深く口づける2人。
 そのときのリックと言えば―――
(あ、あの2人って……そういう関係だったのか!?)
 パニックでおたつくばかりだ。
 延々と唇を味わい合っていた2人がようやく身体を離したとき、その気配に気づくのはなんともたやすいことだった。
「見られちまったな」
 そんなリックを発見し、困ったようにピロシキが頭をかいた。
「そのようだな」
 その横でパードレは不機嫌そうに口をへの字に曲げている。
 彼としては本当に不本意だったのだろう。
「おい、リック」
 身体をかがめ、ピロシキはいまだパニック状態のリックを見下ろした。
「は、はい!」
 ビクッと我に返ったリックが怖い者でも見るような目つきで目の前の2人を見上げる。
 そんなリックに向かって唇にスッと指を立ててウィンクをするピロシキ。
 思わずリックの背中に悪寒が走った。
「今見たこと、誰にも言うなよ」
 うんうん、と無言で頷くリックだ。ここで反抗したらどんな目に会うか、わかったものでない。
 頷いたリックを認め2人は、じゃあな、と言ってその場をそそくさと去る。
 あとに残ったのはいまだに呆然と床にしゃがんだリックのみ。
 そんな彼の背後に、長身の影が現れたことを、果たしてリックは気づいていたのか―――。

「バカ、お前が無理矢理するから………」
「抵抗しなかったのはどこのどいつだ」
「させてくんなかったのはテメーじゃねーか」
 呆然とへたりこんだリックを置いて、パードレ&ピロシキはそそくさと足早にその場を去る。
 しかし微かに聞こえた話し声に、リックは更に動揺するのだった。
(あいつら……だってそんな素振りちっとも………)
 もうなにが真実なのか、わからない。
 目の前で見たことは本当に現実だったのか。
「言うなって……んなこと、言えるわけねーじゃん………」
 呟いて、膝に頭を埋める。
「どうした」
 頭上から突然かけられた声に、リックは恨めしそうに顔を上げた。
 誰か、なんて確かめるまでもない。あまりにも聞き慣れたソレに力無く、
「おまえ……バカ、おせーよ………」
 悪態をつく気力もなく、再び頭を膝に埋める。
 相方の珍しい消沈ぶりに、ロードは怪訝そうに顔を傾げ、
「顔が赤いぞ。熱でもあるのか」
 なんの前触れもなく額にさわってきた。
 これにはリックも驚き、おかげでますます顔を赤くする羽目になった。
「ばっ……違うって!」
 その手を乱暴に振り払い、すっくと立ち上がる。
 照れ隠しなのは耳まで赤い様子で一目瞭然。
「だが………」
 それが楽しくて、ついついからかい気味に再び額に手を当てようとするロードを巧みにかわし、
「大丈夫だっつってんだろ!いいから早く行こーぜ」
 さっさと前を歩き出す。
 かわされた自分の手のひらをじっと見つめ、ロードはつんのめりそうなリックの歩調に微かにほくそ笑んだ。
「なっ……にすんだよ!」
 だからつい、意地悪心が頭を出して。
 背後からいきなり彼の腕を掴んで、勢いのままに身体を壁に押しつけた。
「離せ……んっ」
 そのまま問答無用で口づける。
 息苦しそうなリックが本当にいじめがいがあって、内心楽しくてたまらない。
 いつまでも味わいたい唇を、だが酸欠になりそうな相手を心配して名残惜しく離す。
「おまっ………」
 赤面しつつもつかみかかってくるリックを未だに壁に押さえつけ、
「平熱だな」
 淡々と答えた。
 その濡れた唇に、リックはついゾクゾクしてしまって、
「最初から……そう言ってんだろ、バカ………」
 毒気を抜かれた声で、俯きながら言ったのだった。

一方、廊下の角でそれを静観していたパードレとピロシキは………
「いいよなぁ、青春って」
「俺達には無理だな」
「誰かさん、エロエロだからね〜♪」
「失礼な」
相変わらずのラブラブぶりを発揮していたのだった☆


某パー&ピロ限定BBSにて書いたショートの第1弾だったんですが(^-^;
たしか連載第1回目が終わった頃のやつだと思います……でもそのときからもうカップリングは決定してたんだね(爆)
とはいえ、甘甘なので自分的には結構好ましいショートじゃないかと(笑)
誘うピロ・誘われるパードレ・強引なロード・照れ屋なリック……いいなぁ(=w=)←撲殺
とはいえ、まずは皆さんが喜んでくれれば幸いですm(_ _)m

 

 

 

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