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女としての自尊心』 Written by Takumi


 静まり返った部屋で、一人鏡台の前に腰を下ろす。
 やや埃をかぶったそれを人差し指で撫で、閉じて久しい窓式のミラーに手を掛けた。
キィ…―――
 独特なきしみはその昔何度も聞いた、懐かしい音。
 面と向かい合う、自分の顔に苦笑が漏れる。
「あなたも歳を取ったものね」
 鏡の中の自分にそう話しかけた。
 いくら若作りをしようと、やはり無理が伺える部分がある。目尻の皺、顎のたるみ。
 この身体を保つために莫大な財を投資したというのに、結局は老いには勝てなかった。
 たしかに同年代の中では若く見える方だという自覚はある。
 だが、それでもやはり真の若者には到底敵わないのだ。そんなこと、自分が一番良く知っていたはずなのに。
「こんな歳になって、まだ少女気分が捨てられないの?」
 自嘲気味な笑みを浮かべると、そっと鏡に映った自分の頬を撫でた。
 いつから、自分はこんな愚かな女になってしまったのだろうか。
 夢見がちな時代はとうの昔に捨て去ったというのに。
 あの男を前にした途端、そんな捨てきったと信じていたものが実は心の奥底で静かに息づいていたという事実を知った。
 あの男――突如目の前に現れた、夢にまで見た王子さま。
 それは優しげな微笑みこそ浮かべてはいないが、その唇は自分が最もほしい言葉を紡ぐ。その瞳は自分だけを見つめる。忘れかけていた自信を思い出させてくれる。
 ずっと求めていた、本当は。
 この自分がこんなところで終わるはずがない。きっと、そのうち誰かが迎えに来てくれるのだと。
 潜在意識を引き出してくれる、私だけの子猫ちゃん。
 あなたがいるならそれでいい。それだけで、自分は本来の自分を取り戻せるから。
「ナオミ」
 子猫の鳴き声がドア付近からする。
 振り返れば、今まさにその姿を思い描いていた彼が私を見つめていた。
 心の奥底まで見透かすような、青い蒼い瞳。薔薇色の形良い唇が、抑揚のない言葉を紡ぐ。
「どうした」
「なんでもないわ。それよりどうしたの?お腹がすいた?」
 振り返り、笑みを浮かべる。
 後ろ手に、鏡を閉じた。
 もし今の自分に、ほんの少しでもプライドが残っているのなら。彼にこれ以上弱みを見せるのだけはイヤだった。
 猫は空気に敏感だから。
 ご主人様が弱気だとわかったら、きっと逃げていってしまう。自分より、もっと良い飼い主を求めてしまう。そんなことは、耐えられない。 自分以外の女性の横でくつろぐ子猫など、見たくなかった。
 だから彼の前では精一杯の虚勢を張る。余裕に満ちた笑みを浮かべる。
 女としての自尊心。
 それは酷くやっかいなもので、それでいて、自分が自分であることを保つ唯一の要素だということを、私は知っているから。
 スッと彼に手を伸ばす。
「キスを」
 傲慢にも思える態度で求めた。すぐさま手の甲に柔らかな、彼の唇が降りる。それを認め、ふわりと笑みを浮かべた。
「そう。それでいいの」
 飼い主として絶対の余裕を、今日も私はその身に纏うのだった。


頑張れ、ナオミ!!(笑)
しかし彼女をネタに使うなんてたぶん今回限りだろうな〜。
某所みたいにあからさまなマックス&ナオミのラブラブは無理だったが(笑)俺にはこれが限界だったよ……
ところで、世間はバレンタインそうですが皆さんはなにか計画がありますか?
本命チョコが送れる歳は、まるで青春時代のように短い……って感覚がなぜか俺の中にここ数年根づいているのだが(爆)
チョコをあげる人、受け取る人、あまり関係ない人。
なにはともあれ、精一杯頑張って下さいm(_ _)m

 

 


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