『祝杯』 Written by Takumi
嫌いなら嫌いと言えばいいのに。
そう言わないのは彼の優しさか。それとも、既に見捨てられているのか。
彼の小さな素振り一つに過敏になっている自分がいる。
どう思ってる…?俺のこと……。
聞きたくて聞けない言葉を何度も喉奥で押し殺した。
ロード、ロード……
だから何度も名前を呼ぶ。
そのたびに彼が振り返るのが嬉しくて。安心できて。
まだ俺のことが好きなんだと言われてるみたいで。振り返る姿を瞼の裏に刻み込んでおきたくて。
ロード、ロード……
だから。
頼むから、嫌いにならないで。
「なんでそうなるんだよ!」
バンッとテーブルを叩いたリックに一瞬基地のバーがシン…と静まった。だがすぐさま何事もなかったかのように元の喧噪に包まれる。
触らぬ神に…という言葉を彼らなりに理解しているのだろう。
だがリックの目の前、たった今怒鳴られた当人もそれを実行しているのはいささか問題だった。
「俺、昨日一緒に行くって言っただろ!」
再び大声を上げるリックは、だが目の前で悠然とワインを口に運ぶロードにたまらずその瓶を奪い取る。
「………おい」
「人の話を聞けっ!」
非難めいた視線を投げかけるロード。
悪いのはお前だろ、と再び怒鳴りそうになるのをグッと堪え、手にしたワインを一気に飲み干した。
「俺、お前の家に行くって言ったよな」
怒りで酔いの回りが早いのか、既にとろんとした視線を目の前の相手に投げる様子はひどく気怠げ。
普段のリックからは想像もつかないような色気にロードが微かに目を見開いた。
「どうなんだよ……」
長かった戦争が終わり、ロードの母親から直々に手紙をもらったのがちょうど一昨日。
家に遊びにいらして下さいという旨を書き連ねた文章に、リックが喜ばないわけがない。なんせロードの実家には愛しのシャーロットがいる。少し怖いが幼なじみのレイチェルも。
そして何より、ロードの生まれ育った家というものにひどく興味があった。
手紙を受け取ってすぐにロードの自室にこのことを告げに行ったのに。絶対行くからな、と息巻いてたのは記憶と呼ぶにはあまりに新しい。
だがいざ出発前日になって突然ロードが予想もつかないことを言い出した。
「なんでお前が1人で帰るんだよ」
拗ねたような、それでいて不安を隠しきれない表情でロードを見上げてくる。
本人には全く自覚がないが、リックは本来絡み酒だ。
酔うとこれほど面倒な相手もいない。
「俺のこと…嫌いになったとか……」
じわり、と目前に迫った瞳が涙ぐむ。
それをじっと見つめるロードが視線を外し、大きくため息をついた。
その仕草にリックがビクッ…と過剰なまでに反応する。わなないた唇が微かに「嫌いにならないで」とかたどる。
だが不意に伸びてきた腕に頭を抱えられ、驚きに目を見開いた。
見た目同様暖かなセーターがふわっと頬に押し当てられる。
「な…なに……?」
予想外の出来事にすっかり酔いのさめたリックが戸惑うようにロードを見上げる。
かち合った漆黒の瞳が一瞬すがめられ、すぐさま視線が外された。
「まだ両親に紹介するには早すぎるだろ」
早口での告白。
それに……と続く言葉は聞いてるリックですら赤面する代物だった。
「兄貴にお前を見せるのは惜しいからな」
「そ…それって……」
酔いからではない赤面でロードを見つめたリックの鼻がキュッと摘まれる。
「だから今回はお預けだ」
わかったな、とようやく瞳が交じり合う。
うん、と答えればご褒美だとばかりに触れるだけのキスが頬に。
物足りないと思ってしまう自分に更に赤面したリックだが、そっと耳元で囁かれた言葉に完熟トマト並みに赤くなった。
そして互いにしばらく見つめ合い、やがて肩を並べてバーをあとにする。
バーは相変わらずの喧噪に包まれつつも、だが連中はしっかりとこのやり取りを見守っていた。そして誰彼ともなくため息を吐く。
『触らぬ神に祟りなし』ではなく、『痴話喧嘩は犬も食わない』という言葉を彼らなりに理解していたのだろう。
良き同僚の影ながらの気遣いを、だが知らずに更けていく夜を2人はいかにして過ごすのか。
そこまで邪推するほど、彼らは無遠慮ではなかった。
再びバーで乾杯の音頭があがる。
それはさながら、恋人達を賛辞する祝杯のようであった。
…………洒落です(-_-;)
18000hitに息詰まったところで、普段から「女のような男が主人公ならホモ小説の意味がない!」と豪語していた自分を思いだし、それならこの際「女のようなリックを書いてしまえ」となり、このようなことに……。
そしてリックが女化したことで、ロードの当然そこら辺にいる優男に成り下がってしまいました。
2人揃ってバカップル……(爆)
結局何が言いたい作品なんだろう。単なるストレス発散か?(^-^;
こんなことをしてる間にやらなきゃいけないことは山のようにあるのにねぇ。
とはいえ、少しでも楽しんでもらえれば幸い。
なにをどう楽しむかは個人の勝手として(笑)
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