『理想の女性』 Written by Takumi


 出撃前の緊張をはらんだ時間帯。
 機体の最終チェックをする整備士、心配げに空を見上げる飛行機乗り達。
 それぞれが自分のことに精一杯のそのときに、余裕をかましている4人がいた。
 多くの機体が並ぶその横で、どこから持ってきたのか小汚いテーブルを囲んでの親睦会。
「ところでさ、お前達どんな女が好みなんだ?」
 自分の機体は既に整備が終わったのか、相変わらずウォッカ片手にピロシキが残りの3人を見回して言った。
 そんな彼を呆れたように見つめ、パードレが首からクロスを引っぱり出すと、
「こんなときにする話じゃないな」
 アーメン、と十字を切って黙祷を始めた。
 だがピロシキは気にする様子も見せずケラケラと笑うと再びウォッカをあおる。
「そうか?でもやっぱどんな時代も女は偉大だからな〜」
「………………」
「もしかしてパードレ、好みの女はマリア様?」
 言った途端、ブッと笑い転げるピロシキだ。
 失礼極まりないが、ここで怒らないパードレの心の広さも並みではない。
 いつまでも笑いを止めない彼に耐えかねたのか、瞼を上げピロシキを見つめると仕方なさそうに言葉を続けた。
「好きなタイプは家庭的なタイプだ。あと信仰心の厚い人なら尚いい」
「へ〜〜、家庭的なタイプね〜」
 にやにやと嫌らしげな笑みを浮かべるピロシキは、次いで隣に座ったリックに矛先を向ける。
「で、カウボーイはどんな女がタイプ?」
「なんでそんなことお前に言わなくちゃいけねーんだよ」
 フライト前の緊張感というわけではなく、単にピロシキにあまりいい想いを抱いてないリックは不機嫌そうに言った。
 おやおや、と大げさにピロシキが肩をすくめてみせる。
「悪かったよ、お前がまだそんな色恋沙汰に縁がないってわかんなくってさ」
「なんだと!」
 ガタッとイスから立ち上がり、隣のピロシキの襟首を掴むリック。
 現在彼の短気さは基地一と謳われている。
「俺だって女の1人や2人……ッ」
「へぇ。じゃあどんなのがタイプ?」
「そ、そうだな………」
 後悔してももう遅い。
 なにせ物心ついた頃からレイチェルしか目に入ってなかったのだ。
 どんな女性がタイプ、というより「好きな女性はレイチェル」という法則が刷り込まれている。おまけになぜか身近にいた女性はどれもこれも気の強いタイプで、女とはそういうものだと小学校に入る頃まで思いこんでいたのだ。
 さすがに今は女性にも様々なタイプがいるのだという事実も知ったが。
 だからといってどれが好きかとなると話は別だ。
 どんなタイプがあろうと、実際に会ったことはないのだ。そうなるとどれが自分に合うタイプなのかもわからない。所詮は想像の世界だ。
 とはいえ、ここできっぱり言わなければ男が廃る。
 リックは知識として認識されている女性のタイプを一つ一つ思い出しながら言葉を探した。
「まずは……そう、優しい子がいいな。髪の毛も金髪でちょっと巻き毛っぽくってさ」
「ふんふん、それで?」
「あとは、えっと……笑顔が可愛くて、バラ色の頬で笑うと可愛いタイプかな。それで……」
「誰のことだ」
 てへ、と自分の発言に照れていたリックを、だがロードの堅い口調が遮る。
 そんなロードの反応にピロシキは、おや、とばかりに目を微かに細める。この手の話題に彼が入ってくるとは予想外だった。とはいえ、親睦が深まるのを阻止する理由もないのであえて傍観を決め込む。
 だが言われたリックは最後まで言えなかったことの不満からか、見るからに不機嫌な様子でロードに食ってかかった。
「なにがだよ」
「だからそれは誰のことだと聞いてるんだ」
「誰だっていいだろ!なんでお前にわざわざそんなこと言わないといけねーんだよ!」
「妹はダメだぞ」
「…………は?」
 だがロードの口から出た言葉に、リックは思わず目を見開く。
 次に、なに言ってんだ、と笑い飛ばそうとした。だがよくよく今の自分の発言を思い返してみると、たしかに自分の理想像は以前見たロードの写真に写っていた彼女、シャルロットその人だったのだ。
「いや、あのそういうわけじゃ……」
 さすがにばつが悪く、珍しく口ごもるリックだ。
 そんな2人をピロシキはにやにや面で見守り、珍しくパードレまでもが興味深げに眼差しを送る。
 それを知ってか知らずか、ロードは更に言葉を続ける。眉間にはしっかりと縦皺が刻まれていた。
「妹は俺が認めた相手としか交際させん。お前なんか以ての外だ」
「なんだと!なに妹の恋人まで管理してんだよ、このシスコン!」
「バカを言うな。ただ単に妹にお前みたいな脳味噌空っぽな男がくっつかないようにしてるだけだ」
「じゃ、じゃあお前の好みの女って誰なんだよ!」
「ピカチュウだ」
「は……?え、いや…それはちょっと時代の差が…っていうか、あいつって性別不詳だし……」
「愛は全ての障害を越える」
「うん、まぁそりゃそうなんだけど……あ、あいつ、黄色じゃん?」
「黄色は好きだ」
「そ、そういう問題でもなくてな……お、おいピロシキ!」
 助けてくれ、と言わんばかりの視線にピロシキはやれやれといった風に肩をすくめてみせる。
「別にいいんじゃないの?愛があればなんだって」
 な、パードレ、と意味ありげなウィンクを隣の司祭に投げカカカカと愉快そうに笑う。
 出撃前。空気は張りつめ誰の顔にも緊張の色が見えるのに。
 緊張の欠片も見せない4人が女の好みについて語り合う。
 いつの世代も、女性は偉大で男の目を楽しませてくれる。
 そしていつの時代も、その中で風変わりなタイプを持つ者がいるというものだ。
 初めて聞いたロードの理想のタイプ。
 好きな色は黄色。おそらく分類は動物。人語を話さない。
 リックは自分の愛機のマーキングを、出撃前にそっと撫でたのだった。


なぜか俺のこの手の話にはピカチュウが良く出てくる(爆)
ポケモン、全く知らないのに……(笑)
とはいえ、最後までピカチュウとドラミちゃん、どっちにしようか迷ったよ……(爆)←迷うな
結局人語が話せて礼儀にうるさいドラミちゃんの方がよりロードと親しくなって見てて腹立つだろうと思ったので、「ピカチュウ」しか喋れない無害な方を選びました(笑)
しかしパードレは結局結婚してるのかね……(遠い目)
んじゃ、楽しんでいただければ幸い☆

 

 

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