『夢の住人』 Written by Takumi
眠れない夜が続く。
暗闇の中、ベッドに腰掛けぼんやりと壁を見つめたまま朝が来る日が続いた。
夢で逢えたら。
そんな甘い期待がいつも胸をよぎる。だが実際、彼を目の前にして自分はなにを言うつもりなんだ。
「帰ってきてくれ」とは言えない。
自分の弱さを、彼に見せるのだけは避けたかった。
だが夢の中で不意に口走ってしまいそうな自分がいて。それが怖くて、こうしてただひたすら夜明けを待つ夜が続いている。
逢いたいのに逢えない。
心の矛盾は日に日に俺を苦しめていく。身体が限界に近づいているのを感じる。
瞼が重い。身体の節々がきしんだ。
「寝るな……ッ!」
自分に叱咤する。
だが一度訪れた眠気はなかなか去る様子を見せず、それどころか貪欲に俺を連れ去ろうと躍起になっているようだった。
ふと目を覚ました。頭がクラクラする。
「……寝て、たのか………」
ふらつく頭を無理矢理揺すり、顔を上げた瞬間全ての感覚が停止した。
声を出そうと思うのに、渇いた喉はただ空しく空気を流すだけ。だが必死に絞り上げた声で、目の前の青年の名を呼んだ。
「シ…オン…………」
すらりと華奢な褐色の肢体。艶やかな漆黒の髪。
生前となんら変わりない弟の様子に、不覚にも涙があふれた。
「シオン……俺は…………」
嗚咽の混じりそうな声を必死に抑え、現れたシオンに手を伸ばす。
だがそれをスルリと避けたシオンがニコリと笑みを浮かべた。
紛れもない、脳裏に刻み込まれた彼の微笑に、堪えていた嗚咽が漏れる。
「俺はどうしたらいい?俺は……お前がいなければ……なにも、できないんだ……」
彼の死後からずっと、心の底に溜めていた想いを口にする。
自分の弱さを、さらけ出した。
そんな俺を振り返り、更に笑みを濃くしたシオンがその形良い唇をゆっくりと開いた。
一言も聞き漏らすまいと、神経を集中させていた俺の耳に聞き慣れた心地よい澄んだ声が届く。
「いい日かに玉……」
「………………」
一瞬我が耳を疑った。思わず聞き返そうと顔を上げるが、時既に遅し。
「あははははは……」
軽やかに笑い、リズミカルなステップと共に去っていくシオンが既に遠目に見えた。
「お、おい!待て!!」
慌ててその背中を追う。
「かに玉ってなんだ!俺にそれを食えと言うのか!?それとも、お前が今食べたいのか!?答えてくれ、シオーーンッ!!」
空を空しく切る腕に、自らの無力さを思い知る。
こだまする声に、悲痛の色がにじんでいるのを知る。
ふと、目が覚めた。
「夢、か……」
いつの間にかベッドに横になっていた自分に、安堵の息をつく。
汗でびっしょりと濡れた額に手を当て、苦笑を浮かべるがすぐさまその顔が苦痛で歪んだ。
「だから……寝るのはいやだったんだ……ッ!」
拳をベッドに打ち付ける。
俺はまた当分、眠れない夜を過ごすのだろう―――。
さぁ、果たして何人が騙されてくれたでしょうか!?(笑)
前回に引き続きシリアスだと思い「しつこいぞ、タクミ」とか思った人も最後の展開は予想できなかったでしょう(笑)
シオン、まるっきり天国で幸せそうです(爆笑)
死んで良かったね、と思わず言いそうになります(笑)
そして頭の中にはなぜかくっきりと、軽やかにステップしながら去るシオンの後ろ姿が……。
兄上には強く生きて欲しいものです(笑)
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