記念企画−サルベーン編−

舞台は再び保健室。
やはり使える設定はどこまでも使っておかなければ。
おまけに相手がサルベーンならば相手に不足なし。

 


『健康診断』

 何も言わずに薬棚の整理を始めたサルベーンに、掛ける言葉もなく所在なさげにドミトリアスはベッドを降りた。
 備え付けのイスに座り、そんな彼の後ろ姿を眺める。
 アルゼウスはあれからすぐに教室に帰ったが、今日はこれから彼の教室で授業があるのでますます気分は落ち込む一方だ。
 小さくため息をつけば、どうしたんですか、と柔らかな声がした。
 見れば薬棚の整理が終わったのか、すぐ側まで近づいたサルベーンの柔和な笑顔が目の前。
 完璧な美貌として学校の内外で不動の人気を保持している保健医だ。
 褐色の肌に黄金色の瞳。
 浮いた話はないが、その割に毎月何人かの生徒が「俺じゃない…あいつが誘ったんだッ!」と相談室に駆け込むという噂がある。
 どこまでが真相かはわからないが、やたらと謎めいた教師であることに違いはない。
 その彼が人好きのしそうな笑顔を浮かべ話しかけてくる。
 それはひどく緊張するもので、しばしば保健室に通い詰めているドミトリアスですら時折薄ら寒さを感じずにはいられなかった。
「あ…いえ、胃薬をもらおうかと……」
「先生、こんなことは言いたくありませんけど、飲みすぎは体に良くないですよ」
 副作用の問題もありますからね、と言葉を続けているうちに自然彼の手がドミトリアスの肩に触れる。
 それに気付きながらも、いちいち指摘するのもなんだしな、とばかりに無視して言葉を続けるドミトリアスに、学習能力というものはない。
「わかってるんですけど…これがなかなか……」
「先生はお優しいから」
 クスッと近くで形良い唇が綺麗に弧を描いた。
「ご自分が生徒からなんと呼ばれているか、ご存じですか?」
「さぁ……どうせ地図オタクとか、そんなところでしょう」
 おかしそうに話しかけてくるサルベーンに、肩をすくめてそんなことを言えば違うとばかりに顔を振られた。
「禁欲教師……そのきっちり結ばれたネクタイをほどきたがる生徒は五万といますよ」
「な…んですか、それは」
「ですから先生の……」
 言いかけて、プッと吹き出すサルベーン。
 その顔が意外と幼いことに気付いて、ドミトリアスは目を瞠った。
「そういえば、その鈍感さも先生の魅力でしたね」
「俺は別に……」
「だからその隙をついて、さっきみたいに生徒に押し倒される」
 言いかけた唇を、伸びてきた褐色の指先に押し止められた。
 ドキッとしたのは一瞬。
 相手に悟られまいと、すぐさま笑みを浮かべたが失敗した。ガチガチに固まった表情でサルベーンを見上げる結果となり、すぐさま苦笑した彼と目が合う。
「ほら……そんな顔するから…」
 顔が近づいた。キスされる……!本能的に察し、ギュッと目をつむれば思った感触は訪れず、その代わり……
「うっ…わ…な、なにしてるんですかっ!」
「さっきからずっとこの状態で…辛いでしょう?」
 こちらがわざと時間をあげたのに、とおかしがる彼は、その実ドミトリアスの下半身のその部分ををがっちりと手中に収めていた。
「な、なに…時間って……?」
「彼がいなくなってからずっとこの状態だったから、これでも一応気を使ったんですよ」
 笑いながら、早くも掌をゆっくりと上下に動かし始める。
 つまり、彼は先ほど薬棚の整理はドミトリアスに自慰をさせるための時間を与えた、ということなのだろう。
 だが目の前で他人のいる状態で自慰のできる人間がいたらお目に掛かりたいものである。
 このように、彼は往々にして世間の常識とは微妙にずれている節があった。
 だが至って生活には支障がないため、あまり気付かれることはない。それだけに、指摘する機会がないのでますます悪循環だという説もあるが。
 とはいえ、いきなり保健医に握られしごかれ始めたドミトリアスはというと、
「…あっ……つ…」
 先ほど中途半端に終わった愛撫により、いとも容易く反応を返してしまっていた。
 こればかりは仕方がない。男の性だ。
 その様子に勇気づけられたのか、着衣の上から触っていた手が本格的にジッパーに伸びてくる。ゆっくりと下ろし、手を差し入れたところで握り込んだ塊は、案の定はち切れそうな勢いで飛び出してきた。
「あれ…意外と……」
「なに…ぃ…ぁ……」
「いえ、なんでも…集中して下さい」
 苦しげに眉根を寄せ、だが既に抵抗することを諦めたドミトリアスが最終的に果てたのは、それから数分もしないうち。
「………ぁっ…つッ!」
 身体をサルベーンに寄りかからせ、一瞬身体を強張らせたあとゆっくりと弛緩させる。
 呆けたような目が、だがじわじわと覚醒するに従って怒気を含むものになってくるのを見逃すサルベーンではない。
「あ、あんたって人は……」
「おっと……」
「なに考えて…くそ……ッ!」
 握った拳を振り上げたところで素早く後退したサルベーンが、おかしそうに笑いながら肩をすくめて見せた。
「どうして?気持ちよかったでしょう?」
「そっ…そういう問題じゃ……!」
 真っ赤になったドミトリアスに、更にサルベーンの笑みが濃くなる。
 意地悪そうなその表情に一瞬ドミトリアスがひるんだ隙に、これみよがしに掌で受け止めた彼の精液を舐めて見せた。
「なっ……!」
「不摂生、してませんか?一人暮らしだからってあまり出来合いの物ばかり食べてちゃダメですよ」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 言葉が出ないとはこういうことを言うのだろう。
 これ以上ないというほど顔を赤くしたドミトリアスが、口をパクパクさせながらサルベーンを指さす。
 それに対してヒラヒラと手を振ると、
「あまりストレスは溜めないことですね」
 スルリとドアから出ていった。すり抜けざまにヒョイッと投げつけられたのは、小さな小瓶。胃薬だった。
「……こ、こんなことで誤魔化されると…思うな……!」
 だが大人しくそれを受け取り、すぐさま一錠を飲み込んだ男に文句を言う権利はない。
 かくして、ドミトリアスは着乱れた着衣もそのままに、しばらく己の未熟さに歯噛みしたのだった。


 

出したのなら舐めるまでの処理は当然。
それはホモ小説にとってなくてはならない展開で。
しかし保健医というと、やはり特筆すべきは白衣と様々な小道具。
どこまでも魅惑に溢れたキャラである。
しかし『サル』なだけに、これらの行為も全て領土争い、マーキングの一種だとも考えられる。

 

次なる場所は……


1Lの教室 早退