記念企画−カリエ編−

舞台は校内のとある廊下。
数多くの人との出会いを演じるこの場で、今日も誰が運命の出会いを果たすのか。
しかしこの背景でまともにこの文字が読めるのか、疑問な所だ。

 


『創作意欲』

「あ、先生!ドミトリアス先生!」
 やっと問題児揃いの授業を終え、コキコキと凝った肩をほぐしていたところで背後から声を掛けられた。
 何事、と思い立ち止まれば小走りで近づいてきた相手が目の前で大きく息を付く。
 小柄な身体。溢れるような生気に自然とこちらまで笑みが浮かぶ。
「どうした」
 カリエ、と呼ばれた少女が照れたように乱れた前髪を直しつつ、目の前に封筒を差し出す。
「これ、今さっき教頭先生がドミトリアス先生にって」
 学校唯一の若い女性、カリエ・フィーダは事務員だ。
 女っ気のない学校で、彼女の存在はなかなか貴重だが彼女自身のキャラクターからか、恋愛対象としてではなく主に『妹』という感じで全校生徒から愛されている。
 昼休みや家庭科実習のあとには、彼女の机の上にお菓子やらココアが山ほど差し入れされるのは有名な話だ。
 当然ドミトリアスも彼女とは恋愛感情抜きで親しい。
 おまけになぜか不思議と義弟アルゼウスに似ている彼女は他人とは思えず、ついつい教師という範囲以上で相手をしているのも事実で。
 今のように彼女もよくドミトリアスに懐いていた。
「ありがとう。わざわざ悪かったな」
「ううん、全然」
 カリエは可愛かったが、封筒の主の名前を聞いて思わず顔が曇る。教頭と言うと、ミューカレウスの祖父だ。もしかしてまたなにか小さな事で虐められるのだろうか、とこれまでの経験からロクなことが思い浮かばない。
 無意識に出たため息に、怪訝そうな顔をしたカリエが首を傾げた。
「どうかしました?」
「いや、大丈夫。大したことないよ」
 ちょっと頭が痛かっただけ、と嘘を付いて少しでも彼女の気を逸らせる。
 だがカリエの目が一瞬鋭く光ったかと思うと、ビシッとドミトリアスの首もとを指さして一言。
「それ、キスマークですよね?」
「な、…に?」
「ほら、そこ。首のところ。赤くなってますよ」
 言われて反射的にそこを押さえた。
 さすがに今日は思い当たるところがありすぎて、気がついたときにはそんな自分が掘った墓穴に激しく後悔したが今更取り繕ってももう遅い。
「これは…えっと、その…蚊が、な」
「まだ春先ですよ?」
「部屋が暖かいからだろ。耳元で鳴って毎晩うるさいんだ」
 それでもなんとか苦しい言い訳をして、わざとらしいまでに慌てて腕時計をのぞき込んだ。
「あっと…悪いが用事があるんだ。封筒ありがとう、じゃあ」
 長居は無用と、その場を早足で去る。
 あとに残ったカリエはと言うと、にやりと笑みを浮かべ胸ポケットから小さな機械を取り出した。携帯だ。
 その並んだボタンをいくつか押して、しばらく待ったあとにマシンガンの如く喋り出す。
「あ、もしもし。ナイヤ?私、カリエ。ちょっと、今すっごいもの見ちゃってさー!なんだと思う?……馬鹿、そうじゃないわよ。なんと、ドミトリアス先生がキスマークつけてて!…やっぱり?そうよね、そう思うのが普通よね!私も絶対あの顔は受けだと思って……え、なに?部数?増やすに決まってるでしょ!あんなの見たら今夜にでもまた30ページは書けるわよ!」
 拳を握り、声を潜めつつもその内容は熱い。
 ジャンルは高校教師。カップリングはドミトリアス総受け。
 表では可愛い事務員を演じ、裏ではそんな彼らの生活を逐一観察しては同人誌として出版している。それがカリエ・フィーダの本当の顔だった。
 妹のように思っていた彼女が、まさか自分をネタにそんなことをしていたとは、ドミトリアス自身思いもしない。
 いや、知らない方が良いだろう。
 そしてなお、カリエの電話は興奮冷めやらずという様子でそれから一時間みっちり、相棒のナイヤと今後の部数と突発本について熱く語っていたのだった。


 

 

人間誰でも二面性というモノを持っている。
カリエの場合、それがたまたま同人活動だったわけで……。
とはいえ、彼女たちの作った本はぜひ見てみたい。
部数は少なくとも、それはそれは濃いファンがついていると思うのだが。
ちなみに最大手ジャンルはコル×バルであってほしい。

 

次なる場所は……


中庭 早退