『赤い扉』−信号色では危険の赤、実際危険な展開が貴方を迎える−
電飾に飾られた扉を開けると、そこはずらりと並んだイスと大きなスクリーン。
つまりは映画館だった。
「あのオヤジ、また無駄なもん作りやがって」
言いながら、その実自分も悪い気はしない。
映画は元々嫌いではないし、暇つぶしには最適だったから。
「なんかしてくんないかな〜」
数あるイスの1つに腰掛け、そう呟いたときだった。
パッと館内の電気が一斉に消える。続いてジー…と聞こえるのはフィルムを回す音か。
「声に反応するのか……?」
構えていた身体をホッと緩ませる。
ここは科学の発達した火星だ。きっと何があっても地球での常識では考えられないことが沢山あろうんだろう。
そう自分を納得させて大人しくスクリーンに目をやる。
出てきたタイトルは……
「げっ……」
艶めかしいオープニングと同時に大きく『月が雲に隠れるときは』という文字が映される。
言うまでもない。
これは某T氏が途中まで書いて放り出した没原稿を、なぜか映画化したという曰く付きの作品その3なのだ。
「勘弁しろよな……」
やってられるか、と腰を浮かそうとしたそのとき。
ガシッ。
「うわっ……!」
見えない力に身体ごとイスに縛り付けられた。
「E−73か!?」
(この映画、見たかったの)
普段は同化していることすら感じさせないユーベルメンシュが珍しい自己主張を始める。
これでは逃げられない!つまりは映画を最後まで見ていけということか!?
「ふっざけんな〜〜!」
だが叫びは虚しく華やかなオープニングにかき消されていったのだった。