『攻撃編』−正体の分からない相手にも飛びかかる、その勇気を称えよう−
「誰だ!姿見せろよ!」
パッと背後を振り返り茂みに目をやれば、出てきた人間に俺はまたも目を丸くする羽目になった。
「キャッ…スル……」
「ラファエル!あんた、なにそんな格好でうろついてんのよ!」
なんと茂みから飛び出してきたのは夢にまで見たキャッスルその人だったのだ。
おまけに完全装備の戦闘態勢である。
泥に汚れた顔、湿気と汗に濡れた髪。
なにもかもが最悪の状態なのに、なぜかひどく綺麗に見える彼女に俺は早まる動悸を押さえた。
「なにって……キャッスルこそなんでここに………」
「寝ぼけてんじゃない!」
バシッと勢い良く頬をひっぱたかれた。あまりの痛さに涙が浮かぶ。でもこの痛さは本物で。そうすると目の前にいるこのキャッスルも……
「……ちょっ!なに考えてんのよ!」
「キャッスル!キャッスル!!」
会いたかった、とその首にかじりつき何度も頬にキスをする。
だが無情にもキャッスルはそんな俺をグイッと押しのけ、険を帯びた眼差しを向けてきた。
「ラファエル、あんた今がどんな時かわかってんの?」
「どんなって……?」
遠ざかったぬくもりを残念がると同時に、思い当たらないキャッスルの怒りに戸惑うように聞き返す。するとそのこめかみにピシッと血管が浮くのが見えた。
「訓練中だ!このバカッ!!」
「うげっ……!」
今度は容赦ない蹴りがみぞおちに決まる。
さすがキャッスル、しばらく見ない間も全く腕が鈍ってない。
変なところで感心する自分をほんの少し笑った。
やっぱり俺って、キャッスルが好きなんだな。
そんな些細なことに嬉しさがこみ上げる。忘れてたわけじゃないけど、やはり本人を前にして再確認すると、それまで1人で悶々と考えていたことが全て肯定されたみたいで。
「キャッスル」
「なによ」
まだ痛むお腹を抱えて名前を呼べば、返ってきたのは懐かしいほどに綺麗なキャッスルのきつい眼差し。
それを見て、口端をほころばせた。
「好きだよ」
「………………」
「すげー好きだからな」
「…………いいからさっさと訓練に戻れ!」
怒鳴り返したキャッスル。言い終わると同時に後ろを振り返り走り出すその後ろ姿。微かに赤い耳と頬。それらをめざとく見つけてはまたも顔をほころばずにはいられなかった。
「待てよ、キャッスル!」
急いでその後を追う。
だがぼんやりと周囲が形を崩していくのがすぐ。
「あ…れ、なんだよ……これ」
気がつけばあたりは真っ白。
先ほどまでの蒸し暑い熱気も匂いもなにひとつ残っていない。
「あ……」
再び現れた扉。
俺は仕方なく、そのノブに再び手を伸ばした。