『廊下』−再び舞い戻った安息の地。だが……−
突如差し込んできた明かりに反射的に目を閉じる。
数秒間そうした後に、うっすらと瞼を開ければそこは見慣れた先ほどの廊下で。
「………どうなってんだよ」
たまらず壁に寄りかかった。
振り返ってみれば案の定、扉なんてモノは存在せず相変わらず肖像画がずらりと並ぶばかりで。
服装だってどこも乱れてないし、汗だってかいてない。
だが夢にしては酷くリアルで、信じるには少し複雑な心境だ。
火星には地球とは比べモノにならないほど科学が進歩してるとは聞いていたが、これはさすがにやりすぎだろ。
「まぁ、あのオヤジならやりかねないけどな」
父親のにこやかな笑みを思い出し、くそっとばかりに壁に拳を打ち付けた。
ブゥ…ン………
奇妙な音が廊下に響く。なにか触ってしまったのかと慌てて拳の当たった辺りを見回したが特になにもない。
おっかしいな〜、と視線を先にやったところで表情が固まった。
またも、扉である。
なにやらすごく嫌な予感がするのだ。
しかも今回は周囲をこれでもかというほど電飾で飾られた趣味の悪い扉だ。それが今度は3つも並んでいる。ご丁寧に3色に塗り分けられているところがますます妖しい。選ぶ前に逃げ出したい気持ちの方が高まるのは仕方がないことだろう。
とはいえ、元来た道を振り返っても果てがないような長い長い廊下が広がるばかり。
だとしたら、この扉をくぐって運良く見知った場所に出られるかもしれない、そんな思いがするのだ。
幸と出るか不幸と出るか。
まずは運を天に任せよう!