『暴行編』−言ってわからないようなら暴力しかない!だがそれも愛ゆえ−


 パ…ン………!
「パードレ!」
 思わず声をあげていた。
 ピロシキの頬を容赦なく打った掌は綺麗な弧を描いて戻る。
 突然のことにピロシキもわけがわからないって顔でパードレを見返してた。
 俺はなんて言って良いのかわからなくて、ただ立ちつくす。ここで部外者が立ち入っては行けないような空気がヒシヒシと感じられたから。
「わかってるな」
「…………悪い……」
 だがパードレがそう言っただけでピロシキが申し訳なさそうに俯く。それまでの豪快さとは想像もつかないようなしおらしさだ。
「またか」
 だがそんな2人の様子に呆然としているところを、いつの間にそこにいたのか、漆黒の髪と瞳をした男の呆れ声でハッとする。
「ああいうことは自室でやれと言ってるんだ」
 明らかに不機嫌な声。
 なにやら2人の事情に精通してそうだが、とても理由を聞くような雰囲気ではない。
 だがそう思ったところで男と目があった。
 瞬間的に品定めをされるような視線に晒され、ムッとする。なにが言いたいんだよ、と怒鳴ろうと思ったところで先に口を開いたのは男の方だった。
「新人か」
「いや、俺はラファエルって……」
「名前はいい。初戦で生き残ったら聞いてやる」
 そう言い捨ててこちらの言い分も聞かないうちに立ち去ろうとする男を、俺はただ呆然と見送った。
 これまでも結構色んなタイプの人間を見てきたけど、ああいうタイプも初めてだ。
 とはいえ、そんな間も傍らではパードレとピロシキがなにやらいちゃついてて。
 整備士達はそんな光景を見慣れてるのか、2人を無視して作業を開始している。
「な、なんだったんだ……?」
 脈絡もない展開に首を傾げたところで周囲の様子がゆっくりと形を崩してきた。
 まるで氷が溶けるかのように、とろりと上から滴るように。
 だがそんな中、なにやら必死に叫ぶ声が聞こえる。
「俺の出番がぁぁ〜〜〜〜っ!」
 悲痛なまでの声は、だがすぐさま消え去り入れ替わりで扉が現れた。
 なにやら声の主が哀れなような気もするが。
 ひとまず俺は、目の前のノブに手を伸ばした。

 

選択の余地なし