『右の扉』−右を選んだ貴方、むせ返る熱気をご所望で?−
ドアを開けると、そこはジャングルだった。
ムッとした湿気を帯びた空気。むせかえるほどの濃い緑の匂い。
「なっ……なんだ、こりゃ!」
俺は思わず辺りを見回す。振り返って入ってきたばかりの扉を確認すれば、そんなものはどこにも存在しない。
「どうなってんだよ……あのクソジジイ!」
よくわからないが、ひとまず父親のせいにしてみた。
こんな変なモノを作るのはあいつしか思い当たらないから。
だが当たり散らす相手を決めたところで事態が変化するはずもなく、鬱蒼と茂った森は変わらずそびえ立つばかり。
「くそ、あっついな……」
したたり落ちる汗を袖口で拭い、襟元のボタンをいくつか外す。
想像もつかない展開に、なにをどうすればいいのかさっぱりわからない。
だがそんな中、微かに喜んでいる自分がいるのもたしかだった。
懐かしい熱気と匂い。初めてキャッスルやシドーに会ったのもこんなジャングル側にあるボルネオ基地だった。
いつの間にか遠い存在になっていたジャングル。
それを今再び身近に感じ、心が懐かしさに震える。あのときに帰れたら、とここ数日思っていた願いが叶ったようで。
だがそんな想いに身を馳せようとしたところで、背後でガサッと草木の揺れる音がした。
耳ざとい聴覚がそれを捕らえる。
聞こえるのは微かな息づかい。男とも女ともつかないそれは、だが明らかに人間のモノだ。
あのクソオヤジ、一体なにがしてーんだよ……!
心の中でそう毒づき、俺は身体を低くした。