『左の扉』−左を選んだ貴方、荒ぶる風と騒動をご所望で?−


 ぶわっ……!
 突如自分を襲った突風にたまらず身をちぢこませる。
 何事だ、とばかりに辺りを見回せばそこは見たこともない一面の野原で。
 突風の原因は目の前すれすれを一機の複葉機がかすっていったために起きたものだった。
「あっ…ぶねー!」
 目を見開いて通り過ぎた飛行機を見守れば、幾らか被弾した機体からは濛々と煙が昇っている。
 わらわらと散っていくのは整備員だろうか。
 だが機体を放る整備員なんて聞いたことがない。
 そう思ったところでよろよろと機体から1人の男が這い出てきた。最後の力を振り絞ってか、おぼつかない足取りで走り出したところで申し合わせたように機体が爆破した。
「またピロシキがやったぞ〜〜!」
「いい加減にしろよな〜〜!」
 三々五々に散っていった整備士達の中からそんな声が聞こえる。
 操縦士はピロシキという名前らしい。とはいえ、
「うひゃ〜、派手にやったもんだな〜」
 半ば感心したように呟いてみればすぐ側で声があがった。
「いつものことだ」
 声のした方に顔を向けると十字架を握ったヘイゼルの瞳の男がすぐ側で立っている。
 見るからに堅物そうな顔がなんとなくシドーに似ていて、誰1人知らないこの場所で不安な気持ちが少し安らぐのを感じた。
 表には全く感情を出さないのに、その内では様々なことを想う気持ちを持つ人間。
「あのさ……」
「うひゃ〜、参った参った。まさかレッドバロンが出てくるとは思わなくってな〜」
 言いかけたところを、ボロボロな男の脳天気な台詞に遮られた。
 服装からして、きっと先ほどの操縦士だろう。褐色の瞳を楽しそうに輝かせる様子にひどく親近感が湧いた。
「あれ、お前見たことない顔だな。新人か?」
「あ、いやそういうわけじゃ……」
「まぁいいや。で、名前は?俺はピロシキって呼ばれてんだけどさ」
 ベラベラと良く喋る男は、とてもたった今被弾した飛行機から這い出てきた人間とは思えないほど精力的だった。
 だが俺が言葉を発する前に、隣に立っていたシドー似の男が数歩ピロシキへと近づく。
「パードレ?」
 怪訝そうに首を傾げたピロシキから、この男がパードレという名前だということを知ったが。
 そのパードレが次にとった行動に、俺は思わず目を瞠った。

 

A:抱きしめた B:殴った