『君の名を呼ぶ』
同じ顔をした彼。
この想いを意識したのはいつからだろう。
はじめは、たた彼が笑うのが嬉しくて。次にはその笑顔を自分に向けていたくて。それから、彼の全てを自分のものにしてしまいたかった。
アロイス。
名前を呼ぶだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。
その身体を思い出すだけで、たまらない想いに駆られる。⇒切なさを強調
アロイス。アロイス。
どうか、お前がこの気持ちに気づきませんように。
目の前で寝息を立てて寝る少年。
そのあどけない寝顔に、つい笑みが浮かぶ。
双子の兄弟。瓜二つと評される顔立ちは、だが間違いなく彼の方が綺麗だった。⇒とことん受けに惚れていなくてはいけない
しばらくその寝顔を見つめる。
長い睫毛。スッと通った鼻梁。そして……
「ん……」
微かに身じろいだ彼がソファーの上で寝返りを打つ。
掛けていた毛布がその拍子にずり落ちた。そんな様子さえも、彼らしくて微笑ましいとしか思えない。
世間でいう惚れた弱みとはこういうことだろうか、と一人笑みを濃くした。
「アロイス」
だがいつまでもそのままにしていては風邪をひく。そう思い、読みかけの本をサイドテーブルに置き、彼を起こして寝室へ促そうとその肩を軽く叩いた。
「アロイス、起きろよ。風邪ひくぞ」
「……んぅ………」
邪魔をするなと身体をよじる彼。
微笑ましい光景。いつもと何ら変わりない、日常風景。
だがそれも、緩く開かれた彼の唇を目にした途端、なんとも卑猥な光景へとすり替わった。⇒攻めの邪・末期ぶりを強調
同じ顔。同じ声。
血を同じにした双子という繋がりに不満を持ち始めたのはいつからか。
結局は兄弟という目でしか自分を見ない彼に、苛立ちと安堵を感じるようになったのは。⇒積年の想いを告白
「………………」
まるで誘っているかのように、開かれた唇の合間から赤い舌が見え隠れする。⇒残酷なまでの無意識な誘い
それに対して生唾を飲んだのは本当に無意識だった。
「アロイス」
名前を呼ぶ。なぜか少し掠れている自分の声に違和感を覚えた。
だが今はそんなことよりも、目の前の唇から目が離せられない。触れたい、と思ったのは自分にとっては極当然の欲求だった。
ゆっくりと彼を覆うように身体の両脇に腕を立てた。背中を倒すと更に彼との距離が縮まる。⇒ちょっと大胆に
「起きろよ」
言い訳のように呟いた台詞は、だが本音が相まって吐息のようにしか聞こえない。
カラカラに乾いた喉が自己主張をするのを、飲み込んだ唾でなんとかやり過ごす。
目の前で微かに震えた睫毛が彼の意識の有無を暗示しているようで、一瞬動きを止めた。
「起きろよ……起きないと、キス、するぞ」
脅し文句は、その実起きないでくれという願望の表れ。⇒切なさを強調2
スー…と再び規則的な寝息を立てるアロイスに安堵の息をついた。
だがすぐさま視線は唇へと舞い戻る。
「キス…するからな」
断りを入れるのはきっと自分への免罪符だ。
否の声をあげないアロイスに、どこかで逃げ場を作っておきたくて。
腰を屈める。目を閉じる。目前に迫ってるだろう唇に触れるまで、あと少し……
「……ん…ぁ………」
不意にアロイスが大きく寝返りを打つ。ハッと逃げるように身体を引いた自分に我に返った。
「…なに、してんだ……」
こんなことがしたかったわけじゃないのに。
こんなことで、自分たちの関係を崩すつもりはなかったのに。
「くそ……!」
押し殺した声でサイドテーブルに握った拳を打ち付ける。⇒切なさを強調3
その反動で置いていた本がばさりと床に落ちた。
ジンジンと痛みを訴える手のひらを忌々しげに睨み、そっとソファーから離れる。
ついでに剥がれかけた毛布をアロイスの身体にかけ直す。そして、
「ごめん」
露わになった額に、触れるだけのキスをした。⇒切なさを強調4
これでいいんだと、不満をあげる自分を慰めながら。⇒切なさを強調5
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