オヤジ系A

ボーイズ・ラブ界に於いての草分け的設定、中年オヤジ第二弾。
常に年齢的衰退を見せる彼らも、だがだが時に若人以上の熱さを見せることがある。
全ての柵を振り切ったとき、彼らに新たな世界が広がるのではないかと期待してしまうのです。

 


『オヤジとて人である2』

 はじまりはほんの些細なことだった。
 会社の投資先について。
 彼と私が真っ向から対立したのが全てのはじまり。
⇒理由などどうでも良い
 しかし散々口論を繰り返した結果、選ばれたのは私の案で。
 それ以来、彼とは話をしていない。
 
 その日はひどい雨だった。
 何度か雷も落ちて、さながら聖書の世界のようで私は一人書斎の窓からそんな風景をぼんやりと眺めていた。
⇒基本的に一人暮らし
 付けっぱなしのテレビから臨時ニュースが続々と流れる。
「旦那様」
 と遠慮がちに声が掛かったことで我に返った。入りなさい、と声を掛ければ通いの使用人が申し訳なさそうに顔を俯かせ今日の早退を申し出る。
⇒偶然という名の必然
 たしかにこの天気の中、少しでも帰宅が遅れれば無事家に帰ることも危うい。
 そう思い、恐縮がる使用人に快く早退と明日の休暇を知らせた。
 再び部屋に沈黙が訪れる。
「クリス……」
 ふと、彼の名前を呼んでみた。
 ここ数ヶ月、言葉すら交わしていない友人。たった一度のトラブルがこうも尾を引くとは、あの時は思ってもみなかった。
 だが結果的には私の投資案は成功に終わり、それは彼も認めざるを得ないはずだ。
 なのに、なにも言ってこないのが彼の怒りの深さを物語っているようで、こちらから容易に声を掛けることを憚られた。
 ピカッ……と一際明るく空が光った。間を置かず、耳をつんざくような雷鳴が聞こえる。
「………お…」
 灯りが消えた。
⇒結構のん気
 窓の外から赤々とした火が見える。今の雷で火事が起こったのだろうか。
 暗闇の中、時折光る雷だけを頼りに窓に近づいた。
 再び灯りがともる。臨時用の発電器が動いたのだろう。
 付けっぱなしにしていたテレビから再び臨時ニュースが流れた。どうやら今の雷が近所に落ちたらしく、住所と被害の大きさを伝えていた。
 だがそんな身近で事故が起きているとわかっても、特に驚くことはなかった。
 頭をよぎることと言えば火災保険に入ってて良かった、とか。これを機に新築できたら万々歳だな、なんてひどく俗っぽいもので。
⇒オヤジらしさが伺えると良い
「綺麗だなぁ……」
 止まることなく空を照らす雷を見上げ、うっとりと呟いた。
 だがその視界の端で、なにかが動いている。
 なんだろう…と目を凝らしたことで、それが一人の男性の影だということに気づいた。こんな雨の中傘もささずに酔狂だなぁ、とぼんやりとその影を眺める。
 だがしばらくしてハッと目を瞠る。次にガバッと窓枠に両腕をついていた。
「クリス!」
 慌てて窓の鍵を開け、降りしきる雨の中に頭を出した。
 間違いない。近づく影はまっすぐにこちらを向かっている。
 あの身長、あの身体。
 しばらく見ていなかった、だが寸分の狂いなく脳裏に思い描くことのできるクリストファー・オブライエンの姿がそこにあった。
⇒オヤジは時として予想もしない行動を取る
「クリス!なにをしてるんだ!」
 雨音に負けないよう大声を張り上げれば、こちらに気づいた彼がハッと顔を上げる。
 一瞬だけ交わった瞳が微かに笑ったような気がしたのは気のせいか。
 だがそれも、すぐさま窓枠へと近づいたびしょ濡れの彼の様子にかき消される。
「一体…なに……こんな雨の中…」
 巧く言葉にならない。
 目の前で荒く呼吸を整えるクリスを前に、どうしたらいいのかと戸惑うしかない。
 せめてタオルを、と思い直し窓際を離れようとしたところで力強い腕に手首を掴まれた。
「なに………」
「無事、だったんだな…」
 呼吸の合間で苦しそうに聞いてくるクリス。
 久しぶりに聞いた声は、だが相変わらずの響きの良さで激しい雨音の中でもすんなりと耳に届いた。
⇒愛の力で
「無事って、なにが……」
 言いかけて、思い立った。
 先ほどの臨時ニュース。リポーターが口にしたのはここの住所であって、詳しい番地は言っていない。では……
「心配…してくれたのか……?」
⇒オヤジは感動しやすいものである
「…………一応、な」
「こんな雨の中、傘もささずに……?」
⇒傘を差しては感動が薄れるのでタブー
「傘があると逆に邪魔になると思ったんだが、おかげで散々だ」
⇒そして恥ずかしがり屋
 不機嫌そうに言い、ついでにくしゃみをしたクリスに慌てて手近のテーブルクロスを渡す。
「これ…あとあっちに回って玄関から入ってくれば、もれなくお風呂と寝酒がついてくる」
 冗談めかして言えば、わかった、と答える彼がくるりと背を向けた。
 その背中を見てハッとする。
 白いシャツに、無数に飛んだ泥の飛沫。
⇒さりげないアピール
 それは彼が必死に走ってきたことのなによりの証拠で。思わず目頭が熱くなるのを覚えた。
「早くしろよ」
 泣き顔が見られたくなくて、相手を促す。 
 走り出した背中。それを見納め、ゆっくりと窓を閉めた。
 ツン…と痛みを訴える鼻奥と、視界を滲ませる瞳。
⇒オヤジは感動屋さんでもある
 参ったな……と窓に寄りかかり、重厚なビロードのカーテンを引き寄せた。
「あと数分で泣きやまないと」
 微かな鼻声に小さく笑う。
 彼がどんな思いでここに来たのか。
 それを考えただけでこうも感動できる自分を少し情けなく思いながら。
 間もなく鳴るであろう、玄関のチャイムを心待ちに私は小さく鼻をすすった。
⇒希望的終わりが望ましい

 

 

 

いかがでしたでしょうか?
今回の講義で少しでも中年同士のボーイズ・ラブの定義を理解してもらえると
講師冥利につく、というものです。
更に他の講義が受けたいという熱心な受講生は、以下の通路からどうぞ。
本日はご清聴、ありがとうございました。

 

青年系A

青年系B オヤジ系A 講義終了 中立系